44話
――無事、宣戦布告を済ませた。
もちろん、帰り道でギンとランには盛大に怒られた。「勝手に話を進めるな」と、つい先日も聞いたお説教である。
……なお、それでも「いつも通り、付き合ってはくれる」らしい。
持つべきものは、幼馴染である。
男子制圧作戦は――順調に、進行中だ。
それぞれの家でお昼を済ませたあと。
俺は魔法の訓練のため、ランの家へとやってきた。
「よし。それでは今日から、魔法の訓練を始めるよ」
ジーンおばあちゃんは、約束の時間ぴったりに、訓練の開始を宣言した。
場所は、以前も使った中庭。
――いよいよ、魔法が使える。
昨日から、ずっとこの瞬間を待っていたのだ。
「まずは、簡単な座学からだ。――魔法には、初級・中級・上級・超級という等級がある。違いは単純。消費する魔力の量と、引き起こす現象の規模だよ」
ジーンおばあちゃんの声が、すっと講義のそれに変わる。
「そして、これらの魔法には"詠唱"というものが存在する。詠唱の意味を理解し、それに沿って魔力を変換していく――そうすることで、誰でも同じような魔法を扱えるようになる。例えば……」
おばあちゃんは、中庭の大岩へ向けて、無造作に手をかざした。
「巡れ、我が魔力。
赤に染まれ、火と成れ。
掌の内、一つに集え。
燃え盛り、撃ち貫け――火球」
――瞬間。
掌から放たれた火球が、唸りを上げて宙を裂き――大岩に着弾して、爆ぜた。
どぉん! と、腹の底に響く音。
一拍遅れて、熱を孕んだ風が頬を撫でていく。
「「おおー―っ!!」」
俺とランの歓声が、綺麗に重なった。
これが魔法。
……すごい威力だ。
あんなものが直撃したら、人間なんて、ひとたまりもないだろう。
「とまあ、こんな感じさね。ほとんどの魔法使いは、この詠唱を勤勉に覚えることで、さまざまな等級の魔法を扱えるようになっていく」
「そして――」
おばあちゃんは、そこで一度、言葉を切った。
「私が……というより、私が師事した流派では――詠唱を、"悪"としている。だから、お前たちに詠唱は、一切覚えさせない」
「……え?」
今、さらっと、とんでもないことを言わなかったか。
「天雷流。それが、私の流派だ。……まあ、師匠が立ち上げた流派だからね。歴史だけは、浅いんだが」
「ねえ、おばあちゃん。詠唱しなくても、魔法って使えるの?」
ランが、こてんと首を傾げた。
「使えるとも。詠唱なんてものは、イメージを補強するための杖にすぎん。――イメージさえ完成していれば、魔法は発現する」
――無詠唱。
前世で読んだライトノベルだと、だいたい"格上の証"として描かれていたやつだ。
それを、基本として最初から叩き込む流派、ってことか……。
「いいかい、二人とも。魔法が発現する工程は――イメージの構築。魔力の圧縮。属性への変換。そして、現象の維持」
おばあちゃんは、指を一本ずつ折りながら、ゆっくりと言った。
「この四つの工程だけは、誰であろうと、絶対に変わらない。そして――各工程を"いかに速く"行えるかが、そのまま魔法使いの優劣に直結する。魔法使いってのは、生涯をかけて、この工程を速め続ける生き物だと言っても、過言じゃないさね」
……なるほど。
詠唱を"悪"とするのは、つまり、そういうことか。
詠唱に頼れば、覚えるのは楽になる。でもその代わり、唱えている間――全工程が、詠唱の速度に縛られる。
最初から補助輪なしで走らせる。
天雷流とは、そういう流派らしい。
「お前たちには、まず、簡単な魔法を一種類だけ覚えてもらう。――話は、それからだ」
――望むところ、である。




