39話
雷属性――か。
かなり、いいんじゃないだろうか。応用も、色々ときそうだし。
「雷、じゃと……?」
じいちゃんが、額に手を当てて呻いた。
「ますます、雷神トールではないか……まったく、わしの孫は、一体どうなっとるんじゃ」
そう言って、じいちゃんは困り果てたように頭を掻く。
「エル、すごい!! よかったじゃない!」
ランが、ぱっと顔を輝かせて俺に抱きついてきた。喜びを、そのまま体で表現するタイプらしい。
「ジーンおばあちゃん。雷って、強いの?」
「雷の魔法使いはな」
ジーンおばあちゃんの目が、ふっと遠くなる。
「わしのお師匠様の属性でな。……それはもう、強かったぞ。むかついた国を、丸ごと滅ぼしたりしとったわい。わしも――一度たりとも、勝てたことはなかったな」
国を、滅ぼす……?
……お師匠様って、まさかドラゴンとかじゃ、ないよね?
「じゃが、もう一方の――色のほうの属性は、わしも知らんな。見たことがない。ジークは? 何か、わかるか?」
ジーンおばあちゃんが、じいちゃんへと視線を向ける。
「うーん……わからん」
じいちゃんは、腕を組んだまま首を捻った。
「そもそも、おまえがわからんもんを、わしがわかろうはずもなかろうて」
「そう、だよね……」
二人の間に、しばし沈黙が落ちる。
「エル坊」
ジーンおばあちゃんが、俺のほうへ向き直った。
「ユニーク属性っちゅうのはね。こういう難点も、あってね。――そもそも、"何の属性か"すら、わからないんだよ。だから、訓練のしかたも、習得の方法も、まるっきりわからない」
「え……? それじゃ、どうやって、その魔法を使えるようになるの?」
「自分探しの旅に出るやつもおるし、ひたすら魔力操作の訓練を続けて、ある日ふと、なんとなく正体がわかる――なんてこともあるらしい。まあ、そんな感じじゃと、これは師匠から聞いた話だがね」
……そうか。お師匠様も、雷属性を自分自身の力で突き止めたんだもんな。
いったい、どうやって突き止めたんだろう。
もう一つ――残る一属性のことも、正直かなり気になる。
「まあ、とりあえずじゃ」
ジーンおばあちゃんが、ぱんと手を打った。
「エル坊も、明日から魔法の修行を始めるよ。わかっている雷魔法のほうを、まず習熟させておくんだよ」
「はぁい。おねがいします」
俺は、素直に頷いた。
「それじゃ――残るは、ギンだね。手を、置きな」
名前を呼ばれ、ギンが、びくりと肩を震わせる。
その顔は、明らかに萎縮していた。
……そりゃ、そうだよな。ランは、希少属性を含む複数属性持ち。俺は――ユニーク属性の、二つ持ち。
インパクトが、強すぎる。
そもそも、属性の素養そのものを持つ者のほうが、圧倒的に少ないというのに。
ギンが、震える手を石の上に置き、ぐっと魔力を込めた。
――しばらく、そのまま待つ。
だが、石は、ただ静かに、もとの色のまま佇んでいる。
ギンは、まるで「魔力が足りないんだ」とでも言うように、苦悶の表情で、なおも魔力を流し込み続けた。
「ギン。……もう、いいよ」
俺は、そっと声をかける。
それでも、ギンはやめなかった。
「ギン! もう、やめなさい」
ジーンおばあちゃんの声が、珍しく強く響いた。
「残念だが……あんたに、魔法の素養はない」
――その一言で。
ギンの手が、ゆっくりと、石から離れた。
「おれ、だけ……うああああ!!」
叫び声を、置き去りにするように。
ギンは、勢いよく部屋を飛び出していった。
俺とランが、思わずその後を追おうと腰を上げかけたところで――
「大丈夫じゃ。わしが、行く」
じいちゃんが、片手でそれを制した。
そうして、じいちゃんもまた、静かに部屋を出て行った。




