18話
雑木林を抜けた先——村から少し離れた、何もない原っぱでジークと向き合った。
「いやあ、エルは本当にすごいのう。ここまで動けるとは、じいちゃん夢にも思わなんだ。本当にすごい」
ジークは笑っていた。さっきまでと変わらない、孫の成長を喜ぶ祖父の笑顔で。
「すごいすごい……」
一拍、間があった。
「——子供にしては」
瞬間、空気が変わった。
——やばい。
体が動いていた。考えるより先に、反射で真上へ飛んでいた。
空中からジークが立っていた場所を見た。
地面が、えぐれていた。
鉄球でも空から落ちてきたのかと思うような、深くて丸い陥没跡。土が周囲に飛び散り、草が根ごとめくれている。
そしてジークは——三十メートルほど後方に、何事もなかった顔で立っていた。
……一歩で、あそこまで飛んだのか。
あのじじい、本気で殺す気じゃないだろうな。
もう一度来たら、終わりだ。今の俺では、避けられない。偶然が重なっただけだ。勘で動いて、たまたま間に合っただけだ。
いまのままでは。
俺は目を閉じた。
日々の訓練で、魔力操作の技術はとうに「制御できる」という段階を超えていた。
身体強化は、魔力の膜で体全体を薄く覆うイメージで発動する——それは習得した当初から変わらない。
変わったのは、ある夜ふと思いついたことだ。
この膜を、重ねたらどうなるんだろう。
試してみると、効果は想像を遥かに上回った。身体能力が跳ね上がり、動きの速度も、力も、別次元に引き上げられる。
おそらく——さっきのジークのような動きも、不可能ではなくなる。
だが、この体はまだ二歳にもなっていない幼児だ。
骨も、筋肉も、関節も——すべてが未熟だ。限界を超えた動きをすれば、肉体の方が先に壊れる。
諸刃の剣。慎重に、使わなければならない技だ。
——でも今は、それしかない。
「累纏 弐」
魔力の膜が、重なった。
うっすらと、白く発光する。白い煙を纏っているみたいだと、以前ギンが教えてくれた。自分では見えない。
でも、体の内側から伝わってくる密度の違いが——確かに、わかる。
目を開けた瞬間、ジークはもう目の前にいた。
いや——飛んでいた。
さっきまで三十メートル先にいたはずなのに。いったいどんな体をしているんだ、あのじじいは。
「これでじーちゃんの——」
——勝ち。
腹部へと伸びてくる手が、見えた。
——時間が、ゆっくりになった。
魔力が体中を巡っている感覚がある。研ぎ澄まされた意識の中で、すべての動きが一コマ一コマ、はっきりと見える。
俺は伸びてきた手に、蹴りを叩き込んだ。
甲高い音がして、ジークの腕が弾き飛ぶ。すかさず逆の足をジークの首へと絡める——そのまま全体重と、極限まで引き上げた身体強化のすべてを乗せて、地面へと叩き落とした。
「おおおお!」
ジークの叫び声とともに、今度は別の陥没跡が生まれた。




