第77話「エルザ・閑話Ⅱ」「エルザ視点」
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さて、どこまで話したかな。そうだ、私としたことが忘れていた。幼少の私について、だったな。
といっても覚えていることなんて、剣術修行と怒られていた記憶ばかりだな。……いや、それも私を語る上では必要かもしれないな。
これは私とスタイリッシュ家の話だ。私がなぜ王位を継ぐことになったのか。
パパではなく私なのかを……。
***
「コラッ!エルザッ!まだ終わっとらんぞ!」
「おじいちゃん手加減しないから嫌っ!」
この頃の私はおじいちゃんが大嫌いだった。あの人は手加減を知らない人だからだ。自分は手加減しているつもりだったらしいが、全然そんなことはなかった。
だから私は隙あらば逃げ出していた。そんな時いつも励ましてくれるのは――
「――エルザまた逃げ出したのですか」
「だっておじいちゃんが手加減してくれないんだもん!」
「そうでしたか……でも大丈夫です。エルザなら出来ますよ」
ルクス。彼女は私を励ますのが得意だった。
こんなやり取りが数え切れない程あった。
私も最初は何だこのチビはと思った。
私と身長あんまり変わらないくせに……と。
でもルクスはそんな生意気なガキだった私でも、
嫌な顔せず励ましてくれた。私はそんなルクスを誰よりも信用できた。
おじいちゃんは強い。パパ相手でも手加減しない。
だから、パパはいつも影で愚痴っていたのを私は知っている。
「あのクソオヤジッ!手加減を知らんのか!お前の強さはもうわかってんだよ!もうちょっと手加減しろ!いつか見返してやるぞ!ッペ!!」
と、パパが王宮で唾を吐いている光景を私は何度も見た。城の中で唾を見かける度に、メイド達がため息を吐いて掃除をしている姿も同じくらい見た……。
私も手加減の知らないおじいちゃんに愚痴を吐くパパには激しく同意したものだが。
……それは突然の事だった。おじいちゃんが居なくなった。私に何も言わず。剣術修行が嫌だった当時の私は喜んだ。
これで剣術修行が無くなる……!と。
けれど、その日以降一度も帰ってこなかった。
流石の私も心配になってパパに聞いた。
「ねぇ、パパ」
「どうしたんだい?エルザちゃん」
「おじいちゃんどこ行ったの?最近帰ってこないけど」
「……おじいちゃんはね、病で倒れたんだ」
「…………え?」
パパの話では、おじいちゃんは病で倒れ葬儀までもう済ませたと言った。なぜそんな嘘を言ったのか、私には分からない。
でも当時の私はそれをすんなりと受け入れた。
……泣いたな……あんなに嫌いだったおじいちゃんだけど、居なくなると寂しいものだ。私は自分を責めた。居なくなったのを喜んだ自分がいたからだ。当たり前だった存在は居なくなって初めてその大切さに気付く。私の場合おじいちゃんがまさにそれだ。
それ以来、私は自ら剣を取るようになった。
誰に言われるまでもない。パパに修行相手になってもらう日もあれば、パパが忙しい日は団員達を相手にする日もあった。
団員達は正直相手にならなかった……。
逃げ出す団員を追いかけることもあった。
ある日パパが私に言ってきた。王位を継ぐ話だ。
「……エルザちゃんよく聞いてくれ」
「どうしたの?パパ」
道場でいつもの様に竹刀を持ち、向かい合っている時だ。
「……おじいちゃんの跡を継ぎなさい」
「……え?どうしてパパじゃないの?」
「おじいちゃんの遺言だ」
「ユイゴン?」
「………おじいちゃんは強き者を王にすると言っていたんだ。パパはなぜ私じゃダメなのか聞いたよ……そしたらおじいちゃん……オヤジはお前は弱いと言ったんだ。……エルザちゃん、パパはいずれエルザちゃんに超される。それは近いうちに必ず。だからおじいちゃんの跡を継ぐのはお前だ、エルザ・スタイリッシュ」
パパはそう言って私を王にした。
今思えば、凄く悔しそうな顔だったと思う。
なぜ自分ではなく娘なのかと。そう思っただろう。
私はその日を境にミスタリスの王になった。
反対の声が上がると思っていたが、民達はあっさり受け入れた。いや、きっと受け入れるしかなかったんだろう。
心の中では誰も納得などしていなかったはずだ。
なんせ、私が挨拶するのとおじいちゃんが挨拶をする時では、まるで態度が違うかったからな。
王エルブレイド・スタイリッシュにする挨拶。
その娘エルザ・スタイリッシュにする挨拶。
同じ王でも貫禄というものが違うのだろう。
それまでの実績や、信頼も違う。態度が変わるのも当たり前の話だな。中には何故こんな小娘がと思っていた者もいた筈だ。
パパが言っていたその日はすぐに来た。忘れもしない。私が十二歳になった頃。
「………私の負けだ、エルザちゃん」
私はパパを超えた。等級でいうとS級に近いA級と言われていた、
エルフォード・スタイリッシュを私は十二の歳で超えたのだ。
パパはおめでとうと、ただ一言。
その日以降パパは私を相手にしてくれなくなった。喧嘩したとかそういう事ではなく、単に自分の実力では娘の相手にならないと思っての事だと思う。
私はだだっぴろい道場にて一人で剣を振る。そんな毎日だった。
パパと会うのは食事をする時か、城内ですれ違う時くらいだったと思う。すれ違っても話はしない。
いつも励ましてくれたルクスもまた旅に出ていた。
仲間ができたので行ってきます、と。
私は暫くの間、一人の時間が続いた。
そして十五歳になった日。私は冒険者になった。
冒険者になって初めて魔物や魔獣を相手にした。
私は冒険者になる前から既にS級だった。
パパ直々の認定だった。
正直、魔物や魔獣では物足りなかった。
私が今まで相手にしていたのはおじいちゃんやパパだったからだ。私はずっと刺激が欲しかった。
そんな時だ。ある日、森を探索していた時大きなオーラを感じた。それもとても嫌な感じの。直ぐに私は向かった。
なにか刺激になる者がいるかもしれないという探究心……と、世界の危機を感じたから。
そこに居たのは少年と少女。
そして、倒れている賊の者。
私は一瞬で理解した。これをやったのはこの少年だと。
私はこの少年が気になり、ミスタリスに案内することにした。少年達もまたミスタリスに向かうつもりだったから好都合だと考えた私は、この者たちを王宮まで案内する。
しかし少年は何も見せてくれない。
そこで私は考えた。どうすればこの少年を暴くことが出来るのか。
そこで私は自らの左腕を斬る事にした。
多分私はこの時何も考えていなかったかもしれないな。
ただ探究心に駆られ、自分の体に正直に動いた。
しかし私の命知らずの行動は、少年の心を動かした。
なんと彼は初級魔法である『ヒール』で私の左腕を元に戻して見せたのだ。本来なら斬り落とされた腕を元に戻すなど、初級魔法でできるものでは無い。上級魔法でも出来るかどうかという所だ。
これを目にした私は彼に……アスフィ・シーネットに目を付けることになる。
この頃から私はずっと彼を見ていた。
夜ゲームをするといい忍び込んだり、部屋から一緒にいた少女との甘い声が聞こえたら邪魔をしたり。
そんなことをしていたら段々と彼の内側では無く、彼自身が気になり始めた。
――そしてミスタリス陥落の日。
私は王子様の如く登場したアスフィに恋をした。
それは惚れるには十分だった。
……とまぁ私の話は以上だ。
今のアスフィはまだ心に深いダメージを負っている。
私は彼の分まで戦うと誓おう。
このミスタリスの王、エルザ・スタイリッシュが。




