19話
結末は、あまり格好いいものではなかった。
累纏の反動で全身の力が抜け、空中から地面へと落下しかけたところを——上半身が地面に垂直に埋まっているジークに、足で受け止められた。
「ふっごっご!ふぐあっがごー!」
地中から声がした。
……おそらく「がっはっは!つかまえたぞ!」だろうとは思う。思うが——上半身を地面に埋めたまま足でキャッチするとはどういうことだ、あのじじいは。
しばらくして、ジークは地面からずるりと這い出してきた。頭から土をかぶって、それでも笑っている。
「がっはっは。いやあ、やられた、やられた。戦闘ではないにしても、人間に土をつけられたのは久方ぶりじゃわい」
そう言いながら、ジークの目が俺へと向いた。
「それにしても……」
笑顔のまま、目だけが変わった。
「エル。おぬし——まさか」
視線が、全身を射抜いた。
ぞくりとした。笑っているのに、まるで戦場で敵と向き合うような目だった。四十年の歴戦の重さが、ただの眼差しにじわりと滲んでいる。
「がっはっはっは!」
次の瞬間、ジークは盛大に吹き出した。
手を叩いて、目頭の涙を拭いながら、腹を抱えて笑い続ける。
「はっはっは! 前言撤回! 神はおるかもしれんな! わしの孫は神の子じゃ!」
……急にどうした。頭がおかしくなったか。いや——もとからか。
「じいちゃん。勝負は?」
「はっはー? 地面に落ちた時に頭で体を支えたようなもんじゃからな。左腕と右足以外を使ってしもうた——わしの負けじゃ」
勝負には、勝ったらしい。
最後以外は手も足も出なかったも同然だったが、本人がそう言うなら、まあいい。
「で。何がそんなにおかしかったの?」
まだひっく、ひっくと笑いの余韻が抜けていないジークに尋ねた。
「あーいやな。長らく戦場を渡り歩いてきたが、エルお前さんほどの才能に出会ったことがない。強者を求めて旅をしたこともあったが——まさか自分の孫が最強の戦士になるかもしれんとは。おかしくてな。悪魔付きでもないのに、とな。まさしく神の子としか考えられんのじゃ。わしは神を信じとらんのだが、初めて信じそうになっとる。がっはっは!」
どうやら、実力は認めてもらえたらしい。
だが。気になる言葉があった。
「あくまつき?」
「その名の通り、悪魔が取り憑いた人間のことじゃ。依り代となることで人外の力を宿す。何度か戦ったことがあるが——強く、狡猾で、やっかいなんじゃ」
「なんでぼくがそうかもって思ったの?」
「ああ。悪魔は子供にも取り憑く。その場合は年齢に関わらず、やっかいな敵になる——だからな。まあ、悪魔付きであれば、相対すればすぐにわかる。邪悪な気をまとっておるから。エルにはそれがない。じゃが、その実力はそれほどのものじゃということだ。こうして体験した今でも、信じられんほどにな」
思っていた以上に、認めてくれたようだ。
だが、悪魔付きか。やはりこの世界は思っている以上に物騒なようだ。
「じーちゃん。約束、おぼえてる?」
ジークがぴたりと止まった。
少しの間があって——ヒゲの奥で、口元がゆっくりと動いた。
「……もちろんじゃ。ギン坊とラン嬢もつれてきてからゆっくり話そう」




