52話
午後になり、俺は魔法の訓練のため、ランの家へとやってきていた。
作戦の進捗を共有するため、いつもより少し早めの集合である。
……そして、じいちゃんも中庭にいた。
「ほうほう。さっそく、例の作戦をやってきたのか」
卓につくなり、ジーンさんが真っ先に食いついてきた。
「うん。明日、ここに連れてくるよ。何人来るかは、明日になってみないとわからないけどね。……まあ、何人かは、来るんじゃないかな」
じいちゃんが、卓に頬杖をついたまま、口を開く。
「順調のようじゃな。わしも――報告が、あるぞ」
――そういえば。
じいちゃんは今朝、「ちょっと調べ物に行ってくる」と言って、出ていったんだった。
「ここより、ずっと東の港町――ガウロスまで、行ってきたわい」
「そこで、おそらく――リンドンを襲ったヴァイキングの情報が、手に入った」
じいちゃんは、卓の上のはちみつ寒天をひとつ口に含んでから、ゆっくりと語り始めた。
「ヴァイキングらしき連中が、三日前――港町の居酒屋で、どんちゃん騒ぎをしておったそうじゃ。店主が言うにはな、"今回の仕事はいい金になった"と、全員が上機嫌で、浴びるように酒を飲んでいたらしい」
――胸の奥が、ざわつく。
「そして。一際大きな体躯の――三本角の兜を被った男が、こう言っていたそうじゃ」
じいちゃんは、そこで一度、言葉を切った。
「"次は二年後だ。今度は内地。行けるところまで、行く"――とな」
――二年後。
内地。
三年、じゃない。二年。
そして次は、ここを足がかりに――内地へと、攻め入るつもりらしい。
……猶予が、一年、縮んだ。
嫌な、報せだ。
拳の内側に、じわりと汗が滲むのがわかった。
「ブラッドファング傭兵団のほうも、ついでに調べてきたわ」
じいちゃんは、努めて軽い調子で続けた。
「今の団長は――守銭奴でな。金さえ積まれれば、なんでもする。……そういう、嫌な評判を耳にしたわい」
「……信用、できるの?」
「対価を払えば、それなりには動くじゃろうよ。……先代の団長とは、知り合いだったんじゃがな。今の代は――わしも、知らん」
そう言って、じいちゃんは、また一つ、はちみつ寒天を口に運んだ。
ジーンさんが、深く長いため息をついてから――気持ちを切り替えるように、両手で自分の膝を、ぱんと叩いた。
「さ。――私たちがすることは、一刻も早く、作戦を進めること。そして……」
俺と、ランの頭に。
おばあちゃんの手が、そっと乗った。
「あんたらを、強くすることだよ」
――そのあと、じいちゃんは家を後にした。
ギンに、稽古をつけてくるらしい。
俺たちは――魔法の訓練だ。
「じゃ、エル。復習だよ。魔法の発現までのプロセスを、言ってごらん」
「はい」
俺は、姿勢を正して答える。
「イメージの構築――起こしたい現象を、具体的に思い描く。魔力の圧縮――体内の魔力を練り、圧縮する。属性への変換――魔力を、火や水などの属性エネルギーに変換する。現象の維持――発現した現象を、制御し、保つ。……以上です」
「よろしい」
ジーンさんは、満足そうに頷いてから。
「それじゃ、今日は――"イメージの構築"の練習から始めるよ」
と、続けた。
「自分の属性のイメージを、魔力で造形してみな」
――さて。楽しい魔法の時間だ。




