23話
目を覚ますと、じいちゃんがいた。
ベッドに横たわる俺のすぐ隣に立って、何やら難しい顔をしている。
うとうとしながらその様子を眺めていると——ふいに、とてつもないプレッシャーが押し寄せてきた。肌がヒリヒリと粟立ち、俺は思わず飛び起きる。
「じ、じいちゃん!?」
「おー! 起きたか! 大丈夫か?」
じいちゃんはにわかに威圧感を引っ込めると、ベッドの端へどっかりと腰を下ろした。
話を聞けば、俺が気を失っているあいだ、累纏を試していたらしい。
「じいちゃん、魔法つかえるの?」
「魔法? 使えんぞ?」
何を当たり前のことを、とでも言いたげな顔をされても——こっちは知らないものは知らないのだ。
「あー、そりゃ知らんか。エルが使っておった、あの魔力を体に纏って身体を強化する技はな、魔法ではないんじゃよ」
「え?」
じいちゃんいわく、身体強化そのものは、そこまで珍しい技ではないらしい。戦場で名の売れた者は、たいてい無意識のうちに使っているのだという。
「わしも、もとはそっちのくちじゃった。訓練を積んで、初めて魔力を意識して操れるようになったんじゃ」
思っていたよりも、魔力というのはありふれたものらしい。とはいえ、じいちゃんクラスの人間でも習得には時間がかかったというのだから、この年で扱える俺は、それなりのアドバンテージを持っている——ということになるのだろうか。
「それで、続きじゃがな。エルの身体強化は、どうも普通のものとは何かが違っておった。だから起きるのを待つあいだ、見よう見まねでやってみておったんじゃ」
「見よう見まねで、できるもんなの?」
「いや、難しいな。やってはみたが、どうにもうまくいかん。これまでの身体強化のやり方が、体に染みついておるからのう。それに——エルのやり方は、ちょっと特殊なんじゃろうな」
俺は、累纏のイメージをじいちゃんに教えてやった。
「なるほどのう……衣服のように、身に纏う、か。いやー、目から鱗じゃ。こんなイメージ、これまで考えたこともなかったわい。こりゃ、わしには真似できんかもしれんな」
「なんで?」
「魔力を使った技には、広く知れ渡った共通の型がいくつかある。じゃがな、実は同じ技でも、術者ひとりひとりのイメージによって、仕上がりに微妙な差が出るんじゃ。おそらく——その『衣服を纏う』というイメージこそが、累纏を成り立たせておるキモなんじゃろう」
なるほど。人によって、思い描くイメージが違う、か。
「ところでじいちゃん」
「うん? なんじゃ?」
「ステータスって、知ってる?」
「ステータス? なんじゃそれは。聞いたことないのう」
俺は、ステータスについて知っていることを、洗いざらい打ち明けた。
「——ってわけなんだ」
「なるほどのう。……いや待て。これ、わし、大昔にどこかで見たことがあるぞ」
ジークは腕を組み、低く唸りながら記憶の底をさらった。
「あー、思い出した。たしかあれは……海で遭難して、ずーっと東の大陸まで漂流した時じゃ。その国の、こっちでいう占星師みたいな者に、見てもらったことがあってな」
ステータスを、見てもらった——?
ということは、まさか。いや、やはり、と言うべきか。
他人のステータスを覗くことのできるスキルが、この世界には存在する。そういうことだ。
「数値は、覚えてる?」
「いやー、さすがにそこまでは覚えとらんよ。三桁か、四桁か……そのくらいだった気がするんじゃがのう」
四桁!?
本当に、そんな数値の人間が存在するのか。
この爺さん、やっぱりどこかおかしいんじゃないだろうか。
……まあ、自分のことは、盛大に棚に上げさせてもらうが。
その後も、俺はじいちゃんと色々な話をした。
おかげで、今後の俺たちの方針も、ある程度は固まってきた。
あとは明日——ランのおばあちゃんと話をしてから、みんなで改めて考えればいい。
……そうだ。魔法のことも、忘れずに聞かないとな。




