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20話

 土だらけのジークを先頭に、岩礁地帯の方へと歩いた。


 途中、木陰でぐったりと座り込んでいるギンと、木の上から様子をうかがっていたランを回収する。

 ふたりとも、先程の追いかけっこの結果がありありと服に刻まれていた。


「ジークじいさん、なんか土まみれになってる……」


「うん……なにかあったの、エル」


 ギンとランが、俺とジークを交互に見比べる。


「じいちゃんに、聞きたいことがあるんだ。ふたりにも関係あることだから、いっしょにきいて」


 ジークは何も言わず、村を見下ろせる小高い丘へと歩き出した。海からの風が吹き抜ける、見晴らしのいい場所だ。


「みな、座れ」


 声色が、変わっていた。


 いつもの間延びした調子ではない。低く、静かで——それでいて、よく通る声だった。


 四人で車座になる。ジークはしばらく海の方角を眺めていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「北の連中——ヴァイキングの話じゃったな。ついでに、協定の話もな」


 ギンとランの背筋が、目に見えて伸びた。


「あやつらは、海の向こうの荒れた土地に住んどる。作物も育たん、獣もろくにおらん、そんな土地じゃ。だから船で出て、奪う。それがあやつらにとっての、当たり前の暮らしなんじゃ」


「盗賊と、おなじ?」


「近いが、少し違う。あやつらには、あやつらなりの掟がある。氏族があり、頭目がおり、序列がある。行き当たりばったりの盗賊とは、動きの質が違うんじゃよ」


 ジークの目が、遠くを見た。海の向こうを見透かすような目だった。


「四十年前——わしはまだ若く、あちこちの戦場を渡り歩く一介の戦士だった。この一帯が、ちょうど今のリンドンのような有様になっとった頃じゃ」


 ジークの声が、少し低くなる。


「幾つもの村が焼かれ、奪われ、殺された。わしは頭目のひとりと、直に刃を交えた。何日も、何日もな。そうして——なんとか退けた」


「頭目に、勝ったの?」


「勝ちはせなんだよ。だが、あやつに『これ以上やっても割に合わん』と思わせるだけの傷は、負わせた」


 ジークは自分の左腕を軽く叩いた。


「わしの拳は、岩を割る。地面を割る。しまいには——あやつらは、わしをこう呼ぶようになった。地砕きのジーク、とな」


 空気が、ぴりりと張り詰めた。


「それから、取り決めができた。この一帯には手を出さぬ代わりに、村々は年に一度、決められた場所へ貢ぎ物を届ける。魚や、毛皮や、鉄の道具。あやつらにとっても、命を懸けずに得られるものがあるなら、それに越したことはない——それが、協定じゃ」


「じゃあ、リンドンは……どうして」


 ランが、消え入りそうな声で尋ねた。


「協定を結んだ頭目は、もう死んだ。歳には勝てなんだのか、内輪の争いに敗れたのかは、わしにもわからん。今の頭目は、その息子か、あるいは全く別の氏族の男か——それすらも定かではない」


「新しい頭目は、じいちゃんのこと知らないかもしれない、ってこと?」


「知らぬなら、まだいい。知っていて、それでもあえて破ったなら——そちらの方が厄介じゃ。若い頭目にとって、先代の決めた古い取り決めなど、破ってこそ己の力を示せる証明になる。リンドンは、そのための見せしめにされたのやもしれん」


 ジークは、ふう、と息を吐いた。


「今年、すぐにこの村が襲われるとは思わん。連中も、リンドンを落として、その戦果を小分けに売って過ごすはずだ。しばらくはやってこんだろう」


「でも、いつかは来る」


 俺の言葉に、ジークは静かにうなずいた。


「うむ。猶予は、あってせいぜい三年」


 沈黙が落ちた。


 波の音だけが、やけに大きく聞こえる。


 ギンは膝の上で拳を握りしめ、ランは自分の腕を抱くように身を縮めていた。


「じーちゃんがいたら、そいつらに勝てる?」


「おそらく勝てる……が、村民全員無傷とはいかんな。やつらの人数にもよるが、おそらく少なくない人数が死ぬことになる。やつらは略奪を日常として技術を磨いておる。いわば戦いのプロじゃ。練度もかなりのもんじゃ」


 じいちゃんなら全員無事とは行かないまでも勝てる・・・・・か。


 だとしたら——なぜランの予知夢では、この村が全滅することになったのか。


 ——ジークに、ランの夢の話を共有することにした。



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