59話
二ヶ月後。
エランギルン軍の兵士たちは、身体強化の訓練の真っ最中だった。
「だぁー、しんどい! 身体強化を三十分も続けるなんて、本当にできるようになるのかよ!?」
元トール側の――ダンが、肩で息をしながら、そんな弱音を吐く。
「間違いなく、できる」
ギンが、涼しい顔でそれに答えた。
「俺も、今じゃ日中は常時維持できるようになったからな。毎日やってりゃ、魔力そのものが増えて、持続時間も伸びてくるんだとよ」
ニヶ月前、エランギルン軍へと降った――もう一つのトール側のメンバーたちは、既に全員、俺の魔力同調を使って、身体強化の習得を終えていた。
そこから先は、俺の手を離れ――ギンの監修のもと、身体強化の持続訓練と、模擬試合による戦闘訓練を、日々こなしている。
誰もが、「強くなりたい」その一心で、真面目にこつこつと精進を続けていた。
特に――エイリクに至っては。
今や、ギンとそこそこの勝負を演じられるほどにまで、成長を遂げていた。
――さすが、元トール側の頭だっただけのことはある。
そして――もう一方の、シグル一派のほうにも、動きがあった。
トール軍の面々が、身体強化を習得して、跳んだり跳ねたりとはしゃぎ回っているのを見て――シグルを除いた全員が、こちらに「仲間に入れてほしい」と、揃って懇願しに来たのだ。
……どうやら、シグルは、仲間から見放されてしまったらしい。
話を聞いてみれば、シグルへの不満が――もう、出るわ出るわ。
これ、今回のこと(ギンとの一件)がなくても、遅かれ早かれ、内部から反乱が起きていたんじゃないか。そう思うほどの量だった。
――まあ、それはともかく。
これで、男子はほとんど手中に収めた形になる。だが、シグルについては――また、別に何か手を打たなければいけない。
俺は、できれば全員を助けたい。
そして俺自身はといえば、日々、魔法の訓練、じいちゃんとの訓練、そして――奥様方の集まりへの参加、という日々を送っていた。
もちろん、そちらでも並行して、身体強化を仕込んでいる。
表向きは、あくまで「エクササイズ」。
だが、本当のところは――魔力の知覚と、体術関連の訓練だ。
ランのお母さんは、既に習得を終えていて、寝ている時以外は、ほぼ常時発動させられるほどになっていた。
本人曰く――
「家事が、驚くほど手早く終わるし。ボディラインも整うし。便通も良くなったし。お肌も、なんだか良くなった気がするのよねぇ……」
とのこと。
――ジーンおばあちゃんが最初に言っていた、あの"詐欺みたいな触れ込み"。
それが、いつの間にか、本当のことになっている。
しかも――身体強化を、そこまで長時間持続させるのって、最初は結構キツいはずなんだけど。
……女の人って、本当にすごいな。




