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第二十六話「驚異の魔人」

 ユーキとズベルアフは沸き返る陣地の上空まで一気に引く。


「僕の魔力は尽きたよ」

「こちらもだ。ここまでだな……」

「しかし……」


 残り一体に取り付いていた輪が、ユーキたちの魔力と共に消滅する。体勢を立て直したトライポッドは、再び熱線を発射しながら進撃を開始した。


「くそっ!」

「大丈夫だ。援軍が間に合った」

「援軍?」


 その時、兵たちの歓喜がどよめきへと変わる。その視線の先の遠くに、こちらに接近する巨大な人影が見えた。


「来たな……」

「あれは! しかしなんて大きさだ……」


 その影は魔人ゴーレムだった。岩と泥で作られる土塊(つちくれ)の魔導人形ゴーレムは、魔法の力で動き人間以上の腕力を発揮する。しかし、その動きは鈍く、動かせるのはせいぜい体長二メートル前後までだ。操れる魔法使いは少なく、対トライポッドの戦力としては考えられてはいなかった。


「なんて大きさだ……」


 このゴーレムは体長が二十メートルほどもある、考えられないサイズだった。


 まるで石臼がひかれるような、岩と岩とが擦れ合う音を響かせ、ゴーレムは陣地の横を悠然と通り過ぎて行く。ユーキもまた、兵たちと同じように呆れるようにその勇姿を見る。


 頭部には装飾の付いた兜を被り、顔には切れ長の目と、くまどりが描かれた面。体には一部金属の装甲板と、革の帯が巻かれていた。


「あんな代物を用意していたのか……」

「初陣となるが、期待通りの力を発揮してくれよう」


 ユーキは合点(がてん)がいった。群将ドッジズムドの余裕はこれだったのだ。人間にとっては初めて見る姿であり、魔族にとっても初見の兵が多いようだ。皆、口を開けこの威容を見つめている。


 トライポッドは残った残った二門の熱線を撃ちかけ、障壁がその攻撃を阻む中、ゴーレムは少し体勢を低くして走り出す。


 腰を捻って右の拳を引き、障壁をかいくぐった熱線に岩の体を焼かれつつ、繰り出した拳がトライポッドの胴体にブチ込まれた。続けて水平に振られた左の拳が突き刺さり、さしものトライポッドもグラつく。


「すっ、凄い!」


 ゴーレムは、両拳(りょうこぶし)にいくつも突起が付いた鋼鉄の輪を握っていた。どうすればあんな質量の巨体を、こんなに素早く動かすことができるのか? 


 ユーキが周囲を見回すと、陣地の上空に障壁の球体に守られた十数人の魔導士たちが現れる。どうやらあの集団がこの巨人を操っているようだ。


「しかし――、複数人で一体を?」

「各自が割り当てられた部位を動かし、一人の制御魔法で調整しながら感応し一体となる……」

「制御魔法?」

「ゴーレム使いなら誰でも持っている力だ。ただし全ての者がここまでできるとは限らない。訓練と集中力の鍛錬、そして才能が必要だ」

「こんな戦いがあるなんて!」


 ゴーレムの格闘戦は敵を圧倒している! 想定外の戦術なので無理もなかった。トライポッドの体長は三十メートルほどあるが、その半分は細い三本足だ。重量ではゴーレムの方が(まさ)っている。


 接近したまま熱線砲口の触手を両手でつかみ取り、ゴーレムは力任せにトライポッド蹴り飛ばした。二度、三度と続けると触手は火花を発して千切れ、互いの間合いが開く。


「やった!」


 ゴーレムは熱線砲口を投げつけ、飛び退いたトライポッドの尻に火が付き白煙が巻き起こる。例の個体燃料ロケットが点火したのだ。


 若干の浮力を得たトライポッドが更に後方に飛び退き、追いすがるゴーレムの体を熱線(ヒートレイ)が焼く。体にまとっている金属製の鎧が焼き切られ、体から剥がれ落ちる。


 飛び上がったトライポッドは空中で一瞬静止し、最大に近づく推進力が徐々に巨体を押し上げた。


「くそっ!」


 ゴーレム更は追いすがりトライポッドの一脚をつかむ。ロケットにはさすがに両方の巨体を持ち上げる力はなく、白煙が辺りを包み熱線の光がその中で点滅した。


 ゴーレムはトライポッドを振り回し、巻き起こる風が煙を拡散させる。放り投げられながら発射された熱線は照準が定まらない。


 地面に叩きつけられたトライポッドに、ゴーレムは猛然と襲い掛かり一脚を|鷲摑《わしづか》む。熱線に体を焼かれながらも細い足を捻じり上げると、メキメキと音を立てて関節が砕けた。


 ゴーレムは配線のようなワイヤーを引き千切り、その脚部を砲口に向けて振り下ろす。発射された熱線が、足のミラーコーティングに反射し四散した。何度も振り下ろされる棍棒に熱線は完全に沈黙し、ゴーレムは原始的な攻撃を頭部に切り替える。


 既にトライポッドに反撃する武器はなく、ただ振り下ろされる自身の足の打撃を受けるのみだ。突然、足掻く触手が動きを止め、トライポッドの装甲の隙間から火が吹き上がった。自爆装置が作動したのだ。


「やった! やったぞ……」


 戦いは終わり、得物を投げ捨てたゴーレムもまた、仁王立ちのまま沈黙した。


 ズベルアフは陣地に降下しユーキも後に続く。魔族、アーヴィア、フレイトスの戦士や魔導士たち、魔法使い全員がこの勝利に、あるものは拳を突き上げ、あるものたちは抱きつき合って、歓喜の声を上げている。



 上着と肩の鎧、マントを付けられたズベルアフが椅子に座ると、障壁を解いたゴーレム使いの一団が御前に降り立った。フードを目深(まぶか)に被った小柄な人物を先頭に王子の前に進み出て跪く。


「御苦労だったな。ゼナイド」

「御期待に添えて何よりです。殿下」


 フードを外したその容姿はまだ幼い少女である。額に小さな角、尖った耳、赤くて長い巻き髪。


 その集団の一人が崩れ落ち、更にもう一人が地面に倒れ込む。兵が担架を運び、従者たちと共に気を失った魔導士たちを搬送する。ゴーレムの操作はかなり消耗するようだ。


 ズベルアフは立ち上がる。


「ユーキ、そして他国の戦士たちよ。助力に感謝します。皆の働きで街とこの大地は守られた」


 魔族は対火星人との戦争に備え、着々と準備を進めているようだ。


   ◆


 戦いが終わり魔族領の施設で、和平に向けた予備の予備交渉が開始される。終戦から同盟に向けての一里塚だった。


 対ゴーレム戦の映像魔法を見たアーヴィア王国の官僚たちは、腰を抜かさんばかりに驚いた。


 魔族統一王国、ジェーヒャからはゴーレム技術の供与が約束される。和平条約の締結が条件であるが、この状況を鑑み前倒してもよいと魔族側からの申し出があったのだ。フレイトス連邦共和国が実用試験を準備中で、アーヴィア王国もそれに続くこととなる。


 交渉は順調に進んだ。


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