58話
その後、俺とランはその場に残り、魔法の訓練を続けた。
魔力圧縮。
文字通り、魔力を圧縮する工程だ。これも――一日で、一応できた。
これには、ジーンおばあちゃんもまた驚いてくれたのだが。
「実戦じゃ、もっともっと――スピードを上げないと駄目だよ」
そう言って、ばあちゃんは実演の速度を見せてくれた。
――0.1秒ほどで、圧縮作業が終わっていた。
「四工程のうち、これが一番時間のかかる工程でね。だからこそ、大事なんだよ」
……これは、練習でスピードを上げていくしかなさそうだ。
ちなみにランお姉ちゃんは圧縮する感覚が掴めずに苦労していた。
訓練のあと、ジーンおばあちゃん担当の作戦の進捗を聞いた。
「息子の嫁に話したら――すぐに食いつきよったわ。また、日取りが決まったら言うよ」
作戦とは――ジーンおばあちゃんが、前世でいうところの"ヨガ"のようなものを、ランのお母さんに教えるというもの。
そうしてランのお母さんに身体強化を会得させたあと、主婦のネットワークを使って、盛大に広めていってもらう――という段取りだ。
「ちなみに、どんなふれこみで話したの?」
「家事育児の負担が減って――あとは、ダイエット、姿勢改善、美肌、便秘改善あたりかのう」
「え、身体強化って、そんな効果まであるの?」
「いや、ないが」
――ないのかよ。
詐欺じゃねーか。
それも、広め方まで含めて、まんま"ねずみ講"じゃないか。
「あー、勘違いするんじゃないよ」
ジーンおばあちゃんが、じとっとした目で俺を見た。
「間接的には、そういう効能が無いとは言えん。身体強化で運動をすることで、多くの力を消費することになる。そうすると、痩せるし、便秘も解消する。……たぶん。便秘が解消したら、肌の調子も良くなる。……気がする」
――ほんとに、いけるのか?
ランのお母さんに、どれだけの効果を実感させられるかにかかっているな。
まあ――ジーンおばあちゃんが、うまくやってくれるだろう。
何にしても子供と女性へのアプローチは、順調と。
そのあとは、いつも通り――じいちゃんとの訓練だ。
今日もひたすら、親指一本で立ち続けた。地味で、地道で、そして確実に効いてくる訓練。
終わる頃には、足の感覚がほとんどなくなっていた。
ふらつく足取りのまま、ランやギンと別れて、家路につく。
――今日も、へとへとである。
だけど、不思議と足取りは軽かった。
布団に入りながら、今日一日を振り返る。
……そういえば。
こうして数えてみると、やること、ずいぶん増えたな。
まず、子供たちへの指導。
エイリクたちを筆頭に、"エランギルン軍"の少年たちへ――これから、身体強化の手ほどきをしていくことになる。人数が増えるほど、教える手間も、目を配る範囲も、比例して膨らんでいくだろう。
次に、主婦たちへの身体強化の普及。
ジーンおばあちゃんが、ランのお母さんを皮切りに広めていってくれる予定だ。……正直、あの"ふれこみ"で本当にうまくいくのか、まだ半信半疑ではあるけれど。ここは、任せるしかない。
そして、自分自身の強化。
魔法。親指。累纏の強化。――やることは、数えるだけで気が遠くなるほどある。
どれか一つでも止まれば、きっと――村を守るという目標そのものが、揺らいでしまう。気がする。
やるしかないんだよな、これは。
瞼が落ちてくる。
明日もまた、朝から忙しい一日になりそうだ。
そう思いながら――それでも、眠気と闘いながら、日課の訓練を終える。
それから、ようやく目を閉じた。
近々一ヶ月一気に進めます。




