表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/120

65話

ブックマークと評価を是非。

励みになります。

 シグルは、海辺を一人、歩いていた。


「親父が、嘘をついた……」


 母親が亡くなってから、シグルはずっと、父親を頼りに生きてきた。

 いつも、自分のことを一番に考えてくれる。いい父親だと――そう、思っていた。


 それが。


 嘘をついて、他人を盗人呼ばわりするなんて。


 なんて、ひどい。


 ……いや。


 自分だって、ギンには、ひどい態度を取ってきた。同罪だ。

 でも――俺は、親父がそう言うのを聞いただけだ。悪くない。


 いや、悪いのは。


 ――ぐるぐると、思考が渦を巻く。答えの出ない自問自答が、何周も繰り返されていく。


「くそ! くそくそ! ちくしょー!!」


 仲間は、もう誰もいない。

 みんな、ギンに――奪われた。


 ギンの、やつめ。


 ……俺も、あっちに混ざれば。


 まだ、間に合うだろうか。


 ――そんなこと、できるわけがない。

 ギンに、あんなにひどい扱いをしておいて。


 ……寂しい。


 ギンは、ずっと、こんな気持ちだったんだろうか。


 本当に、悪いことをした。


「よお」


 まさか、自分以外に誰かいるとは思っていなかった。シグルは、驚いて振り返る。


 そこには――気まずそうな顔をした、ギンが立っていた。


「……おまえ。いつから」


「えーっと、今来たとこだよ。だから、お前が"ちくしょー"って言ってたのは聞いてないから、安心しろ」


 シグルの顔から、さぁっと血の気が引いた。


 だが、すぐに気を取り直し――今のやり取りを全部なかったことにして、精一杯、威圧的な声を出す。


「何の用だ!」


「……そのよ。話が、したくてな」


「お前とする話なんてない! 消えろ!」


 シグルは、砂を掴んで、ギンに向かって無造作に放り投げた。


 ギンは、何事もなかったかのように砂を避け――するり、と、シグルの背後へと回り込む。


「……悪かったよ」


 いつの間にか見失っていたギンの声が、真後ろから聞こえた。シグルは、ぎょっとして振り返る。


「……は? なんて言った?」


 シグルは、顔から筋肉が抜け落ちたような、間の抜けた顔で聞き返した。


「だから……悪かったよ」


 もう一度聞いても、意味が理解できない。


 どう考えても、悪いのは自分だ。父親の戯言を鵜呑みにして、ギンとギンの父親を、罪人扱いした。そして今、勝手に孤立して、勝手に寂しがっている。


 ……どう考えても。


 悪いのは、自分だ。


「……俺だろ。俺が悪いだろ!! 頭腐ってんのか!? 何でてめーが謝るんだよ!」


 シグルは、カラカラに掠れた声で、泣きそうになりながら叫んだ。


「違うんだ。お前の親父は、嘘をついてない。俺の父親も――盗人じゃ、なかったんだ」


「は? 何、訳わかんねーこと言ってんだよ」


「本当だ」


 ――低い声が、割って入った。


 サンドルが、いつの間にか、浜辺まで来ていた。


「親父……いったい、どういう……」


「あの日――備蓄金がなくなる前日。俺と、ギンの父親のローグは、二人で呑んでいた」


 サンドルは、ゆっくりと、言葉を選びながら語り始めた。


「ローグが、長い旅に出るって話だったんでな」


「え? じゃあ――ギンの父親と、父ちゃんは……」


「友達だ」


「え? でも……話してるところなんて、一度も見たことないよ?」


 シグルの問いに、サンドルは、少しの間、黙り込んだ。


「大人には……色々あるんだ」


「説明してよ」


 シグルの目が、有無を言わさぬ光を宿している。


 サンドルは、観念したように、ゆっくりと息を吐いた。


「……お前の母ちゃん、ヘルガはな。昔、ギンの親父のことを――好いていたんだ」


「え……」


「だから、それもあって、なんとなく――俺とローグは疎遠になっていた」


 サンドルは、一度、目を伏せる。


「だが、な。あの晩の一週間前――ヘルガが、病気で死んだ」


「……」


「それで、俺たちは久しぶりに酒を酌み交わして――ヘルガのことを、弔ったんだ」


「それで、何で備蓄金の話になるんだよ」


「あの備蓄金は、な」


 サンドルは、そこで一呼吸置いて。


「……全額、ローグが寄付した金なんだよ」


「え?」


 シグルの声が、掠れた。


「ローグは、都会で儲けた金を――少し前に、村へ寄付していたんだ。あいつは、村長とも知り合いでな。"村のために、何かでっかい催しでもしろ"――みたいな感じで、寄付をしたらしい」


 サンドルは、当時を思い出すように、遠くを見た。


「そんな時に――俺が、ヘルガのことで、"シグルの面倒をちゃんと見られるか"不安を漏らしたんだ。そしたら、ローグの奴が――寄付した金を、俺に渡すって言い出してな」


「……」


「俺は、断ったんだが。ローグは、村長にもすぐ話をつけちまった」


「それで――村長は、既に"備蓄金として寄付された"って村に周知していたもんだから、無断で無くなったんじゃまずい、ってことになってな。どうせしばらく村を離れるローグ自身が"盗んだ"ってことにして、疑惑のまま保留にしよう――ってことになったんだ」


「でも、それだったら……帰ってきてから、追及されるんじゃ……」


「次はもっと大金を寄付して、有耶無耶にするらしいぞ、あの馬鹿は」


「バカ親父」


 ギンが、額に手を当てて、大きく嘆いた。


「それで、俺は――情けない話だが。ローグの筋書き通り、あいつに罪を被せて、備蓄金を受け取ったんだ」


「そう……だったんだ」


「金は、いつか必ず返す。だから、お前は心配しなくていい」


 父親の性分から言って――金を受け取るのを、頑なに拒んだであろうことは、想像に難くない。

 だが――自分を育てるために、その意地を曲げたのだと。シグルは、なんとなく、気づいていた。


「父ちゃん。ごめん。嘘つき呼ばわりして」


「俺に謝ることなんて、何一つない。実際に、嘘をついてるからな」


 そう言って、サンドルは、シグルの頭を、乱暴に撫でた。


「でもな。ギン君にしたことは――許されることじゃない」


「……はい」


 サンドルは、シグルの目を、まっすぐに見据える。


「人はいつだって――変えられるのは、これからの行動だけだ」


「はい」


「天国の母さんを、泣かせるな。……もう、あとは、わかるな」


 シグルは、深く頷くと。


 ギンの正面に、まっすぐ立った。


「ギン」


「お、おう」


「今まで――嫌な態度を取って。本当に、すまなかった」


 シグルは、目を瞑り、深く、深く――頭を下げた。


「……いいよ。俺は全然」


 シグルは、まだ、顔を上げられない。


「お前……いや、シグルに、爪弾きにされてから――正直、しばらくは寂しかったけどよ」


「そのあと、面白い近所の子供と知り合ってな。そいつとつるむのが――楽しくって」


 ギンは、そう言って、楽しそうに笑った。


「だから、大丈夫。謝ってもらって、スッキリもしたし」


 シグルが、そっと、顔を上げる。


「だから――明日から、俺らのとこ来いよ。みんな、待ってるぞ」


 シグルは、少し気まずそうに――それでも、確かに頷いた。


「わかった。……行くよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
子供は反省出来てえらいけど どっちの父親も罪深い、村社会で盗人の子供とかこの程度の扱いで済まなくてもおかしくない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ