第三十七話「集結した者たち」
それは、子供の頃から見慣れていた光景だった。
カーステレオから父と母が好きなクラッシック音楽が流れ、二人は演奏について意見を交わしている。姉は携帯端末を触り、ユーキはぼんやりと流れる景色を眺めていた。
ドライブが趣味の両親に付き合わされる、子供の頃から見慣れている光景であった。
ただその日は違った。甲高いブレーキ音と共に、対向車線からトラックが中を舞う。前の乗用車を押し潰し回転する車体が、スローモーションのようにフロントガラスいっぱいに迫る。
昔、この世界に来たばかりの頃、何度となく見た夢だ。本当に久しぶりだった。
傍らではフィローラが寝息をたてている。
ユーキが転生したのは、イヤーフェウスからさほど遠くない森の中だった。転生を感知できる魔力を持つ魔道士が察知し、保護隊の冒険者に発見された。
その時のユーキは意識を失って何も覚えていない。着ていた現代の服はボロキレのように切り裂かれていて、事故の凄惨さを物語っていたそうだ。
昏睡状態のユーキを世話してくれていたのが、フィローラだった。
久しぶりにこの夢を見たのは、あの姉に似た名前を聞いたからだろう。トライポッドを撃退した魔族の女戦士、カオルレリア――。
◆
順調な交渉を経て三国は同盟締結の運びとなり、アーヴィア王国の王都、サザンウォルダにて調印式が執り行われることとなった。
フレイトス連邦共和国からはクリフォードが、魔族統一王国、ジェーヒャからは王子のズベルアフが代表として臨む。そして立ち合いとしてイヤーフェウスから、トラスツゥール家のヴィセンテとカナが出席する予定だ。
ユーキはフィローラと共に飛ぶ。王都へ赴くカナの護衛の為だ。先頭にはヴィセンテとカナ。トラスツゥール家の二人だ。
左右にはアンガスとバイロンのコンビと、イヤーフェウスの騎士たちにギルドからの冒険者が十人程度。ユーキたちは最後尾を飛び警戒する。
一行は王都サザンウォルダのまでの中継地点の街で一泊する。強行軍で進めば丸一日の行程だが、王族の貴族としてはこの地方の領主たちに対しての根回しなどの仕事があるからだ。
王都サザンウォルダにはフレイトス連邦共和国とジェーヒャ王国の大使館が既に開設されていた。
三国同盟の立役者たち全員が王都にそろった。
◆
調印式は無事終わり、引き続き非公開の謁見が行われる。これにより三国は正式に同盟国となった。
そしてユーキとカナはクリフォードとズベルアフが滞在する迎賓館へと赴き、久しぶりの再会を果たす。
「王様への謁見はいかがでしたか?」
「むうっ……」
ユーキはなんとなく聞いたのだが、その問いにクリフォードは唸ってからズベルアフと顔を見合わせる。
「侍従長からは、ここでの出来事は一切漏らしてはならぬと言われました」
そしてズベルアフは少し要領を得ないように答える。
「ユーキ、仕方ないのよ。何を話されたなんて、人伝に広まっても勅命や御心と誤解されてしまうの」
「そうなの?」
「具体的に必要な話は枢密院経由で出てくるから大丈夫」
カナが本来の流れを説明してくれた。一介の冒険者であるユーキは、政治にはまったくもって疎い。
「それよりもユーキにはこの話だろう。ズベルアフ……」
「ええ、カオルレリアの件ですね。彼女は北方豪族配下の戦士で、我が一族とは直接の面識はないのですよ」
この大陸の半分を占める魔族領は、現在は統一されてるとはいえ各群には一定の自治権が与えられ、その中で豪族もまた様々な権限を持っている。
「古くからシャングリラ地方と縁がある一族で、北方防衛の要でもあります。年齢は二十二歳で数年前に転生し、ニホンと呼ばれる国から来たと聞いています」
「どうだ? ユーキ」
「年は同じです。僕たちが事故に遭ったのは四年前です」
「カオルとは日本ではよくある名前なのか?」
「珍しくはありません……」
「むうっ……、ズベルアフ! もっと詳しくは分からんのか?」
「戦士の情報は軍事機密でもありますので……」
クリフォードは自分のことのように熱心だ。ユーキは私事なので申し訳なく思った。統一したばかりの魔族同士にとって戦力の情報を公にできない事情は分かる。
「アーヴィア王国にユーキを名乗る転生人がいると、書簡に記しておきました。何か反応があるかと思います」
「それで十分です。ありがとう。ズベルアフ……」
「新たな動きの中でこれから出会う機会もあろう」
「はい……」
魔族領、フレイトス連邦共に再びトライポッドの進行を受けて撃退に成功していた。
そして新たな動きとはアーシラドゥン王国とヴァスパーラ共和国の山中に、複数の隕石落下が確認されている事態のことだった。
シャングリラ地方は、ヴァスパーラ共和国とも国境を接している。




