50話
「ち、ちがう! おれは、ただ……親父が」
シグルが、なにやら喚きながら後ずさる。
俺は、構わずゆっくりと、シグルへと歩み寄っていった。
「く、くるな! バーカ! アホ!」
……さっきまで、あれだけ横柄な態度を取っていたくせに。
今のその怖がり方は、まるっきり子供じゃないか。
――あ。そういや、俺たちって、子供、だったな。
そう思うと、少しだけ――ほんの少しだけ、シグルにも可愛げがあるように……いや。
思わないな。うん。
「うああああ!!」
シグルは、目尻に涙を浮かべながら、半狂乱で――おそらく自分でこしらえたのであろう、やたら装飾の凝った木剣を、力任せに振りかぶってきた。
俺は、その柄を握る手めがけて、そのまま頭突きをお見舞いしてやる。
――あっけないほど簡単に、木剣が手から離れ、はるか後方へと飛んでいった。
「いでぇ!!」
シグルが、痛みに顔を歪めて手を押さえる。
……上手いこと手加減してやろう、とは思ったんだ。
思ったんだけど――正直、俺も、ちょっとばかりイライラしていた。
だから、少しだけ――痛い目に、遭ってもらうことにした。
手をさすろうとするシグルの、その隙をつくように。
俺は、瞬時に背後へと回り込み、両膝の裏へ、横蹴りを叩き込む。
シグルは、抵抗する暇すらなく、がくりと膝をついた。
――そこから先は、瞬き一つの間だった。
俺は、右、左、右、左――と、往復ビンタを、綺麗に十発、叩き込んでやる。
パンッ、パンッ、パンッ……という乾いた音が、十回、静かな戦場に響いた。
シグルは、あまりの痛さに、白目を剥くようにして意識を手放し――そのまま、崩れ落ちるように地面へと倒れ込んだ。
――ふぅ。
俺は、荒くなった息を整えながら、ふと辺りを見回して。
――そして、固まった。
両軍、合わせておよそ六十人弱。
その全員が、地面に伏したまま、うめき声を上げている。
……これ。
全部――俺が、やったのか。
目の前に広がる光景を見つめながら、俺は、他人事のようにそう思った。
――そういえば。
ふと、エルの立てたあの作戦のことを思い出す。
「じゃ、ギンお兄ちゃん。作戦通りで」
あの、やけに軽い口調。
……あれ。
――待てよ。
あいつ、もしかして――最初から、全部、俺一人にやらせるつもりだったんじゃ……?




