66話
翌日、シグルが俺たちのもとへ合流した。
最初こそ気まずそうにしていたが――家より高く跳躍する元手下たちや、目にも留まらぬ速さで模擬戦を繰り広げるギンとエイリクの姿を目にするなり、目の色が変わった。
早く、追いつかないと。
そんな、やる気に満ちた表情に。
これで、男子メンバーは――全員、揃ったことになる。
あとは、全員の身体強化訓練を完了させ、戦ごっこで集団戦闘の感覚を掴めば――なんとかなる気がしてきた。
いい感じだ。
一方、奥様会のほうも――すこぶる順調らしい。
俺が担うのは、もはや魔力同調による魔力の知覚だけだ。
そこから先は、ヨガのような体操を通じて、各自で身体強化の発動まで持っていけるようになっているとのこと。
今では、奥様方の大半が身体強化を発動できるようになっており、皆一様に――ジーンおばあちゃんが謳っていた通りの効果を、実感しているらしい。
もはや、身体強化そのものに、本当にそういった効能があるんじゃないか――そんな風にさえ、思えてきた。
そして、ヨガ教室の輪は、奥様方だけに留まらない。老人や、母親についてきた女の子たちにまで――静かに広がりつつあった。
こちらはもう、放っておいても勝手に広がっていくだろう。
順調で、何より。
俺はといえば――もっぱら、魔法と戦闘訓練だ。
魔法で最近取り組んでいるのは、主に二つ。
一つは、すでに習得済みのサンダーガンを――いかなる状況でも、限りなく速く発動できるようにする訓練。
焦っている時。絶対に外せない時。さまざまな状況を想定しては、繰り返す。
じいちゃんとの模擬戦でも積極的に取り入れている。
ほとんど当たらないけど。
ジーンおばあちゃん曰く、これはとにかくひたすら数をこなすしかないとのこと。
根気のいる訓練だ。
そしてもう一つが――新魔法の開発である。
「探知系の魔法はないのかって?」
ジーンがそう聞き返した。
「うん。そういう魔法が、どんな仕組みになっているのか――参考にしたくてさ」
そう思って、ジーンおばあちゃんに聞いてみることにした。
「もちろんあるよ。私が知ってるのは風属性のエアーカーテンと土属性のサンドセンサーだね」
エアーカーテンは風を漂わせ、風に触れたものを察知すると言うもので、
そしてサンドセンサーは砂を通して相手の所在を知れると言うものらしい。
どちらも、長時間の発動が可能だが、エアーカーテンは半径10メートルの範囲で、
サンドセンサーは砂を通してしか、つまり陸でしか効力がない。
それではダメなのだ。
ヴァイキングの襲撃をなるべく早く察知できるようにしたい。
具体的には、数百メートルの距離では検知したい。
しかしジーンおばあちゃんの話はヒントにはなりそうだ。
「ねえ。風とか土にしか探知がないのって、どちらも術者と現象が自然の風や土を通して間接的に繋がっているから?」
「――正解、と言っていいと思うよ」
ジーンおばあちゃんは、感心したように目を細めた。
「風も土も、どこにだって、もとからあるものだろう? だから、魔力を風や土に変換したときは、その辺りに存在している"本物"の風や土に、そのまま馴染ませることができる」
「けど、火や水はそうはいかない。あれは、"元々ないものを、無理やり生み出している"ようなものだからね。生まれた瞬間から、術者の手を離れて独立した現象になっちまう。遠くまで繋がりを保つのには――向いてないのさ。それに関しては多分雷も一緒だろうから難しいんじゃないかね」
――なるほど。
これは、前提知識そのものが、大きく違う。
まず、第一に。
水は、普通に空気中へ存在している。ジーンおばあちゃんがそれを知らないのなら――イメージの構築ができないのも、当然の話だろう。
そして、第二に。
電気も、実は――空気中に、存在している。
水と同じように、目には決して見えない。だが、確かに存在する。
ここで一番重要なのは――それを、知っているということだ。
知ってさえいれば、それだけで、イメージの構築は可能になる。
前世の知識と、ジーンおばあちゃんの魔法から得たヒント。
その二つを組み合わせれば――俺だけの探知魔法が、作れるはずだ。
参考にするなら、土よりも――風、だろう。
おそらく、ほとんど同じ効果を持つ魔法は、すぐにできる。イメージは、もう固まっている。
だけど。
数百メートルの範囲すべてを察知するとなると、情報量が多すぎる。
加えて、それをずっと維持し続けるとなれば――魔力の消費も、馬鹿にならない。
範囲が狭ければ、十分に有用だ。だけど、今回のニーズには合わない。
だったら。
……リング状にして、範囲だけを広げたらどうだろうか。
大気中の電気を通して、自分とリングを繋いでおけば――きっと、察知できる。
早速、試してみることにした。
自分を中心に、目には見えない微弱な電気のリングを展開する。そして、紐のようなイメージで――大気中の電気を通して、自分とリングを接続する。
――発動、成功。
魔力の消費も、思った通り極めて少ない。これなら、常時展開させておくのも難しくない。
「ジーンおばあちゃん! ちょっと、こっちに歩いてきて!」
ランを指導していたジーンおばあちゃんは、俺が何かを試していることを察したのか、素直にこちらへ歩いてくる。
そして――ジーンおばあちゃんが、リングに触れた瞬間。
微弱な電気が、リングから俺のもとへと送られてきた。
「お! 来た!」
「うまくいったのかい?」
「うん。名付けて――サンダーサークル! 僕だけの、探知魔法だよ!」
ジーンおばあちゃんは、よくやったとばかりに、俺の頭を撫でてくれた。
そして――サンダーサークルの原理を説明すると、ジーンおばあちゃんは、またしても驚愕するのだった。
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