63話
さらに一か月が経った。
子供たちへの身体強化の習得は、ほぼ完了と言って差し支えない。
ほとんどの者が、最低三十分は発動を維持できるようになっていた。
みんな、やる気は十分だ。この調子なら、発動時間は日増しに伸びていくだろう。
あとは――純粋な、戦闘技術。
ヴァイキングの襲撃に備えるなら、強くなればなるほど、生き残る可能性は上がる。
しかし、じいちゃんへの師事は――正直、結構大変だ。
なんせ、"親指のみを鍛える"という地獄から始まるのだ。
せっかく皆モチベーション高くここまでこれているのだから、なにもこのタイミングで冷や水をかけることもない。
あの日、涙目で親指立ちに耐えていたランとギンの顔を思い出す。
こんな年齢の子たちが、全員耐えられるとは――微塵も、思えない。
……まあ、自分たちのことは、棚に上げるのだが。
そこで、以前行っていた"戦ごっこ"を再開することを、提案した。
ただの戦ごっこではない。身体強化を使った、戦ごっこだ。
以前までの、木剣や盾を使ったお遊びとは、わけが違う。
今や全員が、飛び上がれば家の屋根を超え、思い切り走れば馬にも追いつける。
……そんな状態で戦ごっこをすれば、立体的な戦闘、戦術、集団戦闘、さまざまな要素が絡んでくる。きっと、面白いことになる。
それはいいとして。
問題は――シグルだ。
何度か、元オーディン軍の連中に、シグルを連れ出すようお願いしてみたのだが。
「裏切り者!」
「軍から除名する!」
そのたびに、そんな言葉を投げつけられて、追い払われる。
――まったく、取りつく島がないらしい。
「あー、それ多分、俺のせいだな」
事情を知っていそうなギンに、聞いてみることにした。
「それが――俺も、記憶が曖昧なんだけどな」
ギンは、こめかみを抑えて記憶を手繰りながら、ゆっくりと語り始めた。
「俺が、エルと同じか、ちょっと大きかった頃――あいつと、揉めた記憶があるんだよ」
「何で、揉めたの?」
「それがなあ」
ギンは、少し気まずそうに、頭を掻く。
「あいつの親父が――俺の親父が、村の備蓄金に手を出して消えた、って告発してな」
「え? それ、本当だったの?」
「まさか」
ギンは、即座に首を振った。
「ただ、俺の親父は――村から長期間離れる仕事をしててな。今、村にはいないんだ」
「それなら、なんで疑われるの?」
「その備蓄金がなくなったことが発覚した日の前の晩に、親父は仕事に出たみたいでな。そして備蓄金がしまっている金庫に親父が入るのを見ったってシグルの親父が騒いだんだ」
「なるほど。それで、疑われたのか」
「だと思うんだけどな」
ギンは、小さくため息をついた。
「でも、執拗に――俺の親父を名指しで、犯人扱いしてくるんだよ。……たぶん、その影響を、シグルも受けてるんだろうな」
「そこから、嫌がらせみたいなことも、されたんだよ。……まあ、もう、あいつらと付き合うのをやめてからは、関わってこなくなったけどな」
ギンは、ふっと表情を緩めて、続けた。
「その後にお前と、遊ぶようになったんだ」
そうだったのか。
ギンの父親に会ったことないから、
そんなことをするはずがないと一概には言えない。
困ったな。
そりゃシグルは親のいうことを信じる。
ギンも自分の親は無罪だと思っている。
ちょっと調べてみるか。




