24話
翌日。俺はギンとじいちゃんの三人で、ランの家を訪れた。
「ランの家って、やっぱでかいよなー」
ギンが門を見上げて、感心したように呟く。
実を言うと、ランはお嬢様なのだ。
彼女の祖母——ジーン・ファンバイクは、この村でただ一人の預言師であり、村じゅうから絶大な信頼を寄せられている。言ってしまえば、村長よりも偉い存在なのだ。
門の前で待っていると、ランが小走りで出迎えてくれた。
「あ、いらっしゃい。ちょっと待ってね。おばあちゃんに、来たよって言ってくるから」
そう言うと、ぱたぱたと軽い足音を立てて、奥へと駆けていった。
「なにげに、エルがランの家に来るのって初めてだよな」
「うん、そうだよ」
「ランの家ではな——めちゃくちゃうまいお菓子が出るんだぞ!」
ギンが、にかっと白い歯を見せて笑った。
「本当!?」
僥倖である。
渡りに船である。
この世界に転生して以来、俺は甘いものというものを、一度も口にしたことがなかった。
父が漁師ということもあって、食卓に並ぶのは基本的に海の幸ばかり。どうしても、塩気の効いたものに偏ってしまうのだ。
前世とは比べ物にならないほど満ち足りた暮らしではあるが——たった一つ不満を挙げるとすれば、この甘味の欠乏だった。
だから、期待に胸が膨らむ。
「がっはっは! エルは甘いものが好きか! よし、今度じいちゃんが、何か持ってきてやろうな!」
「うん! おじいちゃん、すき!」
そう言って、とりあえず持ち上げておく。
——期待してるよ、おじいちゃん。
「まったく。あんたも相変わらずだねえ、クソジジイ」
背後から、しわがれた声が飛んできた。振り返る。
そこに立っていたのは、一人の老婆だった。
足首まで届く蒼いマントを羽織り、手首や首元からは、ガラスのようにきらきらと光る装飾品や、獣のものらしき骨をじゃらじゃらとぶら下げている。
「おお! クソババア、まだくたばっておらんかったか!」
ジークが、心底嬉しそうに大声を張り上げる。
「こっちのセリフだよ。まったく、十年も顔を見せないで。てっきり、無事にヴァルハラへ召されたものかと思っておったよ」
「がっはっは! あいにくさまじゃ! おかげさまで、孫と一緒に遊んどるわ」
そうして、二人の遠慮のない掛け合いは、しばらく続いた。旧友——いや、悪友の再会というやつだ。
「おばあちゃん! ここにいたの!? わざわざ探しに行ったのに!」
ぱたぱたと戻ってきたランが、当の祖母がとっくに俺たちと立ち話をしているのに気づいて、頬を膨らませた。
「すまんすまん。ちょっと用事があってな、外に出ておったんじゃ。——ああ、ジーク。これ、わしの孫。かわいいじゃろう」
「知っとるわ。昨日一緒に遊んだんじゃからな。じゃが、わしの孫のほうがかわいいわい」
年寄り二人が、さっそく孫自慢の張り合いを始める。
俺達はそれを適当に聞き流し、ランに案内されるまま、家の中へと足を踏み入れた。




