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第三十三話「蠢く反乱」

 連日城内では喧々諤々(けんけんがくがく)の議論が交わされているが、ユーキたち冒険者はいつもの仕事にいそしんでいた。



「幻獣らしき影が見えます」

「分かった。行こう!」

「はい」


 広大な森の上空でフィローラが進路を変更し、ユーキが後へと続く。幻獣の進行地点を予測して、二人は森の中に着地した。


「相手はダーク・ユニコーンです」

「なんだって? こんな時にか……」


 ユーキは舌打ちし、木々の間から空を見上げた。黒い雲が低く垂れ込めている。四人でパーティーを組んでいた時と違い、二人で戦う時はユーキが追い込みと攻撃を両方こなしフィローラが援護をする。


「行こう」

「はい」


 ユーキは森の中を駆け、フィローラが続いた。



「いたな……」


 通常の馬の三倍はある黒い体躯。左右の胴体の膨らみは折り畳まれている翼だ。そして頭部の一角と長いたて髪。

 ユーキが剣を抜くとダーク・ユニコーンは立ち止まりこちらに気が付く。剣が甲高いうなりを上げると、黒い凶体は暴れ馬のごとくユーキに向かって突進を開始した。


 一角の周囲に鋭角な障壁が展開する。


「障壁魔法を使うか……」


 ユーキは横に飛び退きながら、両手で持った剣を障壁の鼻面に叩き付けすぐさま後退する。低く浮き上がりジグザグに下がるユーキに向かって、ダーク・ユニコーンは木々をなぎ倒しながら突き進んだ。


 幻獣は兵器として魔力調整された場合、特定の魔法に特化して力を増す。このダーク・ユニコーンは障壁を攻撃として使ってきた。


 遠くから雷鳴が聞こえる。ダーク・ユニコーンの魔力が空に影響を与え始めたのだ。


「くそっ!」


 木々の間を縫う機動ではかわしきれないと、ユーキは空へと逃げた。頭上の黒雲の中に無数の閃光が交差する。


「来るな!」


 ユーキは背中に障壁を背負いながら低空を高速で飛ぶ。何条もの落雷が追いすがり森に火災を発生させ、一呼吸おいてパリパリと雷鳴が轟いた。雷撃魔法は特定の気象条件下で発生させることができる。


 フィローラは球体の障壁を作りだし、自身を守りながら空中で戦いを見守った。その球に落ちた稲妻は表面を走り、森の大木を裂き地面へと抜ける。攻撃を仕掛けるユーキには、あのような防護障壁は貼れない。


 翼を羽ばたかせ空中に姿を現したダーク・ユニコーンは首を捻って、ユーキとフィローラを交互に見る。


 再び空が一面に光り始め、ダーク・ユニコーンはユーキへと目標を定めた。


「いいぞ、こっちへ来い!」


 障壁の刃と化した一角が落雷をまとい、ユーキ向けて発射される。突き出した剣の先に作り出された衝角(ラム)がそれを弾き、弧を描きダーク・ユニコーンの一角に落雷した。


「利用されし罪を清め(たま)えよ、新たなる戦乱の悪夢より救い(たま)え――」


 そしてユーキは一気に肉薄する。ダーク・ユニコーンの障壁がきらめきながら破壊され、ユーキの剣が頭部に深々と突き刺さった。


「――在るべき一角の地へ……」


 翼が力なく垂れ下がり、魔力を消失した巨体は森に向けて落下して行く。


「さよなら……」


 剣を納めたユーキは息を付き、障壁を解いたフィローラが傍らに寄る。


「人がいます!」

「人?」

「はい、西の先に二名います。魔族かもしれませんが……」

「こんな所に人がいるなんて! 奴らだよ。行こう!」

「はい」


 燃える木々の消火とダーク・ユニコーンの解放作業が残っているが、反乱グループの方が優先だ。


 二人は最大速で西へと飛んだ。探査魔法で前方を探っていると、森の中から二つの黒い点が飛び上がり北に向かって飛ぶ。


「追うよ!」

「はい、更に西から二名が接近! 北に進路を変更しました」

「仲間がいるのか!」


 ユーキたちも北に変針し、合流しようとする四人を追うが差は縮まらない。


「くそっ! あいつらなんて早さだ」


 フィローラと二人で飛ぶも、前の二人に追いつけない。新たに現れた二人も同じくらい早かった。


「西から新たに二名が……」

「えっ、また? 前の四人を全力で追うぞ!」


 二人は更にスピードを上げた。眼前には山脈が迫る。


「ユーキ、駄目です。これ以上は!」

「あっ、くっ、くそっ! ここまでか……」


 フィローラが制動を掛け、ユーキもまた速度を落とし停止する。そこはアーシラドゥン王国との国境線上空だった。


「後方の二名はシンヤさんとウォーミュラさんです」

「そうか、あっちも事情は一緒か……」


 おそらくはシンヤたちも、西で同じ事態に遭遇したのだろう。


「ユーキ。調子はどうだ?」


 追いついて来たシンヤはいつもと同じ調子だ。


「最悪だよ。逃げられた……」

「あいつら、俺らとたいして変わらないスピードで飛んでたな」

「うん……」

「反乱グループなんて雑魚の集まりだと思っていたけどなあ。やるじゃないの」

「魔族の精鋭が手こずっているような相手だよ」

「ああ、楽な相手じゃないな。こっちはダーク・サーペントだった。そっちは?」

「ダーク・ユニコーンだった」

「派手に雷が鳴っていたな。今までの幻獣兵器とは違うよ」

「うん、攻撃的に調整されていた」


 今までは偵察が中心だったのか、幻獣の使う魔法は探査や治癒などの力が強かった。しかし今回は違った。力を使い果たせば行動できなくなるが、攻撃力は格段に高く、より兵器となった幻獣。


「ユーキ、フィローラ。久しぶりね」

「はい」

「お久しぶりです。ウォーミュラさん」

「たまには女子で飲みましょう。男抜きでね」


 ウォーミュラはシンヤとユーキを交互に見て思わせぶりに笑って言う。


「この前ディルダームの山岳部にも、あんな奴らが出没して見つかっているそうなの」


 ディルダームは王都の北方に位置する内陸の街の名だ。


「ここから先はアーシラドゥン王国か……」


 シンヤはその、あんな奴らが飛び去った方を見て歯噛みする。


「父の話だと抗議しても無視されてるそうよ」


 偵察任務全体の指揮をとっている将軍としても、露骨な越境は見過ごせない事態だ。


「アーシラドゥン王国か。怪しいなあ……。幻獣を使って地形を調べているんだ。降下ポイントの事前偵察だよ、これは」

「国境近くの街を破壊して越境する。やつらの定跡らしいから……」



 四人は分かれてそれぞれの持ち場に戻り、森の消火と幻獣の魔法浄化を行った。ユーキとフィローラが手をかざすと、大気中の水分が集まり濃い霧が火災の周囲に発生する。


 燃える木々は全て鎮火し二人は靄の中、倒れているダーク・ユニコーンに歩み寄った。


「治癒力は?」

「ありません。完全に沈黙しています。魔力はなにも残っていません……」

「そうか……」


 目の前に横たわるのは、全ての魔力を攻撃に振り向けた哀れな幻獣兵器の死骸だった。


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