72話
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試合場で、俺とギンは向かい合っていた。
――次の試合、本気でやってくれないか。
俺は、その話を受けた。
思えば、じいちゃん以外との戦闘は――ほとんど行っていない。
身体強化習得前のシグルと、少しだけ手合わせ?のようなものをしたことはあるが――正直、実力差がありすぎて、戦闘と呼べるかどうかも怪しい。
つまり、実戦経験が――圧倒的に、少ないのだ。いろんなタイプの相手と戦えたほうがいいに、決まっている。
それに……。
ギンの奴。この数か月、じいちゃんと秘密の特訓をして――何かを習得していそうなのだ。
先日、ステータスを確認した時には――何も、言っていなかった。あの数値は、あくまで自己申告だ。隠そうと思えば、いくらでも隠せる。だから、本気で戦えば――それが、わかるかもしれない。
「ギンお兄ちゃん。本当にいいんだね? 負けても、泣かないでね」
「っけ。言ってろ! 俺が勝つ」
観客も、熱い視線をこちらに向けている。
そりゃそうだ。下馬評をひっくり返して勝ち上がった、子供二人。
すでに、今大会の目玉になっていた。
二人とも、腰を屈めて――戦闘態勢を取る。
ボーン、と鐘の音が鳴った。
足元の土が爆ぜたかと思うと――二人の姿は、かき消えていた。
二人は、試合場の中央で組み合っていた。
俺は蹴りを、顔面へ。ギンは拳打を、首筋へ。お互い、防ぎ合う。ジリジリと、組み合ったまま動かない。
俺は、組み合っているのを解いて――背後へ回り込み、地面に手をついて、蹴りの連打を繰り出す。
ギンも、目で俺を追っている。連打を受けながら――無数の拳打を、返してきた。
目にも止まらぬ攻防が続く。
俺の頬に、一筋の傷が走る。ギンの目の上には、打ち傷ができていた。
ギンの拳打にカウンターを合わせるように――俺の蹴りが、顔に入る寸前。
驚異的な親指の力で、全身を後退させ――ギンは、難を逃れた。
二人の間に、距離が空く。
嵐のような攻防は――ひとまず、鎮まった。
「すげええええええ!」
「なんだ今の! 生まれて初めて見た!」
「なんて動きだ。途中から、ほとんど目で追えなかったぞ……」
「あー、どっちが勝つんだ。金がああああ」
観客は――今日、一番の盛り上がりを見せていた。
「エル。本気って言ったろ?」
ギンが、少し顰めっつらで――そう言った。
「準備運動だよ! それに、ギンお兄ちゃんだって! 本気出してないでしょ!」
俺は、頬を膨らませて反論した。
――それに。
「本当に、いいんだね? 本気で」
それを聞いたギンが――即答した。
「ああ。手加減したら絶交だ」
――わかった。じゃあ、出し惜しみなしでいくね。
魔力を、編む。衣のように、羽織る。
――二枚目を、重ねる。
「累纏・弐」
極度の集中で、時間の感覚がおかしくなる。おそらく、動体視力を含めた様々な感覚器官が、増強されているからだろう。
ギンを、見る。
――見れば、わかる。
絶対に、ギンも何かやっている。
楽しみだ。
俺は、足に力を込めた。
――ボン、と地面が爆ぜる。
一瞬で、ギンに接近し――足に、蹴りを放った。
強化された感覚で、ギンを見る。
反応、できていないようだ。
蹴りが、入る。――その時。
ガキン! 鋼鉄を殴ったような、硬い感触。足が、弾かれた。
その隙を、狙っていたのか。
先ほどよりも、はるかに速い拳打が――俺の右頬に、放たれる。
俺は、五メートルほど吹っ飛ばされ――地面に、着地する。
口の端から、一筋の血。口の中を、少し切ったらしい。
――完全には、相殺できなかったか。
ギンは、胸を押さえて――片膝を、ついていた。
「っ、げほ! まさか、あのタイミングで俺の胸を足場にして――後方へ飛んで、拳打の威力を殺すとか」
――化け物かよ。
ギンが呆れるように呟いた。




