51話
「ギンお兄ちゃん! やったね!」
俺の目論見通り、ギンがたった一人で敵味方合わせた全員を沈めたのを確認してから、俺はランと一緒に、丘の上から駆け寄った。
「やったねじゃねーよ! 騙しただろ、エル!」
ギンが、肩で息をしながら、俺に食ってかかってくる。
「いいじゃん。なんか、わだかまり、あったんでしょ? スッキリした?」
――その一言に、ギンの顔が、ぎくりと強張った。
「……めっちゃな」
目線を合わせないまま、ギンは、ふっと笑みを浮かべてそう言った。
「なに? あんたたちだけで、内緒話?」
ランが、頬を膨らませながら割って入ってくる。
「なんでもねーよ。関係ない」
「関係ないってなによ!」
ランは、ずいずいとギンに詰め寄った。
「なぁ、それより……」
ギンは、話をそらすように、ランへと向き直る。
「見てたか?」
「見てたって――あんたのこと? もちろん、見てたわよ?」
「どう、思った?」
ランは、腕を組んで、少しの間、考え込むようにしてから答えた。
「……なんて言うか。人間離れしてて、気持ち悪かったわ」
「だろ?」
ギンは、どこか自嘲するように笑う。
「あれ……同じこと、お前もできるぞ」
「……できるわね」
ランも、遅ればせながら――自分が身につけてしまったものの正体を、改めて認識したように、顔をしかめた。
「まっ、とにかく!」
俺は、ぱんと手を叩いて、二人の間に割って入った。
「上手くいったんだから、いいじゃん! 早く、みんな起こして、今後について話そうよ!」
ランが、何やら余計なことを考えていそうな顔をしていたので、俺は、そこで話を強引に切り上げた。
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それから俺たちは、地面に伏したままの子供たちを、一人ずつ揺り起こしていった。
「んん……あ、いてて……」
「う、うう……なんだ、これ……」
あちこちから、呻き声と共に、のろのろと体を起こす音が響く。
半刻ほどかけて、六十人弱――両軍全員が、なんとかその場に座り込めるくらいまで回復したところで。
俺は、皆の前に進み出た。
「はい、注目!」
子供たちの視線が、一斉に俺へと集まる。……体はボロボロでも、好奇心だけは、しっかり残っているらしい。
「今日からもう、トール軍もオーディン軍も、なし!」
俺は、両手を広げて、そう宣言した。
「これからは、みんな一つ。――エランギルン軍!」
「「「はぁ!?」」」
あちこちから、不満げな声が上がる。まあ、そりゃそうだよな。ついさっきまで殴り合ってた相手と、いきなり同じ軍だと言われたって。
「なんでだよ!」
「誰が決めたんだそんなこと!」
案の定、飛んでくる反発の声に、俺はにやりと笑って答えた。
「決まってるでしょ。――勝者が正義。勝ったものが正しい」
その一言に、さっきまで威勢のよかった声が、止んだ。
俺は、隣に立つギンを、ぐいっと前へと押し出す。
「今日、この場を全員まとめて倒したギンお兄ちゃんが――このエランギルン軍の、代表だ」
「――は? お、俺!?」
ギンが、慌てて振り返ってきたが、俺は構わず続けた。
「文句があるなら、かかってきていいよ? ……もう一回。もちろんギンお兄ちゃんにね」
しん、と場が静まり返る。
誰も、手を挙げる者はいなかった。ついさっき、一人にここまで叩きのめされたばかりだ。無理もない。
「あとちなみに」
俺は、ランを背をグイと押す。
「ランお姉ちゃんも、僕も――ギンお兄ちゃんと、同じことができる」
「え……」
「ランお姉ちゃん。思いっきりジャンプして」
ランはどうぞご勝手にといった雰囲気で思いっきり地面を蹴った。
俺も同じタイミングで飛び上がる。
ランが3メートル地点で落下を始めるところで俺が追い越す。
「エル高すぎ!」
ぐんぐん上昇を続け、8メートル付近まで到達した。改めて人間離れが進んでいることを自覚する。
俺が地面に着地するころ、地上ではどよめきが広がっていた。
「う、うそだろ……」
「あの子まで……?」
子供たちの間に、動揺が波紋のように広がっていく。
「なんで、こんなことが……」
誰かが、震える声でそう零した。
――さて。ここからが、本番だ。
「実はね」
俺は、努めて落ち着いた声で、皆を見回した。
「これ――ジーンお婆ちゃんの、祈祷のおかげなんだ」
「……祈祷?」
俺は、あらかじめ考えていた通りに、それらしい言葉を、すらすらと並べていく。
「唱えながら瞑想を続けると、少しずつ、体の中に眠ってた力が、目を覚ましてくるんだって」
本当のことなんて、ひとつも言っていない。
でも――嘘は、ついていない。少なくとも、表向きは。
「そんなことで、こんな力が……?」
「信じらんねえ……」
半信半疑、といった顔つきの子供たちに向かって、俺は、とどめの一言を放った。
「じゃ、明日から――みんなでジーンお婆ちゃんのところに、行こう」
俺は、にっこりと笑ってみせる。
「教えてもらえるよ。この力の、出し方」
その一言で――場の空気が、目に見えて変わった。
「……マジかよ」
「お、俺も……あんな風になれんのか……?」
さっきまでの反発と困惑は、いつの間にか、隠しきれない期待の色に、少しずつ塗り替えられていく。
――よし。
俺は、内心でそっと拳を握った。
これで、第一歩は――踏み出せた。




