14話
祖父のジークに抱っこされながら、いつもの広場へと向かった。
「あ、エル。おはよう」
「あれ? そのじいさん、だれだ?」
ランとギンはすでに来ていた。ふたりの視線がジークへと向く。
「ランおねえちゃん、ギンにいちゃん。こちらぼくのじいちゃんのジーク」
そしてジークへ向き直る。
「じーちゃん。こちらランおねえちゃんとギンにいちゃん。毎日いっしょに遊んでる」
「エルのじいちゃんだ! いつも面倒を見てくれとるようで、すまんのう!」
ジークはふたりの頭をガシガシと撫でた。
——その言葉に、ランとギンの表情がわずかに曇った。「面倒を見ている」のは、どちらかというと逆だ。毎回、追いかけっこでは息も絶え絶えになるまで走らされ、魔法使いごっこやその他の遊びでは訳のわからない事を指示する俺に振り回され続けている。ふたりがそれを思い出したのだろう、目が合って、気まずそうに苦笑いを交わした。
「それで、何をして遊ぶんじゃ?」
ジークが俺の顔を覗き込むように言った。ランとギンも同じく、俺を見ている。
「おいかけっこ。じいちゃんが追いかけて」
「良いぞ! やろう!」
「でも、じいちゃんは大人だからハンデね。左手しか使っちゃだめ」
内心、算段はできている。
ジークにはここで実力を見せつけなければならない。「ただの子ども」だと思われたままでは、この先何を聞いても本気で答えてもらえないだろう。
協定の話、ヴァイキングの話——祖父が持っている情報を引き出すには、まず対等に見てもらうことが先決だ。
だから、本気で負かしにいく。
「そうじゃなあ……」
ジークはヒゲを撫でながら、珍しく少し考え込んだ。
「じいちゃん、負けるのが怖い?」
「いや、そうではないんじゃが」
目が細くなった。
「片腕だけでは、面白くないと思ってのう」
「え?」
追いかけっこで片腕縛りといえば、かなりのハンデのはずだ。それが不満だと?
「よし、決めた。わしは左腕と右足しか使わん」
……それはそれは。
左腕と右足だけ。そこまで舐めてもらえるとは、光栄というべきか、腹が立つというべきか。
「じーちゃん。ひとつきいていい?」
「なんじゃ」
「きょーてい、ってなに? ヴァイキング?との」
ジークのヒゲが、ぴたりと動きを止めた。
「……お前、なんでそんな言葉を知っとる」
「ランおねえちゃんのおばあちゃんが言ってた。なんかとりきめがあるって」
半分は本当だ。半分は——知っているふりだ。情報を引き出すには、すでに知っているように見せることが一番効く。
「がっはっは! そんなこと、子供が心配せんでええ! 難しいこと考えなくていいから、早う遊ぼう!」
笑い飛ばされた。
……やっぱり、子供だから。それだけで、全部が遮断される。
「じゃあ——もしじいちゃんが負けたら、教えてくれる?」
ジークはまだ笑っていた。しかし——その目が、ほんの一瞬だけ細くなった。
「……負けたらな」
軽い返事だった。本気にしていないのが、声の温度でわかった。
それでいい。
「ランおねえちゃん、ギンにいちゃん。本気でいくよ」
ふたりに目配せをする。今日の目的までは伝えられないが、俺が本気だということは伝わったようで、ランもギンも無言でうなずいた。
「じゃあじいちゃん、1分経ったら追いかけてきて」
「よっしゃ、わかった!」
ジークは上機嫌に笑った。完全に、孫の遊びに付き合う気でいる。
——見せてあげよう。
一年半、誰にも知られずに積み上げてきた集大成を。
俺の、真の実力を。




