第二十三話「ノワールの出撃」
ラスツゥール・レ・カナを代表とした車列がゆっくりと動き始め、ユーキたちは騎乗して最後尾に続いく。
ここからは使節団一行に付き合って全員陸路だ。ユーキたち、そしてクリフォードたちフレイトス連邦のオブザーバーたちも、馬に乗り列に加わった。
「ふふっ、ノワールは有名人ですね」
「上げ底の騎士だよ。騙しているみたいな気分だ」
フィローラは少しだけ冷やかすように言った。ユーキは変な噂が広がらないか少々心配である。
「ユーキ、何かあったのか?」
遠くから様子を見ていたのか、クリフォードが馬を並べかける。
「いえ、こちらの顔合わせが不十分でした」
身内の話であったが、ユーキは事の顛末を説明する。
「なんだ、そんなことか……、こんな場所で剣に手を掛けるとはなあ……、我らもいるのに」
「申し訳ありません。任務に忠実な若者たちでして……」
「まあいい、急な話だったから仕方あるまい。貴国の事務方はよくやってくれているよ。しかしノワールとはな……」
クリフォードは珍しく少しだけ笑った。
魔族も国境近くに同じような施設を作り、フレイトス連邦側と終戦の交渉をしていた。今回も同じ施設が使われるらしい。
一行は国境線に到達する。こちらの門兵は当然魔族だ。半獣人とでも形容すればいいのか? 人間の容姿に顔を覆う獣の毛、角に牙。それぞれに統一感はなく、牙と角がなければ人間と同じような容姿の女性の姿も見える。
先導する馬車から交渉団が下りて、書類が提示されゲートが開かれた。魔族の騎馬四騎が先導に付き、ユーキたちは周囲を見回しながら最後尾で警戒する。もちろん剣には手など掛けない。
意外にも周囲に見える魔族の兵たちに、さほどの緊張感や警戒感はない。フレイトス連邦との交渉で人間の訪問団には慣れているのだろう。
前方から早馬が接近し、乗り手が慌てた様子で下馬した。
「クリフォード様っ!」
先発していたシャノンが息を切らせて駆け寄って来る。ただならぬ気配に、使節団は何事かと色めき立ち、全員に緊張が走った。
「ズベルアフ様から緊急です! 魔族領に新たな敵が進撃を開始しました」
その名は魔族特有の名前だった。フレイトス連邦はすでにかの国と、迅速な連絡手段が確立されているようだ。
「場所と規模は?」
「近いです! 敵は二体。山中から近くの街へ向かっているとのことです」
「二体か! 軍団は直ちに出撃せよ! 我々もすぐに出る」
「はっ!」
シャノンはクリフォードに敬礼を返し、すぐさま自国領へ向けて飛び去る。
「また魔族領かっ! それも我が国に近いだと?」
「いったい……」
「分断を狙っているようだ。出れるか?」
「もちろんです!」
ユーキが了解の返事をすると、フィローラ、そしてマリエッタとフィリスも緊張した面持ちで頷く。
先頭の馬車から降りたカナがマントをなびかせ、ユーキたちに駆け寄ってくる。
「ユーキ! 先陣はあなたが務めなさい!」
「えっ、僕が? なんで?」
「ノワールの存在を見せつけるのよ!」
「それは……」
「私も賛成だ。魔族に我らの絆を見せる絶好の機会! 全員注目せよっ!」
クリフォードは剣を抜き、高々と掲げた。
「我らフレイトスとアーヴィアの連合部隊はこれより魔族領に進出し、かの地を進撃する敵、トライポッドを撃滅する」
「「おーーっ!」」
成り行きを見守っている数人、主にフレイトスの騎士たちが声を上げる。
「先陣はアーヴィアの騎士、ノワールが務める。皆、遅れをとるな!」
「「「おーーっ!!」」」
そして全員が拳を突き上げて雄叫びを上げた。
使節団の政務官たちは慌てふためいている。官僚からすればこんな予定変更はあり得ないことだ。騎士が全員出撃すれば彼らはここ、魔族領内で護衛を失ってしまう。
調整を終えた将軍とクリフォードが戻って来た。
「ユーキ、一部を残して出撃します。私も同行しますよ。いや、久しぶりに血がたぎりますなあ」
「こちらも最低の護衛を残して出る」
出撃すると宣言し、既成事実を作られては官僚たちも折れるしかない。クリフォードの作戦勝ちだった。
「戦力が魔族領内深くに進出してもいいんですか?」
「ああ、協定で非常事態の往来、進出は自由だ」
「ユーキ、私も行くわ」
「いけません! カナ様……」
「とんでもない話です!」
身を乗り出すカナを護衛二人が止めにかかる。彼らの考えも官僚たちと大差なかった。立場上この反応は仕方がない。
「あなたたちはホント情けないわねえ……、私はアーヴィア王族の一員としてここで気概を見せなければならないのよ! さあ、ユーキ、何か言いいなさい」
「えっ? 僕?」
「気合を入れるのよ!」
「分かった。やるよ」
観念したユーキは浮かび上がり空中で停止する。皆が様子を見守る中、フィローラに続きマリエッタとフィリスもまた浮かび上がり後に並んだ。
ユーキは剣を下向きに抜き、全員を見下ろしながら叫ぶ。
「勇気ある者はこのノワールに続け! 出撃だっ!!」
「「「おーーっ!!」」」
垂直に飛び上がるユーキたちに、次々と他の騎士、魔導士たちも続く。
そして戦場を目指して飛ぶ一団に、後方からも無数の飛竜と騎士、魔導士たちが追いつき、ユーキたちを取り囲んだ。
「この人たちは……」
「対トライポッド戦の軍団だ。魔族との戦争が終わったので、特別に編成し国境線に張り付けていた」
トライポッドは強敵だ。それなのに躊躇なく大勢が大空を――、編隊を組んだいくつものパーティーが、最大戦速の細い雲を尾に引きながら戦場へと飛ぶ。




