29話
ジーンさんに「一ヶ月で証明してみせろ」と言われてから、ちょうど一ヶ月が経った。
正直、前世も含めて、こんなに忙しい日々を過ごした記憶はない。
だが——その甲斐は、確かにあった。
俺たちは今日、その成果を見せるため、三人揃ってラン家の門をくぐった。
「いらっしゃい。待ってたよ」
出迎えてくれたのは、当のジーンさんだった。相変わらず、あの仰々しいマントと装飾品を身にまとっている。どうやら今日は、村の預言師としての"仕事モード"らしい。
「首尾はどうさね?」
「「「かんぺき!」」」
三人の声が、綺麗に重なった。
「ほっほっほ。そりゃ楽しみだね」
ジーンさんは満足げに目を細めると、俺たちを裏庭へと案内した。
——広い。
思わず声が漏れそうになるほど、広大な庭だった。石造りの塀に囲まれ、芝生と土がバランスよく敷き詰められている。これだけの広さがあれば、多少暴れても問題にはならなそうだ。
むしろ——足りるかどうかすら、怪しい。
「ジーンおばあちゃん。僕たちは一ヶ月前、おばあちゃんに言われた通り、この作戦の実現性を示すために来ました。この一ヶ月の成果を、しっかり見ててください」
俺は一歩前へ出て、そう告げる。
先月、この場所で語った作戦——村人全員に身体強化を習得させるという計画。あれから俺たちは、ギンとランを相手に、実際にその習得が可能かどうかを試してきた。
なんの才能もなかったはずの二人が、たった一ヶ月という短期間で身体強化を身につけられたなら。
この子たちよりも体格に恵まれ、経験も積んだ大多数の村人にだって、同じことができるはずだ。
——それを、証明する。それが、今日の目的だった。
「わかった。見せておくれ」
ジーンさんは腕を組み、静かに頷いた。
その隣に、いつの間にかじいちゃんが立っている。
「ジーン。杖はどうした?」
「なんだい、藪から棒に。庭先に出るくらい、杖なんぞ必要ないだろう。なめるんじゃないよ」
「悪いことは言わない。今すぐ、取ってきたほうがいい」
じいちゃんの声には、いつもの間延びした調子がなかった。
「あーん? なんでだい」
ジーンさんが、怪訝そうに片眉を上げる。
じいちゃんは、それには答えなかった。ただ静かに笑っていた——悪戯を仕掛ける前の子供のような、あの笑みだった。
俺は、ギンとランと三人並んで、庭の中央に立った。
左右を見る。ギンは緊張と興奮の入り混じった顔で拳を握りしめ、ランは深呼吸を繰り返しながら、そっと自分の手のひらを見つめていた。
——大丈夫。この一ヶ月、俺たちは確かに積み上げてきた。
「じいちゃん、じゃあ——お願い!」
俺の合図に、じいちゃんがゆっくりと歩み出す。
そして、ジーンさんへと振り返ると、片方の口の端をにやりと持ち上げた。
「——まじで、腰を抜かすぞ」
その言葉と同時に。
ジークは、地面を蹴った。
轟音。爆風が庭の芝を薙ぎ払い、土埃が渦を巻いて舞い上がる。
気づけば——その姿は、もう、どこにもなかった。




