第二十八話「南洋の戦い」
アーヴィア王国への技術供与は魔族の使節団、イヤーフェウス訪問をもって成されると決定された。それは魔人ゴーレムの実機一体と、それを操る制御魔法のコツ、などについてである。
ズベルアフたちは迅速に約束を実行してくれている。そしてこの国でもゴーレムを操る部隊が新設されることとなった。
マリエッタとフィリスは学校、そしてギルドからの推薦を受ける。元々の魔力の高さと才能、そしてゴーレムとトライポッドの実戦を目の当たりにした経験から、適任と思われたのだろう。半ば強制的にではある。
それが良いことなのか悪いことなのかは、ユーキには分からない。今までは戦時が長く、疑問に思う者もいなかったのだろう。しかし戦争は終わった。これから魔法の力は戦いではなく民生への転換、人々の幸せのために使われるはずであった。火星人の進行で世界はまた、戦時体制に逆戻りだ。
魔族統一王国、ジェーヒャの素早い動きはカナの功績とされて彼女の株は上がったが、それだけに正式な同盟の締結に際しては責任重大となる。ユーキと共にトライポッドと戦ったカナは、魔族たちにも好感を持たれていた。そして引き続き窓口となり交渉が続けられることになった。
ゴーレムは王都に運ばれ、そして部隊は王室直属の近衛隊へ配属となる予定だ。以後、戦局を鑑みながら適切な戦場に投入される、とのことだった。
正直に言ってあのゴーレム、あれだけの力を手に入れるのは、容易ではないであろう。
世界が言い知れぬ不安に包まれている中、朗報が届く。クワクリルトン諸島共和国が、夜間降下して来たトライポッドの迎撃に成功したのだ。
仕事を終わらせたギルドの待合で、ユーキとフィローラは報告書を貪るように読む。
「やったな。ゾーイ」
夜間の対空監視に力を入れていたクワクリルトン軍は、夜空にまばゆく光る降下物体を発見。待機していた竜使いの部隊が迎撃に飛び立った。
高度千メートル程度で会敵した彼らの攻撃で、火星人の降下艇は軌道を変えられて海に落下した。海面直前でロケット噴射による制動をかけたが、降下艇は水没。水に浮く構造にはなっていないらしい。
降下中のカプセルから反撃はなかった。つまり大気圏突入直後のトライポッドは、まったくの無防備状態なのだ。問題は海底に沈むトライポッドである。
「大丈夫でしょうか」
「うん、奴らは水中では行動できない」
「はい」
破壊された機体の見聞記録では、スクリューなど水中行動用の構造は確認されていない。浮力のバランスからして、立ち上がって海底を歩くなどもできないだろう。ゾーイたちは竜使いを動員し、海竜も使い周辺海域の哨戒を続けているそうだ。
「それに人工知能で動いているとはいえ、指令自体は上の人工衛星から受けている。海の中では受信ができないんだ」
襲来したトライポッドは一機であった。おそらくは偵察型であろう。奴らは大陸も島嶼部までもと、手を伸ばしてきている。
しかし各国は情報を交換して連携、トライポッドの撃破に成功しつつあった。降下途中の迎撃成功は良い戦訓になるであろう。
「大丈夫だよ。僕たちは負けない」
「はい」
そうは言ったが、火星人も馬鹿ではない。それにこの世界の情報も持っている。更なる新型の投入も考えられるのだが、ユーキはあまり不安ばかり煽るのはどうか? と思っていた。
今、ユーキとフィローラの二人は山岳部、国境線付近の偵察任務に就いていた。例の反乱グループの越境を警戒しつつ、偵察のために徘徊する幻獣兵器の掃討をしている。既に三体に遭遇しこれを倒していた。
他にも複数のパーティーが戦果を上げ、敵の浸透を伺わせていた。アーヴィア王国にも敵の魔手が迫っている。
「マリエッタとフィリスの様子はどう? 何か聞いている?」
ユーキは娘たちのことも気になっていた。三人は寄宿舎のルームメイトである。
二人は学校の合間にゴーレムを操る訓練を受けていた。
「念動を上手く制御できないと嘆いています」
「そうか、力が強ければ良いってものじゃないみたいだしね」
ユーキはズベルアフの言葉を思い出した。制御魔法で調整しながら感応し一体となる……、と言っていた。それはゴーレム使いの仕事であるからマリエッタとフィリスは、一体にさせられる《・》側の魔法使いとならねばならない。
「二人ならいずれ習得するさ」
「はい」
適性が認められれば、二人は正式に部隊に配属される。




