61話
午後は、じいちゃんとの訓練。
この二か月、ひたすら親指を中心に鍛えてきた。
今では、何度も親指の皮が破れ、硬くなり、また破れる――その繰り返しだ。
こんなの、意味があるのかと思っていたのだが。
じいちゃんとの模擬戦で、徐々に成果が現れ始めている。
移動はもちろん、拳打、足技――戦闘アクション、そのすべての出力が上がっている気がするのだ。
……もっとも、いつもボロボロに負けるので、あまり実感はないのだが。
「よし、親指はここまでじゃな。ほれ、三人ともかかってくるんじゃ」
ランとギンも、今では一時間半の親指トレーニングに耐えられるようになっていた。
俺はといえば、一か月前にじいちゃんから"次のステップ"を言い渡され、親指だけでのジャンプを、ひたすらやらされている。
「あ、エル。今日から魔法つかえるんじゃろ?――魔法も使っていいぞ。実戦で使えなければ、無用の長物じゃからな」
……え。魔法、使っていいのか。
でも、まだサンダーボールとサンダーガンしか使えない。
サンダーボールは、戦闘にはほとんど使えないし。サンダーガンは、逆に強すぎる。
いくらじいちゃんでも――大丈夫かな。
「何を気にしとるか知らんが、遠慮するな。やれ」
……確かに。じいちゃんだし、大丈夫か。
「じゃあ――ギンお兄ちゃん、ランお姉ちゃん。じいちゃんに、隙を作って」
二人は頷き、じいちゃんへと飛びかかった。
身体強化による、生身の人間とは隔絶した速度。
しかし、じいちゃんは――意に介していない。
左手でギンの横っつらを、右足でランの脇腹を蹴って、あっさりと跳ね飛ばす。
その瞬間。
指先をじいちゃんへと向けていた俺は、サンダーガンを放つ。
一瞬の、雷の軌跡。
じいちゃんの右胸を、貫い……てない。
――しまった。
じいちゃんは、ギンとランを弾き飛ばした直後、既に、その場から離脱していた。
俺のサンダーガンは――じいちゃんの、虚像を貫いたのだ。
気づいたときには、後頭部に手刀を叩き込まれ、気絶させられていた。
「さっきのは、全然だめじゃのう」
――反省会である。
「まず、ギンとラン。攻撃の威力とスピードは申し分ないが――本来の目的は、エルの魔法を当てるための時間稼ぎじゃろう。それなら、ワシの目を隠すような攻撃をせにゃならん」
「「・・・・・・はい」」
「そして、エル。魔法に過信したらいかんぞ。魔法が外れたとき、効かなかったときの想定は、常にしておくことじゃ。さっきのは、わしの反撃にまったく反応できとらんかった」
……おっしゃる通りだ。
魔法が使えるようになったからといって、魔法に頼りすぎるのは良くない。
あくまでも、選択肢のうちの一つ――そう思っておかないと、油断の一瞬で、足元をすくわれることになりかねない。
気をつけないと。
ーーその後もじいちゃんとひたすらぶつかり稽古を行った。
しかし、じいちゃんの動きが早すぎて、照準を合わせることすらできない。
結局三人そろってぼこぼこにされた。
二か月間毎日ぼこぼこにされている。
そろそろ、一矢報いたい。
なにか考えないと。




