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第四十一話「従属使いの魔女」

「君の紋章を調べさせてもらったよ」


 (おさ)の言葉にフィローラは下を向いたまま震えている。


「あの時に――」

「君は現代のノワールになり得る人間だ」

「――あの時に調べたんだ! 僕の紋章を……」


 全て分かった上でフィローラはユーキに接していた。あの日々が全て偽りだと、落胆と怒りの感情がユーキを襲う。そして去ったチェリッツもまた従属の影響を――、いや、周囲にいる全ての人々が――。


 ユーキの頭は混乱した。もう何を、誰を信じてよいのか分からなくなってしまった。そう考えると今までの自分でさえも、この世界に来てから何者かに操られているのでは? と思ってしまった。


「それで僕を、ノワールの勇者なんて宣伝したのか?」


 王政がらみであれば、新聞の記事などいくらでも操れるはずだ。ユーキをその気にさせるように、ノワールに仕立て上げるために誘導する。


禁忌(タブー)は勇者と共に在らねば、また我が一族が魔女のそしりを受けるのでな」

「フィローラは普通の少女だと――」

「私の両親は魔族との戦いで亡くなりました……」


 戦争においても従属の一族は活動し、魔族と衝突していたのだ。


「嘘をついていたんだ」

「そうです」


 以前、フィローラは田舎町の平民の出で、魔法の才能があったので国の援助で学校に通い、ギルドの仕事をしていると言っていた。


 いつも笑顔を絶やさない、水色の髪の少女は、禁忌(タブー)の血を流してきた魔女の一族だったのだ。


「従属の魔法使いは、力を明かすことは出来ません」


 だから平民出身と偽り暮らしていた。そして、この世界に来たばかりのユーキに近づいて来た。


「僕も従属させられていたんだ」

「違います。今まではただの一度も使った事はありません。きつく禁じられている力です」

「今は?……」

「使いました。それが叔父の命令ですから……」

「今の僕は君の従属者か……」

「はい……」

「君を助けたい。これは僕の本当の気持ちだよ」

「はっ、はい、はい。ありがとうございます」


 しゃくり上げながらフィローラはユーキの胸に飛び込んで泣いた。


 そうは言ったが、本人にそう信じさせるのが従属の魔法だ。前世の世界でも明らかな間違いに、盲目的に従う人間は大勢いた。


「だけど……」


 フィローラはびくりと体を震わせる。


 実際、凶悪な事件を起こした宗教や思想などに、新たに染まる若者が絶えなかったのだ。


 今、ユーキがそうなっていないとは、ユーキ自身が断定出来る訳もなかった。だからこそ、あえて(・・・)この禁忌(タブー)に乗る。



「マリエッタとフィリスを戻せるのだろうか……」

「可能と言われている。しかし難しい、時間がかかるであろう」


 (おさ)はそう説明する。念動人形(サイコパペット)となり自我を失うそれは、従属の魔法で復元が可能だった。戻るのではなく、以前と同じように人格を復元すれば二人は限りなく以前に戻る。それが従属なのだ。


「しかし完全に元には戻らない」

「大丈夫です。私なら……」


 フィローラは両手を胸に手を当てて続けた。


「二人のことを誰よりも知っている私なら……必ず」


   ◆


 ユーキとフィローラは王都の港から船に乗り西を目指した。国境に近い港街で下り陸路でヴァスパーラ共和国を目指す。


 二人は地方の貴族で結婚直後の旅行だと、ヴィセンテが各種書類を用意し潜入地の協力者、偵察場所など旅行日程を組んだ。



 船を降りて宿に入った二人は、街の騒ぎに驚き外に出た。


 大勢の人々が西から東へ向けて移動している。そして軍とこの街の冒険者たちが西へと向かっていた。ユーキは直感する。


「これは……、(トライポッド)が出たんだ。行こう!」

「はい」


 闇夜の空を飛ぶ二人は森林火災を発見。国境を突破したトライポッドが炎の中、熱線を放っていた。


 国境守備隊、冒険者たちと共に攻撃を仕掛けるユーキたちは、敵の撃破に成功する。フィローラの力は更に増していた。



 この街のギルドで聞き取り調査の最中、ユーキたちはクワクリルトン諸島共和国に複数のトライポッドが降下して、本島南端の一部が占領されたと伝えられた。この街への攻撃は陽動だったのだ。


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