第二十九話「見た目の戦い」
フィローラと別れたユーキは城壁内へと向かった。街の風景に特に変化はない。
新聞はトライポッドとの戦いを、色々と脚色して書いている。人々は薄々何か不穏な空気を感じてはいるが平和を楽しんでいた。この国はまだ直接火星人の進行を受けてはいない。
ユーキはいつもの酒場の扉を潜る。既にシンヤとカナはテーブルに座り飲んでいた。護衛のアンガスとバイロンは知らんふりをして、隣のテーブルで飲みながら店内に目配せしている。生真面目に仕事をしているなとユーキは苦笑した。
「よう! ユーキ。遅かったな」
「お待たせ」
「調子はどうだ? 忙しいのか?」
「今日はちょっと遠出していたから……」
「そうか。こっちも交代で山まで遠出さ」
ユーキは座ってビールを注文する。今日は、たまには外に出たいとの、カナの提案により酒場で会うことになったのだ。
「食べ物は適当に注文しておいたわ」
「うん」
ユーキのビールが運ばれ三人は改めて乾杯する。
「国境沿いまで行ったのか、どうだった?」
「特に異常はなかったよ」
「そうか、こっちも似たようにもんだな。そうそう幻獣は出ないか……。相手だって持ち駒は限られているしな」
シンヤは恋人のウォーミュラと組んで偵察を行っている。この任務全体の指揮は将軍が取っていた。
ズベルアフからの情報により国として対応することになったが、人間の火星人への協力者やその動機、水晶の卵による洗脳などの件は伏せられている。不確定な要素でもあるし、疑心暗鬼による混乱を避けるためだ。
「まっ、上手くいかなきゃ奴らも焦れてくるよ。そのうち動くだろう……」
水晶の卵が回収され、偵察の幻獣がことごとく討伐され、そしてトライポッドもまた打ち倒されている。
「ところで、三人娘の二人がゴーレムの部隊に入るんだって?」
「まだ適正訓練の段階だよ」
「そうか、西のギルドからも何人か訓練に行っている。果たしてその巨大魔人を操れるものなのかな……」
「イヤーフェウスにはゴーレム使いっていなかったからね。王都の魔導士ならできると思うけど。魔族もやっているし」
王都には全国から、魔法才能のある子供を集めている学校があった。
「そうだな。それだけ強力なら、なんとしてでも戦力化するだろうしな」
飛竜部隊も対トライポッド戦の訓練を開始していた。山岳部近くにはいくつかの陣地が構築され、夜間の上空監視は強化されている。軍や冒険者にとって短い平和は、既に終わりを告げていたのだ。
「暗い話はもう止めましょうよ」
「俺たちに明るい話題なんてないよ」
カナの突っ込みに、シンヤは大袈裟に肩をすくめて見せた。
「ユーキは別だったかな。明るいネタはないのか?」
「そうよっ!」
「ないよ、そんなもの……」
貴族の御婦人に明るいネタを振られても困る。ユーキはただの冒険者だ。
「まったく……、そうだ。あなたたち少し服装を考えたら?」
「はあ? なんだい突然」
「魔族の衣装ってカッコよかったじゃない」
「あそこで会った魔族たちは精鋭だよ。僕たちはただの冒険者だし……」
ユーキはあの酒場に集まっていた、ズベルアフ配下の面々を思い出す。様々な武具を身に付けたり、女性は紋章を見せていたりで皆個性的な姿をしていた。
「そうかしら。ハッタリって必要よ」
ユーキ、シンヤ共に地味な、ごくごく普通の冒険者の格好だ。二人は互いの姿を見合う。
「ハッタリねえ……。カナの豪華な鎧には意味があると思うけどね。俺たちがマントを付けてもなあ……、どうだ?」
シンヤはユーキに目配せする。
「まあねえ、火星人相手にハッタリも何もないよ……」
「そうねえ……、でも他国の人間に会う時はそれなりに必要よ。考えてみるわ」
カナは勝手に結論を出してしまった。貴族ならば公式な場所でマントを羽織ることもあるが、平民の冒険者にそのような習慣はなかった。
「ところでそっちの洋服ビジネスはどうなってるんだ?」
「こんな状況じゃ一旦お休みするしかないわ。それに魔族領との貿易がそのうち始まるから、色々と計画の変更も必要ね」
カナは女の子の向けの服を安く作る事業を考えていたが、今の社会情勢では停止せざるを得ないようだ。
そろそろお開きにするかと言い合い、ユーキたちは席を立つ。護衛の二人もごく自然体を装いながら続く。
「それじゃあ」
「ああ、頑張れよ」
シンヤはいつもと同じようにユーキに応えた。




