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72/145

72話

いつも読んでいただき誠にありがとうございます。

ブ、ブ、ブックマークと評価をお願いいたします。







 試合場で、俺とギンは向かい合っていた。


 ――次の試合、本気でやってくれないか。


 俺は、その話を受けた。


 思えば、じいちゃん以外との戦闘は――ほとんど行っていない。


 身体強化習得前のシグルと、少しだけ手合わせ?のようなものをしたことはあるが――正直、実力差がありすぎて、戦闘と呼べるかどうかも怪しい。


 つまり、実戦経験が――圧倒的に、少ないのだ。いろんなタイプの相手と戦えたほうがいいに、決まっている。


 それに……。


 ギンの奴。この数か月、じいちゃんと秘密の特訓をして――何かを習得していそうなのだ。


 先日、ステータスを確認した時には――何も、言っていなかった。あの数値は、あくまで自己申告だ。隠そうと思えば、いくらでも隠せる。だから、本気で戦えば――それが、わかるかもしれない。


「ギンお兄ちゃん。本当にいいんだね? 負けても、泣かないでね」


「っけ。言ってろ! 俺が勝つ」


 観客も、熱い視線をこちらに向けている。

 そりゃそうだ。下馬評をひっくり返して勝ち上がった、子供二人。

 すでに、今大会の目玉になっていた。


 二人とも、腰を屈めて――戦闘態勢を取る。


 ボーン、と鐘の音が鳴った。


 足元の土が爆ぜたかと思うと――二人の姿は、かき消えていた。


 二人は、試合場の中央で組み合っていた。

 俺は蹴りを、顔面へ。ギンは拳打を、首筋へ。お互い、防ぎ合う。ジリジリと、組み合ったまま動かない。


 俺は、組み合っているのを解いて――背後へ回り込み、地面に手をついて、蹴りの連打を繰り出す。


 ギンも、目で俺を追っている。連打を受けながら――無数の拳打を、返してきた。


 目にも止まらぬ攻防が続く。


 俺の頬に、一筋の傷が走る。ギンの目の上には、打ち傷ができていた。


 ギンの拳打にカウンターを合わせるように――俺の蹴りが、顔に入る寸前。

 驚異的な親指の力で、全身を後退させ――ギンは、難を逃れた。


 二人の間に、距離が空く。

 嵐のような攻防は――ひとまず、鎮まった。


「すげええええええ!」


「なんだ今の! 生まれて初めて見た!」


「なんて動きだ。途中から、ほとんど目で追えなかったぞ……」


「あー、どっちが勝つんだ。金がああああ」


 観客は――今日、一番の盛り上がりを見せていた。


「エル。本気って言ったろ?」


 ギンが、少し顰めっつらで――そう言った。


「準備運動だよ! それに、ギンお兄ちゃんだって! 本気出してないでしょ!」


 俺は、頬を膨らませて反論した。


 ――それに。


「本当に、いいんだね? 本気で」


 それを聞いたギンが――即答した。


「ああ。手加減したら絶交だ」


 ――わかった。じゃあ、出し惜しみなしでいくね。


 魔力を、編む。衣のように、羽織る。


 ――二枚目を、重ねる。


「累纏・弐」


 極度の集中で、時間の感覚がおかしくなる。おそらく、動体視力を含めた様々な感覚器官が、増強されているからだろう。


 ギンを、見る。


 ――見れば、わかる。


 絶対に、ギンも何かやっている。


 楽しみだ。


 俺は、足に力を込めた。


 ――ボン、と地面が爆ぜる。


 一瞬で、ギンに接近し――足に、蹴りを放った。


 強化された感覚で、ギンを見る。


 反応、できていないようだ。


 蹴りが、入る。――その時。


 ガキン! 鋼鉄を殴ったような、硬い感触。足が、弾かれた。


 その隙を、狙っていたのか。


 先ほどよりも、はるかに速い拳打が――俺の右頬に、放たれる。


 俺は、五メートルほど吹っ飛ばされ――地面に、着地する。

 口の端から、一筋の血。口の中を、少し切ったらしい。


 ――完全には、相殺できなかったか。


 ギンは、胸を押さえて――片膝を、ついていた。


「っ、げほ! まさか、あのタイミングで俺の胸を足場にして――後方へ飛んで、拳打の威力を殺すとか」


 ――化け物かよ。


 ギンが呆れるように呟いた。


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