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第三十九話「王都での再会」

 王都に帰還し、クリフォードとズベルアフはそれぞれの国の大使館へと向かった。ユーキとフィローラは王宮に戻る。


 見事にトライポッドを撃退した、魔法騎士団が城に凱旋を果たす。噂を聞きつけた群衆が、王都を守りし勇者たちを拍手喝采で迎える。


 きらびやかな魔法衣に身を包んだ彼ら、彼女らをユーキとフィローラは遠巻きに見守る。その中にはマリエッタとフィリスもいた。


 そして出迎えのため、城の通路に移動して待ち構える。数人の魔道士と魔法使いが向かって来た。そして最後尾には二人がいる。


「マリエッタ。フィリス!」


 ユーキの声かけに二人は立ち止まるが、他の魔道士たちは興味を持つでもなく無表情のまま歩き去った。


「凄い活躍じゃないか! まさかあれほど……」

「あなた、誰ですか?」

「えっ? 誰って……」


 マリエッタは表情も変えずにそう言い、フィリスは無表情のまま前を見据えていた。


「ちょっと、一体これは……」

「まさかっ! 魔力調整されたのですか?」


 フィローラは小さな悲鳴を上げる。


「調整? 人間に?」

「はい私たちは調整されました。この国の、世界の危機を救うために……」

「自ら志願しこの身を念動の力に捧げます。人々の安寧と世界の平和を守りし力に、何を恥ずべきでしょうか? 私たちは心から今の姿を誇りに思い、日々の――」

「止めるんだーーっ!」


 マリエッタに続き、フィリスもこちらを向きもせずに話を続け、ユーキは耐えきれないとばかりに叫んだ。


 もうこの二人は別人。これでは無表情で淡々と語るだけの、ただ人形だ。あの驚異的なゴーレムの力の正体はこれだったのだ。


 二人は特に反応も見せずに再び歩き始め、靴音を響かせ通路の闇に消えた。


「ばっ、バカな……。いったい――、なぜ? こっ、こんなことに……」


 ユーキとフィローラはただ立ち尽くすだけであった。マリエッタとフィリスを追いかけることも出来ずに、ただただ立ち尽くす。



 続けて所属は分からないが、若い騎士たちが現われる。


「感情を抑え込んで、全てを魔力に変えているんだろ?」

「ああ、人間としての心は失くしたそうだ。本能だけで生きているらしい」

「本能が生きているなら、女としては役にたつのかね?」

「試してみたいなあ?」

「人形になっちまったんだぜ」

「女の人形で遊ぶなんてガキかよ?」


 戦いの興奮がまだ残っているのか、勝利の高揚感からなのか分からないが、格好だけ騎士の未熟な雑兵は、誰はばかることなく勝手な話をしている。


 ユーキは両拳を振るわせ、フィローラは両手で顔を覆った。


「しかしこの状況でゴーレムを操り、我らが王国の為に戦えるのだから本望でしょう」

「まったくだ。戦争が終われば英雄だろ? 一族郎党歴史に名が残せるんだぜ」


 そしてユーキは顔を上げる。


「おいっ! 待てよ。ゴミどもが……」


 その言葉に一団は止まり、冷ややかにユーキとフィローラを見る。


「何だと……」

「なぜ冒険者風情がこんな所にいるんだ?」

「おいっ、テメエごときがいていい場所じゃ――」


 取り囲まれたユーキの目が白銀色に変わる。


「えっ?」

「なっ、何だ、コイツ……」

「もう一度、言ってみろよっ!」


 ユーキは目の前の騎士、その若造の襟首をつかみ持ち上げる。鎧がメキメキと音をたてて変形し首を締め上げた。


「ひっ……、やっ、止め……くっ、ぐえっ」

「やっ、止めろっ! よせ……」

「なんだと? テメエらも殺されたいのか?」


 割って入った騎士たちは、ユーキの眼光に見据えられ、後退って尻もちを着いた。


「ひっ、ひぃ……。ぐっ、がっ!」


 呼吸困難となった騎士は必死にもがき苦しみ、一団は距離をとって剣に手を掛ける。


「こっ、こいつは敵だ」

「ぶち殺せ!」


 いきり立つ若者たちを、ユーキは冷めた目で一瞥した。緊張状態の中、剣はまだ抜かれない。吊り上げられた騎士は足をバタつかせる。



「止めんかっ!」


 気が付けば豪奢な鎧に身を包んだ男が傍らに立つ。


「だっ、団長!」

「あん?」


 ユーキが両手を離すと顔面蒼白の騎士は、ガチャリと音をたてて床に崩れ落ちた。次の敵意は、その壮年の男に向けられる。



 白目をむいた仲間を助けようと、仲間の騎士たちが駆け寄った。


「だっ駄目だ。鎧が戻らない」

「いっ、息が。死んじまう……」


 ユーキが目を見開くと、首を絞めていた襟元の鎧が、勝手に開かれる。


「その男は噂の、ノワールだよ……」

「この若造が?」

あの(・・)、ノワール……」

「貴様らあっ! 第二王女様の御出陣だったのだぞ」

「姫様が?」

「なぜ……?」

「レティシア様、自らが調整を受けて戦陣を切られたのだ! 今後人形などとの揶揄は絶対に許さんれんぞっ!」


 若い騎士たちは絶句した。


「分かったかっ! ならば行けっ」


 そして言葉も発せないまま、意識のない仲間を引きずって逃げるように去って行く。


「あの、レティシア様とは……?」


 フィローラはどうしてよいか分からないまま、その名を問いただす。ユーキも一瞬意味が理解出来ないでいた。


「第二王女のレティシア様です。自ら調整を受けて範を示されました。全ての魔法少女たちが、それに続いてくれたのです」

「なんてこと……」

「狂っている……」

「失礼の段、お許し頂きたい。御免っ!」


 騎士団長は頭を下げて去って行った。



「なんでっ! こんな事って……」


 ユーキは拳を壁に叩きつける。もうすでに戦争の狂気は始まっているのだ。


「今できる彼女たちの役割です」

「よくそんなことが……」


 振り向いて見たフィローラは震え、見開いた瞳からは涙が溢れていた。



 遥か昔、まだこの世界に奴隷がいたころ、人間同士で戦争をしていた時代、魔法使いの捕虜を念動人形(サイコパペット)に調整して、まるで土木機械のように酷使した歴史があった。


 そして今また二人は志願し、魔力調整され念動へ特化された人形(パペット)になってしまう。


「王都の連中! 俺たちを、彼女たちをなんだと思ってるんだ!」

「ユーキ……」

「いっそのこと、二人を助け出して」

「止めて! それでは……」


 そう、それでは反乱グループと同じである。王政は王女すらも差し出して、この戦争に勝とうとしていた。それはこの国の人々を守ることでもある。


「そうか、そうだな……、そんなことをしたら皆と戦わなくちゃならい。ノワールの反乱だ」


 ユーキもまた混乱したままであった。フィローラは再び大粒の涙を流し、無言で泣いた。


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