101話
俺はアスリッタさんに担がれて、ランとギンを最後に見た場所へと合流した。
「ギンお兄ちゃん!」
ギンお兄ちゃんが駆け寄ってくる。
「エル! ランが……」
ランお姉ちゃんは、腹部から大量の出血をしている父さんの横に座り込み、治療を続けていた。
「はあ、はあ、はあ……だめ、血が止まらない」
ランお姉ちゃんは、光魔法をかけ続けていた。
――ライトヒール。
ランが習得している光属性の回復魔法の中で、最も治癒能力に優れた魔法だ。
しかし、ウェールズの臓器は大きく損傷しており、軽度の外傷用であるライトヒールでは、修復が難しい。
「はあ、はあ、はあ」
ランの額から流れ落ちる汗が、動揺を物語っていた。
「アスリッタさん!」
「失礼します!」
アスリッタさんは俺を素早く下ろすと、ランの対面に座った。
「ランさんですね? 私の合図があるまで、魔法を維持してください。少々魔力が乱れるかもしれませんが、干渉しないようにしますので」
ランは疲弊しきった様子のまま、目線だけをアスリッタさんへ向け、小さく頷いた。
「ではいきます」
アスリッタさんが、俺の時と同じように水を父さんの体へ浸透させていく。父さんの体内の状況を、隅々まで把握しているのだろう。
すると、アスリッタさんの表情が曇っていった。
「……脾臓の裂傷及び胃壁の貫通。出血多量、すでに三割から四割の血液を失っています」
そう言っている間にも、父さんの腹部からはどくどくと血が流れ続けていた。
アスリッタさんは、申し訳なさそうに続けた。
「……現状、この状態からの修復は、私の力では不可能です」
重い沈黙が流れた。
何か――
何か方法はないか。
俺は、瞬きするのも忘れて思考を巡らせていた。
アスリッタさんは、父の息子である俺に、静かに決断を委ねている。延命のための処置をやめるか否かを。
――何かあるはずだ!
考えろ。
ヴァイキングの襲撃だって防いだんだぞ。
今、解決策を生み出せ。
知能だって、ステータスの数値なら誰にも負けない……いや、待てよ。ステータス。
「エルさん。お父様はもう、手の施しようが……」
「ちょっと待って!」
俺は、大きな声でアスリッタさんを制すると、思考を続けた。
アスリッタさんは少し驚いた様子だったが、俺の言う通りにしてくれた。
――もう、これしかない。
解決策と呼べるかもわからない、ほのかな希望の光。
できることは、全部やる。
よし。
「アスリッタさん! 今すぐランお姉ちゃんと代わって、少しの間父さんの延命をお願いできる?」
「もちろんできますが、それをやっても意味が……」
俺は、アスリッタさんの目をまっすぐに見つめた。
「……わかりました。やりましょう」
アスリッタさんが詠唱を紡ぐと、水が父さんの全身を包むように覆っていく。
「ランさん。もう魔法を解いていただいて大丈夫です」
「ランさん!」
「はあ、はあ、はあ、あ、はい」
反応が遅れたランは、そう応えると魔法を切った。
アスリッタさんの魔法は――クリーンカプセル。
俺の治療の時に用いた治癒魔法の、発展形だ。
この魔法は、怪我の治癒以外にも有用な点がある。
それは、血液の循環だ。
この魔法で生み出された水に満たされた患者は、輸血を必要としない。
傷口から流れ出た血液は、カプセルを満たす魔力水によって識別され、抽出されていく。
そして静脈から浸透させ、元の血流へと戻す――そういう仕組みだ。
これで、ランのライトヒールに頼らずとも、延命を継続できるようになった。
ここからが、本番だ。
「ランお姉ちゃん!」
「ちょっと、試したいことがあるんだ」
俺は、そうランに語りかけた。




