第三十一話「愛しき者たちと」
そして、ついに魔族の交渉使節団がイヤーフェウスやって来た。厳戒態勢の中、東門から隊列を組み入場する。大勢の民衆が見物に集まり、厳重に警備もされた。
ズベルアフを先頭に、隣には妹のナタリーザが並ぶ。彼の配下の部隊が護衛に続き、馬車の列には実務の行政官、事務官が乗る。
続いてフレイトス連邦共和国の国旗をはためかせた、馬車と騎馬隊が現れた。この協定を一気に三国同盟まで進めるため、クリフォードたちも参加をするのだ。
ユーキとフィローラ、マリエッタにフィリスも群衆に紛れて車列を見守る。警備の一環でもあり、何かあれば飛び出さなければならない。
ユーキたちに気がついたナタリーザが小さく手を降り、ズベルアフが苦笑いしている。
「うん、特に混乱は起こらないようだね」
「はい、安心しました」
ユーキたちは不穏な動きがないか、周囲を警戒しながら車列と共に人垣の後方を移動する。私服の兵も大勢この中にいるはずだ。
新聞は事前に三国の連合軍が謎の幻獣を退け、魔族の王子と我が国のノワールが共に戦ったと宣伝した。魔族の新兵器が活躍し、そしてそれが我が国に供与されると書き立てていた。
状況を見る限り、この国の対魔族感情は改善してきていると、ユーキは胸を撫で下ろす。
城の正門の前には赤い絨毯が敷かれ、一行が進むと門が開かれ出迎えのカナが現れる。そしてズベルアフが歩み出てその前に跪いた。演出の一環でもあるが、やり過ぎということはない。警備兵の中にも魔族との戦争で肉親を失った人間が大勢いるのだ。
使節団は無事入城を果たし門は閉じられ、見物客も三々五々帰り始める。
「さて、僕らの仕事も終わりだ。帰ろうか。食事でもしていこう。御馳走させてもらうよ」
マリエッタとフィリスの表情がパッと明るくなる。
「いいんですか?」
「もちろんさ。ゴーレムの話も聞きたいしね。遠慮しないでよ、フィローラ」
「はい」
今日は休日なので寄宿舎の食事もないし、なにより四人集まっての仕事の機会も、もうないかもしれなかった。
「いつもシンヤと行っている酒場だけどね」
四人で店に入って窓際の席に座る。酒場といってもここは食事もできる店だ。ユーキはコース料理を注文した。
「ゴーレムの訓練はどうなの?」
「念動はあまり使ったことがなかったので大変です」
「そうそう、物を動かすのはできても、なかなか思うようにはいきません。難しいです」
「そうかあ……」
マリエッタとフィリスの表情は芳しくない。
「明日からは、王都から来たゴーレム使いの魔道士たちが参加します」
「ゴーレムも魔族領から届くらしいです。それとあちらのゴーレム使いも参加します」
「制御魔法か……。フィローラは使えるんだよね?」
ユーキはズベルアフが言っていた言葉を思い出す。リーダーのフィローラはパーティー全体の魔力を制御して統一している。
「私が使っている制御は力を集める魔法です。ゴーレムの制御は力を分散して、更に統一させて動かすようですから……」
「根本的に違うのか……」
一般的なゴーレムは体長二メートルまでを一人で動かす。単純な素人計算だが十人が集まれば二十メートルを動かせる。問題はあのような格闘技を繰り出す制御ができるかどうかなのだろう。
「王都でゴーレムを作っているそうです。偉い人が話しているのを聞きました」
「イヤーフェウスの魔道士や魔法使いも、それでずいぶん王都に行ったそうです」
「そうか、王都でか……」
マリエッタとフィリスが聞きかじった情報を話す。大型ゴーレムの制作と運用は国にとつては初めての試みだ。戦力を王都に集中するのは、理に叶っている。
料理が運ばれ四人は話を中断し、食事に集中した。
「デザートも注文しよう。僕も頂くよ」
ユーキはビールを飲みたかったが三人に付き合うことにした。まだ外は明るい。スイーツを人数分注文する。
前世でのチーズケーキのようなスイーツが運ばれ、マリエッタとフィリスが満足げにパクつく。
「う~~ん」
「幸せ……」
フィローラは静かにトッピングの、ブルーベリーシロップ漬けを口に運んだ。




