36話
午後になり、ランの家で――ジーンおばあちゃんとの作戦会議が始まった。
応接間の卓を囲むのは、俺、ギン、ラン、じいちゃんそしてジーンおばあちゃん。
「よし。では――昨日の続きをするよ」
ジーンおばあちゃんが、静かにそう切り出した。
昨日、宙に浮いたまま持ち越された問題。
村人全員に身体強化を教えるとして――その理由を、どう説明するか。
真実をそのまま話せば、混乱を招くだけじゃない。俺自身が、危険に晒されることになりかねない。
答えの出ないまま、俺たちは今日という日を迎えていた。
「まず、現状を整理しようか」
ジーンおばあちゃんは、指を一本ずつ折りながら、これまでの話を並べていく。
「一つ。三年以内に、ヴァイキングがこの村を襲う可能性が高い。二つ。村人全員が身体強化を扱えるようになれば、被害は大幅に減らせる見込みがある。三つ。その習得には、エルの力が不可欠。――そして、四つ」
そして。
「エルの力の正体は――絶対に、外へ漏らしてはならない」
俺は、その一つひとつに頷きながら耳を傾ける。すべて、これまで話し合ってきたことだ。
「問題は、この四つ目だね」
ジーンおばあちゃんの目が、すっと細くなった。
「村人全員に身体強化を仕込むには、それなりの"理由"がいる。だけど、その理由に『エルの特殊な力』を持ち出すわけにはいかない。かといって、私が『お告げがあった』の一言だけで押し通すには……正直、荷が重すぎる話だ」
「じゃあ、どうするの?」
ランが、身を乗り出して尋ねる。
「そこで――だ」
ジーンおばあちゃんは、卓の上に一枚の紙を広げた。
そこに描かれていたのは――見慣れない、円形の対戦表のようなもの。
「冬に、四年に村で一番強い男を決める大会がある。祭りみたいなものだね。優勝すれば、名誉と一緒に――それなりの発言力が手に入る。村長にだって口出しできるくらいの、な」
……大会?
「その大会で、子供たちが優勝したとしたら――みんな、どう思うと思う?」
ああ、なるほど。
そりゃ、子供が急に強くなった"理由"を、真っ先に知りたがるだろう。
ジーンおばあちゃんが、にやりと笑った。
「そこで――『わしの祈祷と瞑想のおかげじゃ』と、触れ回る。そうすりゃ、ここに男連中が殺到するじゃろうて」
「なるほどのう」
じいちゃんが、髭を撫でながら口を開く。
「では――老人と、女子供のほうはどうするんじゃ?」
「子供は簡単だよ」
俺は、すぐに答えた。
「この村の子供なら、すぐにでも友達になれる。友達になったら――僕が、直接教えてあげればいい」
その言葉に、じいちゃんが小さく頷いた。
「あとは……女と、老人か」
この村では、女性は主婦か、あるいは若い娘たちだ。基本的には、家事全般を担っている。あまり、家の外には出ない。
――そういう者たちへ、どうアプローチするか。それが、悩みどころだった。
「料理教室、みたいにすればいいんじゃない?」
ランが、あっさりとそう言った。
「おばあちゃん、知らない? お母さん、よくここに村の中の仲良しのママ友を呼んで、料理を教えたり、共有したりしてるの。なんか、料理だけじゃなくて――運動? みたいなことも、してるらしいよ」
「「それだ!」」
俺とジーンおばあちゃんの声が、綺麗に重なった。
――習い事。
それは、訓練を隠す"隠れ蓑"としては、これ以上ないくらい最適だ。
魔力の接続、操作トレーニングは、瞑想や健康維持のための一種、と言っても差し支えない。
戦闘訓練だって――「この時代は、いざとなったら女も戦わなきゃいけない」とでも言って、自衛のための教室を開けばいい。
「よし。じゃあ、女のほうはそれで問題なさそうだな。……あとは、老人か」
「思ったんだけど」
ギンがふと思いついたように口にする。
「今まで上がった方法、それぞれで『老人にもおすすめですよ』的なことを付け加えたら――連れてくる人、いるんじゃねーか? 」
「確かにそうだね」
ジーンおばあちゃんが、満足げに頷いた。
「老人が、若者みたいに走れるようになったりしたら――そりゃあ、さすがにすぐ噂は広まるはずだね」
……こうして。
作戦の目処が、ようやく立った。




