17話
茂みの奥で、俺は息を殺したまま一部始終を見ていた。
ランが、捕まった。
木の上を飛び移りながらかなりの勢いで逃げていたのに、ジークはその背中に音もなく追いついた。首根っこをふわりと掴んで、まるで猫を持ち上げるみたいに。
……あ、うん。化け物だ。あのじじい。
この世界では、ああいうのがほいほいいるんだろうか。本当に勘弁してほしい。一体どれだけ強くならないといけないんだ、俺は。
ジークはランを脇に抱えると、すでにギンも反対の腕に収めたまま——まるで子猫を二匹抱えた老人のような格好で——こちらへと歩いてきた。
まっすぐ、こちらへ。
……これ、絶対に場所がばれている。
俺は潜伏を諦め、意識を切り替えた。
息を潜めるために一度解除していた【身体強化】を、即座に再起動する。魔力を練り、皮膚の表面へと薄く走らせ——全身をコーティングするイメージで。
その直後。
突如として、視界が塞がれた。
大きな手のひらが、俺の顔を覆おうとしていた。
——間一髪。
強化された脚が地を蹴り、俺は真上へ跳んだ。
頭上の太い枝を掴んで体を引き上げ、木の上へと逃れる。ジークの手は空をきった。
「なんと! 今のを避けるか! エルはすごいのう! がっはっは!」
笑い声が下から響く。
……まだ舐めてる。二歳児がこの動きをしている時点でおかしいと気づいてほしいのだが。
とりあえず逃げる。
枝から枝へ、強化した脚力で蹴り飛ぶように移動する。
大人でも到底できないような曲芸じみた移動速度。
だが。
「がっはっは! エル! まてー!」
片足のハンデがあるはずのジークが、笑いながら追いかけてきていた。
距離が、詰まっている。
じわじわと、確実に。
雑木林の終端が見え始めた。木が疎らになり、足場となる枝も少なくなってくる。このまま林を抜けたら——逃げ場がなくなる。
最後は当たって砕けよう。




