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第三十二話「魔族との講和」

 翌々日の午後、ユーキは城内に呼ばれていた。アーヴィア王国では唯一、トライポッドと直接戦っている存在であるからだ。


 門兵に許可の書類を見せ、中に入り控え室で待つ。案内を受けて広い会議室へと移動した。


 末席に座りしばし待つと、クリフォードが率いるフレイトス連邦共和国の一団が現れ、続いてズベルアフと魔族たちが入室する。


 まだ若い魔族の使節団長、王子のズベルアフは突撃隊の指揮官と紹介された。あの酒場にいた面々が突撃隊、いつも先陣を切って戦うのが彼らだったのだ。



 空間に魔族領での戦闘映像が映しだされる。相手はこの世界にやって来た二体目のトライポッドだ。


「この時はゴーレムの配置が遠く、戦いには間に合いませんでした」


 木々の間に細い三本の(あし)が見え、複数の魔族戦士が稲妻のごとき機動で、攻撃を仕掛けるたび火花が散る。どうやら頭部よりシールドの力は弱いらしい。考えてみれば当然だった。


 攻撃を嫌がる偵察型のトライポッドは触手を使い防御するが、それは一本二本と切断されていく。


「凄い……」


 ユーキは思わず口にする。木々が行く手を阻む森で、複数があんな機動をして衝突はしないのかと感心した。


「あっ!」


 森の奥深くで一瞬の閃光の後、火球が発生する。戦士の一人が熱線(ヒートレイ)に直撃されたようだ。


「奴は脚部への攻撃が苦手のようですね。触手もそうですが弱い所から削っていくのが正攻法でしょう」


 ズベルアフは特にそれには触れず、淡々と説明を続ける。


 耐えかねたトライポッドは熱線(ヒートレイ)を辺り一面まき散らし、半ばやけくそに戦士の攻撃を阻んだ。


 映像が切り替わる。紅蓮の炎に焼かれる森からトライポッドが現れた。塹壕に土嚢を積んだ砲陣地から大砲が頭部に向かって打ちかけられる。これは陽動で、地面すれすれには先ほどと同じ攻撃の閃光がきらめく。


 左右から剣による一撃離脱の攻撃が不規則なタイミングで加えられ、そのたびにトライポッドはグラリと体勢を崩している。ゴーレムも足を狙っていた。弱点はあの細い三本の脚だ。


 剣から放たれた障壁の輪がトライポッドに向かうが、熱線(ヒートレイ)が直撃していくつかの輪が四散した。しかしユーキの時と同じようにそれは体にまとわりつき火花を上げる。しかしこの攻撃ではたいした打撃は与えられない。トライポッドは何事もなかったように進み始める。


 その刹那、一瞬の閃光が走り画像が真っ白に光った。


「何だ?」


 更に続いて二度目の閃光の後、トライポッドの各所から小さな火が吹き上がる。三度続いたホワイトアウトにユーキは瞬間、白い稲妻の模様を見て取った。


「雷撃魔法だ……」


 トライポッドは倒れ戦いは終わった。


「はっきり言いましょう。映像には残っていませんが五名の戦士が熱線を受けて死亡しました。二名が障壁の破壊、そして三名が直撃です」


 室内がざわついた。あのような苛烈な攻撃を加えていた、戦士が五名も戦死したのだ。


「アマチュアではありません。長きに渡り人類軍に損害を与え続けたベテランです。あなたたちにとっては仇敵ですが、それをたった一会戦で五名も失ったのです」


 続けてアーヴィア王国側の映像も流される。ユーキが戦っている映像だった。そしてフレイトスの飛竜が自爆攻撃を敢行し戦いは終わった。場内は静まり返る


 ズベアリフは立ち上がりテーブルに両手を着いて身を乗り出した。


「他国にトライポッドが降下した場合に備えて、この三国共同でそれに当たる遊撃隊の組織を提案します」


 ズベルアフの言葉にしばしの間、王政の高官たちは互いの顔を探るように伺った。どう発言すべきかと迷う。


「他国の援助か……」

「我が国の防衛が優先だろうに。王都がそんな提案を飲むとは思えんが……」

「出せるなら冒険者だが……」


 手近な人間同士が勝手に話を始め、場がざわつき始める。


「魔族領がまがりなりにも統一されたのに、人間の国がバラバラでは……」


 沈痛な面持ちで老重鎮が頭を抱える。


「フレイトス連邦共和国が同盟している以上、わが国も同盟国とならなければ対等な関係とはなりませんぞ!」


 軍の青年将校らしき若者が気を吐く。


「同盟に反対しているのではない。人心の賛同を得るのには、今しばらく時間が必要だと言っておるのだ……」


 ベテランの行政官が、またかといった表情で諭すように言う。


「そんな時間はありません! 明日にでもあの化物が王宮を攻めるかもしれません。どうなさるおつもりか?」


 今度は若手の行政官が、日頃の鬱憤を晴らすように叫んだ。


「むむっ……」


 王宮が攻められる。悪夢の想定に誰も二の句は告げなかった。アーヴィア王国の軍、行政、貴族院の高官たちは魔族の王子を前にしても忌憚がない。


 それだけ上は切迫しているのだ。ユーキは話を聞きながら、ある意味安心した。


   ◆


「ふう……」


 ズベルアフは廊下に出て息をつく。フレイトス連邦と魔族、そしてユーキも退出し、会議室では高官たちの議論がまだ続いていた。


「我が国も最初はあんなものだったよ。この国は直接の進行をまだ受けていないからな」


 クリフォードは少し愉快そうに言う。自分の国と同じ光景が繰り広げられて安心とは変だが、これが普通だよ、といった表情だ。


「魔族は武力を持って統一し、方針を決めました。それが正解とは思いません。事実、反乱の芽を生んでしまった」

「うむ、とは言え時間は待ってはくれん。話し合いもほどほどにせねばな……」

「はい」

「ところでユーキ。この後は空いているか?」

「特に予定はありませんが……」

「付き合えよ。貴国のもてなしだ」

「は?」


 クリフォードの誘いにユーキは少し首をかしげる。



 両国の使節団は城内の敷地にある、来賓用の施設に宿泊していた。そこの一階にはレストランがあり無料で食事が提供されている。もう夕刻なので、そこはすっかり酒場の様相を呈していた。


「へえ~」

「昨夜は堅苦しい晩餐会だったからな。我らはこちらが似合っているよ」


 魔族とフレイトス連邦の人間が同じテーブルを囲んでいる。その中にはアーヴィア王国の制服もちらほらと見えた。王都から警備の増員として派遣された士官や、対応している事務方の行政官のようだ。皆が外交官としての自覚を持っている。


「お兄様!」


 ナタリーザがこの国の貴族風のドレス姿で駆け寄ってくる。


「どうたんだい? その格好は……」

「カナから頂いたのよ。似合うかしら?」


 そう言ってくるりと回ってみせる。あの事業用に用意されていたサンプル品だとユーキには分かった。


「ああ、似合うよ」


 ズベルアフは目に愛おしそうな光をたたえ少し笑っている。


 少し離れたテーブルに座っているカナが、手を振ってこちらに合図を送っていた。


「ユーキ、お疲れ様。偉い人ばかりで緊張したでしょ?」

「いやあ、僕はただ座っていただけだから……」

「そうね」


 カナは笑いながら言い、手を上げてウエートレスを呼び人数分のビールを注文する。


「簡単に結論が出る感じじゃなかったなあ……」

「そうねえ……、貴国はいかがですか? 参謀本部議長殿」


 カナはクリフォードに向き直る。ユーキはこの肩書きを最近知った。


「その呼び方は止めてくれ。私の所と評議会は三国同盟に前向きだよ。私に権限を委譲してくれている。貴族院の一部は二国の同盟で十分だと言っているがな……。なあに、少しゴネたいだけだ」

「僕らの国はどうなの? 揉めているみたいだけど」

「あまり決断が遅いようだと勅命が出るらしいわ。大丈夫よ」

「王国か、羨ましいな……」


 クリフォードが呟くとビールが運ばれ、皆は交渉の進展を願って乾杯した。


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