28話
「エル。それで、やってみたいことっちゅうのは何じゃ? 早う、早う教えてくれ」
じいちゃんは、もう興味津々といった様子で身を乗り出してくる。
ギンとランも、「早く教えて」と言わんばかりに、じっとこちらを見つめていた。
「うん。昨日、じいちゃんと身体強化した状態で触れ合ったときに思いついたんだけど……そうだな」
俺は、ぐるりと三人を見回して──一人を選ぶ。
「ギン兄ちゃん、こっち来て」
「え? お、俺!? う、うん……」
少しびびった顔で、ギンがおずおずと近づいてきて、俺の前に腰を下ろした。
「ちょっと、じっとしててね」
──昨日。
じいちゃんと身体強化状態で触れ合った、あの瞬間。
じいちゃんのおびただしい魔力と、俺の魔力が触れ合ったとき、俺は思ったんだ。
……このままじゃ、じいちゃんの魔力に、呑み込まれる、って。
その感覚が、発想の種になった。
──自分の魔力で、他人の魔力に干渉できるんじゃないか。
魔力の形状変化なら、日々の訓練でお手の物だ。
俺は自分の魔力を、細く、細く、一本の糸のように薄く引き延ばして、ギンへと伸ばしていく。
ギンは、まだ魔力を知覚することすらできていない。
だが──魔力は、人間なら誰しもが必ず備えているもの。
俺はその、眠ったままのギンの魔力へと、そっと触れる。
「……あれ? なんか、体の中に、熱いもんが……ある……?」
アクセスした魔力を、円を描くように、くるりと動かしてみる。すると、ギンが何となくその感触を掴んだようだった。
「今、ギン兄ちゃんの魔力に干渉して、動かしてみたんだ。──それが、魔力だよ」
「これが……魔力……」
ギンは、まるで宝物を見つけた子供みたいに、感じ入った声を漏らした。
「……なんと」
その隣で、じいちゃんが、驚愕に目を見開いている。
──そこで、俺はアクセスを切った。
……ふぅ。ちょっと、疲れるな。
相手の魔力の波長、っていうか──そう、チャンネルを合わせる、って言ったほうがしっくりくるか。
そこに、少しコツがいる。でも、慣れてしまえば、すぐにできるようになりそうだ。
「ギン兄ちゃん。どう? まだ、魔力の存在って感じられる?」
「ああ、もう忘れねえよ。なんか……俺の中に、ある。不思議な感覚だ」
ギンが、自分の手のひらを見つめて呆然としている──その横で。
「ちょっと! あたしにも、早くやってよ!!」
ランが、ぷくっと頬を膨らませていた。
「ちょっと待って、もう少し説明を……」
「はーやーくー!」
ランが駄々をこね始めたので、俺は苦笑しながら、同じように彼女の魔力へ干渉してやる。
「──すごい。これが、魔力なのね……」
こちらも、実にスムーズに成功した。
……というか、ランは思ったより魔力の器が大きい。
やっぱり魔力ってやつも、遺伝が関係するんだろうか。
「エル。……で、これは、どういうことじゃ」
じいちゃんの声が、わずかに掠れていた。
「魔力の知覚すら、できんかった者が。今の、たった数分で──魔力を完全に知覚できるようになった。それがどれほどとんでもないことか、お前、わかっとるのか」
じいちゃんは、本気で驚いているようだった。
だから俺は、さっき自分がやった工程を、順を追って口で説明してやる。
「……魔力を、同調させて? 干渉する、じゃと……? 本当に、そんなことができるのか……」
「うん。実際、今、見たでしょ?」
俺は、なんてことないふうに肩をすくめた。
「魔力の形状変化の、応用みたいなものかな。なんとなく、魔力の"質"を相手に合わせてやるだけだよ」
──だけ、と言った瞬間、じいちゃんが、本気で理解が追いつかないという顔をした。
しばらく、じいちゃんは黙り込んでいたが、やがて。
「……こりゃあ。"雷神トールの化身"っちゅうのも──いよいよ、現実味を帯びてきたのう」




