表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/119

64話

「はて、シグルねぇ……ああ、サンドルの倅か」


 魔法の訓練が終わった後、俺はジーンおばあちゃんに、ギンから聞いていたあの話を尋ねてみた。


「覚えとるよ。あの件なら――サンドルとギンの父親、ローグは、昔はそれはもう、仲が良かったんだ。二人とも、この村で育ってね。それが、いつの頃からか、一緒にいるところを見なくなった」


 ジーンおばあちゃんは、遠くを見るように目を細める。


「何かで、仲違いでもしたんじゃないかね」


 ――ふむふむ。


「それもあってね」


 ジーンおばあちゃんは、少し声を落として続けた。


「今、村にいないローグを、一方的に犯人とするのは、よろしくないだろう――ということで。あの事件は、保留のまま、今じゃもう、有耶無耶になっとるよ」


 ――なるほど。


「……わかった。ありがとう」


 俺は、そう言って頭を下げた。


 ――これは、もしかして。


 ギンの父親が、村を離れることを見越したうえで、罪を被せたパターンかもしれない。


 だとしたら――最低だ。


 そして、シグルも、きっとショックを受けることになるだろう。


 ……とはいえ、まだこれは、推測の域を出ない。


 俺は、実際にシグルの家へと足を運んでみることにした。


 村の東側、海沿いの一角。


 軒先に、屋根へと立てかけられた漁師船が見える。


 ――うちと、同じ漁師か。


 まあ、この村はほとんどが漁師だから、珍しくもないんだけど。


 壁板の隙間から、中の様子が覗けた。俺は、そっと目を寄せる。


 肩まで伸びた髪を、後ろで一つに括った少年。


 ――シグルだ。


「ねえ、父ちゃん」


 シグルは、漁で使うのだろう網を、黙々と結いながら、ぽつりと父親に問いかけた。


「ギンの父親って……盗人、なんだよね」


 ――その一言に、網を結う手が、ぴたりと止まる。


「その話は、するな」


 サンドルの声は、低く、硬かった。


「前にも、言っただろう。そんなことよりも――仕事をしろ」


「……負けたんだ」


「なんだ。よく聞こえん。大きな声で言え」


「ギンのやつの父親が、備蓄金の犯人だっていうことを――賭けて、決闘して。負けたんだ!」


 網を結っていたサンドルの手が、止まる。


 驚いた表情で、サンドルは、ゆっくりとシグルのほうを振り返った。


「おまえ、なんで……そんなことを……」


「負けた、ってことは」


 シグルの声が、震えていた。


「――嘘をついてるのは、父ちゃんか。神々か。どっちかだって、ことだろ……!」


「っ……な!」


 サンドルが、絶句する。


 その隙に――シグルは、涙をぼろぼろとこぼしながら、家を飛び出していった。


 俺は、とっさに屋根の上へと跳躍し、飛び出してきたシグルと鉢合わせにならないよう、身を隠す。


「……ったく。どうしたもんか。あいつが、あんなことを……」


 サンドルが、頭を抱えるように呟いた。


「……あの。こんにちは」


「うわぁっ!?」


 サンドルが、飛び上がらんばかりに驚いて振り返る。


「い、いつの間に……! どこの子だ!」


 俺は、サンドルの背後に、そっと飛び降りていた。


 ――もちろん、じいちゃんとの訓練の成果で、着地の音は、ほとんど響いていない。


「シグル君のことで……少し、聞きたいんですけど」


 俺は、努めて丁寧に、そう切り出した。


「……はぁ」


 サンドルは、まだ動揺の抜けきらない顔のまま、そう呟くように答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ