43話
ギンに案内されて、男の子たちが遊んでいるという原っぱへと到着した。
聞いていた通り――そこでは、三十人ほどの子供たちが、各々で作ったらしい木の剣と盾を携えて、打ち合いを繰り広げていた。
原っぱの中央には、こんもりとした岩場がひとつ。
どうやら、あそこが取り合いの的になっているらしい。
……前世の感覚からすると、危なっかしくて、絶対に子供にはさせられない遊び方だ。
でも、この世界では、これが普通らしい。
ああして、遊びの中で戦いを学び。
成人すると村を出て、都会で兵士や傭兵団に入り、立身出世を目指す――それが、この村の男の子たちの"憧れルート"なのだという。
俺とギンとランは三人で、戦の真っ最中の子供たちへ、コンタクトを取りに向かった。
「すみませーん!」
かん、かん、と響いていた木剣の音が、ぞろぞろと止んでいく。
「誰だ! いま"岩場争奪戦"の最中だぞ!」
集団の奥から、怒り心頭といった様子で、少年がひとり歩み出てきた。
ギンやランよりも、頭ひとつ以上大きい。伸ばした髪を、後ろで無造作に束ねている。
……日本でいうところの、小学校高学年ってところか。
「そうだ! もう少しで、我がトール軍の勝利が確実だったのに!」
反対側の陣営からも、同じくらいの背丈の坊主頭が、のしのしと出てきた。
二人は、戦を中断させた犯人――つまり俺を、じろりと見下ろす。
「なんだぁ? ちっせーガキだな。どこの子だ」
ロン毛のほうが聞いてきた。
「ウェールズの子だよ!」
「ウェールズ? ああ、あの街道沿いの――で、なんの用だ?」
坊主が話を取り、ロン毛が、きっとそちらを睨む。
……この二人、敵同士のわりに、息ぴったりである。
「あのね、にいちゃんたち。さっきの、見てたんだけど」
――さあ。
盛大に、喧嘩を売ろう。
「おもちゃの剣と盾で、なーんか遊んでるように見えたんだけど。なんか、弱すぎて。……お姉ちゃんたちのおままごとのほうが、まだ見る価値あると思ってさ」
「――っな!」
後ろから「なんてこと言いやがる……!」というギンの呻きが聞こえた。
ごめんね、ギン兄ちゃん。作戦なんだ。
「っはっはっは! こんなお子ちゃまが、何を言ってるんだ!」
坊主は、バカにしたように笑い飛ばした。
「へっ……なーんにも知らねえアホガキが。舐めてっと、ぶっ殺すぞ?」
ロン毛のほうは、ちょっとキレてる。
……もうちょっと、かなー。
「……おい。よく見てみりゃ――ギンじゃねえか」
と、ロン毛が目を見開いた。
「ギンよお。前の、入団試験以来だなあ? ……っくっくっく」
ロン毛は、口の片端を吊り上げて、嫌ぁな笑い方をした。
「あの時は傑作だったなあ! あれ以来、"弱虫ギン"っつったら、うちの団でも伝説だぞ。――で、今はこーんなちっこいガキとつるんでるのか! っはっは、こりゃ傑作だ。惨めも度を越すと、滑稽だな!」
ギンが、居心地悪そうに顔を背けた。
――あ。
こいつ、嫌いだ。
ギンを――俺の友達を、バカにした。
もう、容赦しない。
「っぷっぷ。……その弱さで、"団"って」
俺は、これ見よがしに噴き出してみせた。
「笑っちゃうね。あー、団って、もしかして"おままごと団"のこと? それなら納得だよ。みんな、かわいいね」
ぶちり、と。
ロン毛のこめかみに、青筋が浮かぶのが見えた。
「てめー! 死ねぇ!!」
右手の木剣が、俺めがけて振り下ろされる。
――遅い。遅すぎる。
この一ヶ月、俺はおそらく世界最高峰の相手と、訓練を積んできたのだ。
こんなもの、文字通り、児戯に等しい。
……まあ、実際に児戯なんだけど。
額に当たる数ミリ手前――半歩ずれて、回避。
木剣が地面を叩いた瞬間、その持ち手を、下から蹴り上げる。
くるくると宙を舞った木剣を、ぱしりと掴み取り――そのまま、ロン毛の首筋に、ぴたりと当てた。
「これが"戦闘"だよ? ……わかった?」
「……は? なんだ、これ?」
ロン毛は、まだ、自分が何をされたのかわかっていないらしい。
――子供社会において、格下への敗北は御法度である。
数秒遅れて、ようやくそれを悟ったロン毛が、みるみる焦り出した。
「い、今のは違うぞ!! たまたま足が滑ったんだ! それに、手加減もしてた! こんなガキに、本気なんか出すわけないだろ!」
……まあ、そうなるよな。
「いいよー、まぐれで。僕、優しいから」
俺は、木剣をぽいっと投げ返して、にっこり笑った。
「その代わり――この"戦ごっこ"、僕たちも参戦することにするね」
「「……は?」」
「え?」「ちょっと!?」と、後ろのギンとランも声を上げた。
「もちろん、僕たちに負けるわけないよね? ――たった三人だし、こーんな子供だし?」
「いやー、面白いもんが見れた!」
坊主のほうは、思いのほか機嫌が良さそうに、ばんばんと腹を叩いた。
「僕はいいぞー。三人で何ができるとも、思わんがな!」
――ロン毛だけが、ずっと、無言で俺を睨みつけている。
……さて。
"叩きのめして、力関係を示す"。
作戦は、おおむね順調に――進行中、と。




