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33話

「それで──具体的なプランが、あるんじゃろう? 聞かせておくれ」


 菓子を頬張っていた俺に、ジーンさんがそう尋ねてきた。


 俺は、口の中のものをごくんと飲み込んでから、口を開く。


「今回は、身体強化を一週間で習得させて、残りをじいちゃんとの戦闘訓練に充てた。……でも、それはそうせざるを得なかったからなんだ」


 ジーンさんは、無言で「続けろ」と促してくる。


「まず──身体強化は、習得しても、発動を持続させられなきゃ意味がない。それに、いくら身体能力が倍になったところで、体の扱い方に慣れてないと、まともに使いこなせないんだ。だから、体術訓練の時間から逆算して、身体強化そのものは一週間くらいで終わらせなきゃいけなかった」


「ふむ……そうじゃったのか。なるほどのう」


 ジーンさんは、顎に指を添えて頷く。


「では、村人全員が、すぐにあの完成度まで至れるわけではない、ということじゃな」


「うん、それは間違いなく。身体強化を一定期間、持続して発動できるようにする訓練。体を、意図したとおりに動かせるようにする訓練。そして、戦闘訓練。──この三つのステップを経て、ようやく戦力になる」


「うむ。だが、その程度なら──三年もあれば、女、子供、老人に至るまで、余さず仕込むことも余裕じゃな」


 ジーンさんは、もう頭の中でスケジュールを組み立てているようだった。……この切り替えの早さ、さすがは権力者、といったところか。


「それで──肝心の、身体強化の"習得"の作業。それは、どんな内容なんじゃ?」


「ん? それはね、こうやって……っと」


 言葉で説明するより、見せたほうが早いか。


 俺は自分の魔力を、細く長く、一本の紐のように引き延ばして、ジーンさんへと伸ばす。

 そして──ジーンさんの魔力へと、そっとアクセスした。


 ──その、瞬間。


 巨大な、山のような魔力。


 圧倒的で、それでいて、恐ろしいほどに洗練されている。少しでも制御を誤れば、そのまま意識を持っていかれてしまいそうだ。


「エル坊っ!? これは──まさか、私の魔力の中に、入ってきておるのか!?」


「……うん。まあ、"入ってる"っていうか、"接続してる"って感じ、なんだけど」


 そう言って、俺は接続を切った。


 ……ほんの少しの間だったのに、どっと疲れが押し寄せてくる。相手が相手だからか、いつも以上に消耗した気がする。


「なるほど……こんなやり方があったとはな」


 ジーンさんは、感嘆したように呟くと、今度は自分の魔力を、すっと細く絞り込んだ。


 ──やっぱり、この人、相当に魔力操作を使い込んでいる。

 形状変化を、まるで息をするみたいに、事もなげにやってのける。


 そして、その魔力の糸で、今度はジーンさんが俺の魔力に触れてきた。


「むー。……む?」


 どうやら、俺がやったように、魔力を同調させようとしているらしい。


 そこから、しばらくの間、ジーンさんの試行錯誤の時間が続いた。眉間に皺を寄せ、時折うなり声を上げながら、あれこれと魔力をいじくり回している。


 だが──やがて。


「うーん……無理じゃな!」


 あっさりと、ジーンさんは接続の試みを投げ出した。


「相手の魔力に触れることは、できるんじゃがな。"合わせる"という感覚が、まったくわからん。……そもそも、魔力を属性以外の何かに変換する、という概念そのものが、掴めんのじゃ。これは──エル、お前だけの感覚なんじゃろうな」


「そもそも、じゃ」


 と、そこへじいちゃんが口を挟む。


「わしもこれまで、魔法使い、魔力使い、それなりの人数と会ってきたが──他人の魔力に干渉するやつなんぞ、見たことがないからのう。そう簡単に、できるようになるもんじゃなかろう」


 ジーンさんとじいちゃんが、そんなふうに言葉を交わしている。


「……とりあえず、これで、一番厄介な状況は防げるな」


 ふと、ジーンさんがそう零した。


「そうじゃなあ」


 と、じいちゃんが頷く。


 ……ん?


「なんのこと?」


 二人だけで通じ合っている話に、俺は首を傾げた。


「ああ──もしこの方法が、誰にでも……いや、少しばかり魔力操作の心得がある者なら誰でもできる、というものであったなら。この"やり方"そのものに、途方もない価値が生まれる」


 ジーンさんの声が、すっと低くなる。


「そうなれば、どうなるか。……このメンバーの誰かから、外へ情報が漏れたその時、この情報ひとつで、身体強化ができる人間が、いくらでも増やせることになる。──各地で戦争が勃発するのは、火を見るより明らかじゃ。今とは比べものにならんほど多くの村が焼かれ、人が死ぬじゃろうな」


 背筋が、ひやりとした。


「じゃが──この方法は、エル坊やにしかできん。つまり、エルさえ守れば、その心配はない」


 ジーンさんは、そこでふっと表情を緩め、俺に視線を向けた。


「まあ──エルが、この力をどう使うかは、エル次第じゃがね」


 ……そうか。


 この力は、俺が思っていたよりも、ずっと大きな影響を、この世界に与えてしまうものらしい。


 考えてみれば当然だ。たった一か月で、優秀な兵士を量産できるようなものなんだから。

 ……まあ、俺一人しか使えないなら、"量産"といっても、たかが知れてるんだけど。


「では──習得には、エルが必須である、と」


 ジーンさんが、話を締めにかかる。


「覚えさせる順番。身体制御および体術訓練の、内容と方法。……そのあたりは、追い追い詰めるとして。問題は──村人に、どこまで説明して動いてもらうか、じゃな」


 三年後、ヴァイキングがこの村を襲う。

 何もしなければ、皆殺しにされる。

 だからこれから、村人全員に、身体強化という魔力の技を習得してもらう。

 それには、二歳児であるこの俺の、特殊な技術が必要になる。

 そのうえで、身体制御訓練と、体術訓練を行う──。


 ……これらを全部、村人に正直に説明して。

 村人は、それを信じて、素直に協力してくれるだろうか。


 ……まあ。


 無理、だよな。

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