第二十五話「魔族の戦い」
魔族の紋章を染め抜いた陣幕。それを背景に立ち並ぶ高位の制服の数人。その前には簡易な椅子に、威厳のある鎧姿の青年が座り、腕を組み瞑目していた。
ユーキたちの来訪を受け、その魔族は目を見開いて立ち上がる。
「私は魔族統一王国、ジェーヒャの王子ズベルアフです」
黒髪からは二本の角が伸び、切れ長の目は黒く猛禽類のような光を放つ。そして口元には二本の牙が顔を出していた。頬にはくまどりのように赤い文様が描かれている。
後ろに控える戦士と魔導士たちは、手を後ろに組み下を向きに目を閉じ、戦場に集中しているようだ。
「ようこそ魔族の国へ。取り込み中につき失礼の段、お許し頂きたい」
「撃滅には我らも御助力いたします」
「クリフォード殿、ありがたい申し出ですが貴国の飛竜と戦士――、騎士の御助力は無用です」
「しかし……」
「この地で他国の戦死者を出す訳にはいきません。魔法の援護を頂けるだけで十分です」
「分かりました」
この魔族の王子とクリフォードは既に面識があるようだ。王子は遠くの戦場を見やった。
「私も出るぞ、兵たちを下がらせろ……」
王子がそう告げて目を閉じると、側面に並んでいた従者たちが肩の装甲とマント、続いて上着を恭しく外す。そして目が開かれると、黒かった瞳は金色に変わっていた。
ズベルアフは陣の先端へと進み腰の大剣を抜く。そのまま浮遊し、迫りくる二体のトライポッドへと向かう。
その姿に魔族の陣地が沸き返った。
「ついに殿下が出られるぞ!」
「王子の御出陣だ! 攻撃を中止しろっ、障壁を強化するんだ」
「戦士を下がらせるんだ。急げっ!」
ユーキたちも王子を追いかけて陣地へ向かった。アーヴィア軍、フレイトス軍が魔族を助け協力してる。フィローラたち、そしてカナの護衛二人組も必死の魔法を繰り出していた。
「全員障壁の展開に集中しろ! 王子が戦死しては、終戦協定は御和算だ!」
クリフォードが叫び、ユーキはこのままではいけないと考えを巡らした。
「僕も行くよ!」
「私も手伝うわ!」
ユーキの言葉にカナが身を乗り出す。
「いけません! カナ様~、戦闘に参加するなど……」
「私たちが処罰されてしまいます……」
再びカナの元へと駆け寄って来た、護衛のアンガスとバイロンの進言はもはや哀願か泣き落としに近い。
「大丈夫です。ここから魔法でノワールをアシストします」
「皆! カナが入る。要領は覚えているね」
「「「はいっ!」」」
ユーキの問いに三人娘はそろって返事をする。カナは転生者特有の力、魔力を蓄える技術の教官でもあり、彼女たちやユーキにとっては先輩でもあるのだ。
「カナの助力があればいけるさ」
ユーキも剣を抜き、トライポッドを前にして空中に立ちはだかるズベルアフに並び立った。
遠くに蠢く三体と、攻撃、障壁のきらめきが見える。
「僕はユーキ……」
「噂のノワールか。手伝ってくれるのか?」
「奴とは二度目だ。今回はもっと上手くやれると思う……」
「そうか……、援軍が来るまでの時間稼ぎだ。互いに連携しつつ一対一で戦う」
「援軍?」
「そしてその後に一体を共同で撃破だ」
「分かった」
互いの剣に共に魔法の刃が出現し回転を始めた。ズベルアフもまたユーキと同じ技を使う。精神感応で繋がった二人は、計らずともそれぞれの目標、トライポッドに向けて突撃を開始した。
大勢の魔導士、魔法使いが空中に無数の障壁の花を咲かせ、幾多の魔法が戦場に色とりどりのきらめきを見せる。
二人は熱線を避け地表すれすれに舞い降り、トライポッドの足へと一撃を加え、上昇しつつそのまま後方へと抜け左右に分かれた。トライポッドは体制を崩すがすぐに立て直し、熱線の攻撃が二人に追いすがる。
ユーキとズベルアフは閃光のようにそれぞれの敵に攻撃を仕掛け、足を止めたトライポッドは狂ったように三門の熱線を発射した。
目で追いきれない機動で挑む二人に、場は乱戦となりトライポッドは同士討ちとなるが、熱線の攻撃はその装甲に弾かれ光が乱反射する。
「合わせろ!」
ユーキが戦うトライポッドに向かって来たズベルアフは、大型の砲口を操る触手を下から剣で突き上げる。
「いけえっ!」
意図を察し、それに合わせてユーキは剣を振り降ろした。触手は千切れ、二つの刃が交わり火花が散る。
障壁をまとい、熱線の十字砲火に身をかわし、二人はもう一体のトライポッドの背後に回り込む。追撃する熱線の触手に再び同じ攻撃を繰り返し、更にもう一体の大型砲口を切断した。
トライポッドはこの攻撃を警戒し、二体は接近しつつ後ずさる。ズベルアフが剣から刃の輪を発射しながら後退し、ユーキもまたそれに倣う。二つの輪は一体のトライポッドにまとわりつき、その動きを封じた。
「残りの一体に攻撃を集中するぞ」
「分かった!」
そう言うズベルアフの剣の障壁が、大剣のごときに伸びて回転を始める。そしてユーキの剣もまた、同じように姿を変えた。カナが加わったパーティーの力だった。
ズベルアフは剣を下向きに構え、大地を引き裂きながらトライポッドに向かう。そしてユーキは上段から攻撃を加えるべく一度高度を上げてから、剣を振りかぶり一気に降下した。
トライポッドは二門残った熱線をそれぞれの目標に向かって発射するが、障壁が何重にも展開して攻撃を阻む。
振り下ろされたユーキの剣と突き上げられたズベルアフの剣に、上下から叩きつけられた障壁の刃は一つの輪に繋がり、火花を発してトライポッドを締め上げた。
足元がふらつき誤動作なのか、生き残った砲口が空に向かって熱線を撃ちかけ、そして突然火を噴いたトライポッドは地面に倒れ込み沈黙する。
「やった!」
二人の同時攻撃、そしてこの場にいる大勢の魔力が結集され、一機のトライポッドがついに撃破されたのだ。




