37話
作戦の大枠が決まり、明日からはいよいよ本格的な活動が始まる。
――だが、その前に。
どうしても、確かめておきたいことがあった。
「あ、ジーンおばあちゃん。僕に魔法について教えて」
用件を切り出すと、ジーンおばあちゃんは驚く様子もなく、小さく頷いた。どうせいつかは言い出す、とでも思っていたのだろう。
「ああ。そうだね……うーん。一応ね、魔法は十五で成人してから、っていう暗黙のルールがあるんだけどねえ……」
「そんなん、今更じゃろ」
じいちゃんが、間髪入れずに割り込んできた。
「そうだね。すでに魔法よりも凶悪な技術を、習得済みだからねえ」
――魔力同調のことだろう。
誰の魔力にでも触れられ、繋がり、時には他人の力すら引き出せる。
あの技術の利用価値は、下手な魔法よりもよほど規格外なのだろう。
「わかった。魔法について教えよう」
「やった! ありがとう、ジーンおばあちゃん!」
思わず、声が弾んだ。
「……そういう姿は、年相応なんだけどねえ」
「全くだ」
じいちゃんが、うんうんと頷きながら同意する。
――失礼な。普段の俺が、そんなに大人びて見えるというのか。
いや、まあ、実際そうなのだろうけど。
「だけど、まずは」
ジーンおばあちゃんの声が、すっと引き締まった。
「魔法についての素養があるか、調べるところからだね。素養がなければ、そもそも魔法は使えないから」
「……そんなのがあるんだ。わかった」
「ねえねえ! 私も! 私も教えてほしい!」
「お……俺も!」
ランとギンが、目を輝かせながら詰め寄る。
「……そうだね。もう二人とも身体強化を使える時点で、今更隠す意味もないか。教えてあげよう」
やった、とギンとランがハイタッチを交わす。
「少し待っておくれ」
そう言い残し、ジーンおばあちゃんは席を立った。
しばらくして戻ってきたその手には、両手で抱えるほどの大きな石。
――どすん、と鈍い音を立てて、卓の上に置かれる。
「これは魔力石だよ。本来は、魔法関係の武器や杖に使う素材なんだけどね。こういう使い方も、できるのさ」
そう言って、石の上にそっと手を置いた。
瞬間。
石の色が、みるみるうちに変わっていく。
赤、青、茶、白――四色が、鮮やかに石の表面を彩った。
俺たちは思わず、前のめりになってその光景に見入った。
「こんな感じで、素養があると何かしらの色になって現れるんだよ。私は――火、水、土、風。四属性、全部に素養がある、ってことになるね」
四属性、全部。
――それって、もしかしなくても、とんでもないことなんじゃないだろうか。
思ったことを、そのまま尋ねてみる。
「あー、めちゃくちゃ珍しいぞ」
じいちゃんが、こともなげに答えた。
「四属性に素養があるやつなんて、このババア以外だと、二、三人にしか会ったことないからのう」
「へえ、おばあちゃんって、そんなにすごかったの?」
ランが目を丸くする。
「なんじゃ、聞いとらんのか。このババアは――もっと若い頃は、万象の魔女と言われて、それはそれは恐れられた魔法使いじゃったんじゃぞ」
――万象の魔女。
「へえ!!」
ランとギンが、目をキラキラと輝かせながら、食いつくようにじいちゃんの言葉に反応する。
わかる。
ジーンおばあちゃんの若い頃の話なんて、興味しかない。
「こら、ジジイ。うるさいよ。黒歴史を、子供達に晒すもんじゃない」
ジーンおばあちゃんが、鋭い目でじいちゃんを睨みつけた。
「おっと。……怖い怖い」
じいちゃんは肩をすくめ、それ以上は語らなかった。
「とにかく」
ジーンおばあちゃんが、仕切り直すように咳払いをする。
「ここに、自分の魔力を流し込む。それだけで、どの属性に素養があるかがわかるんだよ」
そして、続ける。
「先に言っとくけど、ほとんどの人には素養がないよ。あったとしても、大抵は一つだけ。属性は、基本属性と呼ばれる火・水・土・風。それに、希少属性と呼ばれる光・闇なんかもある。あとは……まあ、いいか。一旦、これくらいの知識で十分だろう。――誰からやる?」
「私やる!」
真っ先に手を挙げたのは、ランだった。
石の上に、そっと手を置く。すでに身体強化を扱えるランにとって、魔力を流し込むこと自体は、造作もない作業だ。
すぐに、石の色が変わり始めた。
――二色。
左半分は、白。さっき、ジーンおばあちゃんの石にもあった色と、同じだ。
だけど、右半分は違った。ジーンおばあちゃんのときには、なかった色。
白っぽい――だけど、微かに発光している。
「ガッハッハ! こりゃ珍しいわい!」
「素養はあると思ってたけど……まさか、こうなるとはね」
じいちゃんは笑いながら、物珍しそうに石を覗き込んでいる。
ジーンおばあちゃんは、額に手を当てて、呆れたような溜め息をついた。
「おばあちゃん! 私、なんの属性なの?」
「ああ。左右で色が分かれてるってことは――ラン、お前は世にも珍しい、複数属性持ちだよ。一つは風。そして、もう一つは……光だね」
――光属性。
ランは、口をぽかんと開けたまま、自分の手のひらと石を、何度も見比べていた。




