67話
「テュール祭の開催日が決まったよ」
いつもの、魔法訓練前の作戦会議にて。
ジーンおばあちゃんが、そう切り出した。
「それって――例の、村で一番強い男を決める大会のこと?」
ジーンおばあちゃんは、こくりと頷いた。
「昨日、スクレイが水揚げされたからね。次の満月に開催されるよ」
スクレイは、冬にしか獲れない魚だ。
その水揚げは――冬の到来を意味する。
……いよいよ、か。
「子供たちの準備は、万全かい?」
俺は、ニヤッと笑って答えた。
「村の大人たちには、同情するよ」
――おそらく、威厳やらプライドやらが、粉々に砕かれてしまうだろうから。
――――――――――――――――――
「次のテュール祭は、誰が優勝すると思う?」
仕事終わりの男たちで賑わう、村の飲み屋にて。
「もうそんな時期か! そりゃ、前回と同じくウェールズさんだろ。ってか、それしかあり得ねえ。去年も圧倒的だったしな」
「いや、今年はウェールズさん、出ないらしいぞ。なんでも、子供がまだ小さいから――暴力的なところを見せたくないんだとよ」
「へえ。子供にこそ、強いところを見せたほうがいいだろうに。変わった考え方をする人だな」
「ああ。それにあの人、村一番の男になっても、特に権力を振りかざすでもなく、謙虚に暮らしてるみたいだぜ」
「マジかよ。俺だったら、自慢しまくって我が物顔で遊びまくるけどなー」
「そんなんだから、お前はダメなんだよ。とにかく、ウェールズさんが出ないとなったら――誰が勝つんだ?」
「そりゃ、自警団の誰かだろ。ハラルドあたりになるんじゃないか?」
「グンナルも、最近腕を上げてるって聞くぞ」
あちこちで、そんな品定めの声が飛び交っている。
四年に一度のテュール祭は、村にとって最大の娯楽なのだ。
「あ、お前の嫁も出たら、いいとこ行くんじゃないのか? っへっへ」
酒で頬を赤くした男が、茶化すように言った。
「……」
もう一人の男は、神妙な顔で眉をひそめる。
「……お前も、そう思うか?」
「っはっはっは! おもしれーその返し、気に入ったぞ!」
「違う! 本当なんだ! 最近、嫁がおかしいんだよ!」
あまりの必死さに、赤ら顔の男は――笑うのをやめた。
「おかしいって、何が」
「それがよ……異様に、機嫌がいいんだ」
「いいことじゃねーか」
「違うんだ。毎日不機嫌だったのに――俺が呑んで夜遅く帰っても、何も言わねーんだ。それどころか、おやすみって、声をかけてくれたりする。おかしいだろ」
「そりゃおかしいな。呑んで帰った日にゃ、口も利いてもらえねーのが世の常ってもんなのに……」
「おかしいのは、それだけじゃないんだ。最近あいつ……綺麗になってんだよ」
「惚気かよ」
「いや、本当なんだ! 何だかウエストも細くなってるしよ、肌にもハリがあるっつーか……」
「……もしかして、それ、男じゃないのか? 女は恋をすると綺麗になるって言うだろ」
「俺も、それを疑ったんだが――そんな雰囲気は、一切ないんだよ。それに、まだあるんだ……これを見てくれ」
そう言って、服の首元から肩をあらわにして見せる。
「うわ! 何だそれ!」
見ているだけで同情してしまうほどの、赤黒いひどいアザ。
しかもそれは――くっきりとした手のひらの形をしていた。
「これは、嫁に『綺麗になったな』って言ったら、照れて肩を叩かれてな。そしたら俺、家を突き破って外まで吹っ飛ばされたんだ。その時のもんだよ」
「叩いた? 丸太でぶっ叩かれたんじゃなくてか? そうでもなきゃ、こんなアザにゃならねーだろ」
「だろ? だからおかしいんだよ。何だか最近は、婆さんの方までおかしく思えてきてな」
「ふーん。まあ、夫婦円満そうなんだから、いいんじゃねーの? ……とはいえ、しばらくは嫁を褒めるのも怒らせるのも、控えたほうが良さそうだな。下手すりゃ、首が飛んでくかもな。っはっはっは」
男はそう笑い飛ばした。他人事だと、思っていたから。
だが、もう一人の男は――その光景を、まざまざと思い描いてしまう。
そして、顔を青くした。




