第二十二話「共闘する者たち」
中央部にあるギルドにはすでに職員が戻り、街の復興か廃棄かを検討しているらしい。隣のホテルは軍が接収していて、ユーキたちはクリフォードを訪ねた。
数人の軍人がロビーで大きな机を囲んでいる。こちらに気が付いたクリフォードは立ち上がり、シャノンともう一人の女性が続いた。
「よく来たな……」
「ここまでの戦いの跡を見てきました。僕はなんて勝手なことを……」
「ふん、気にするな。理想を忘れれば、人はただの外道に堕ちる。私のようにな」
「そんな……」
「冗談だよ。奴が何をやったか理解したか?」
「だいたいは……、生存者はいたのですか?」
「何人かは西門から脱出している」
「そうですか……」
三つある門の二つを破壊したトライポッドは街の路地を分断しながら残った門に陣取った。
そして街中に戻り同じことを繰り返し、再び西門に戻り出口に殺到する住民を殺戮した。パニックを起こした群衆は効果的に袋小路に追い詰められ、触手に薙ぎ払われ、巨体に押しつぶされた。逃げ道をふさがれ、火災と煙に巻かれて死んだ住民も大勢いたはずだ。
敵の意図は明白だった。人類の殺戮とこの世界の浄化。遠隔操作と人口知能の機械でここまでできるのだ。
「国境近くにある施設まで向かう。そこで貴国の使節団と合流する予定だ。飛べるか?」
「はい」
ここからは夕刻まで飛行を続ける、国境を目指す長旅だ。
クリフォードたち三人はデルタ編隊で空気を切り裂き、ユーキたちも速度重視のダイヤモンド編隊で続いた。
「三人でこの巡行速度か……」
「はい、強い力がありますね」
常にクリフォードに付き従う二人の魔導女子は、魔女と呼んでも差し支えない力を持っているようだ。
◆
魔族との国境線は数百年間戦いが繰り広げられた激戦地だ。そこには交渉に使うために、いくつかの建物が建設されていた。
ユーキたちはシャノン嬢に案内され。宿泊施設の部屋に入る。ソファーセットにバス等の洗面、ツインサイズのベッドが四つ置かれていた。内装は用途柄簡素だがスイートなみの広さである。
「同じ部屋なの?」
「いけませんでしたか? 一応、使節団の事務方に確認はしたのですが……」
カナの仕業だとユーキはすぐに気が付いた。
「いや、構わないです」
「そうですか。それではまた明日……」
「うん、ありがとう」
シャノンは一礼する。ユーキたちは装備品を外す。
「ここは最前線のようなものだ。相部屋で悪いね」
「私たちは全然平気ですよ」
「いつもは四人部屋に私たち三人ですから」
マリエッタとフィリスが同意して、寄宿舎での部屋割りを説明してくれた。夜襲などはあり得ないだろうが、何事か起こった場合、同じ部屋の方が都合良い。
「そう、お腹が空いたな。レストランに行こうか」
ユーキは食事をしながら奥の扉を見る。カナは今頃、貴賓用の個室で顔合わせも兼ねた夕食を取っているはずだ。アーヴィア王国とフレイトス連邦の交渉は、もう始まっている。
食事が終わり女の子たちから順にシャワーを浴びた。シュンがバスから出ると部屋にはすでにガウン姿のカナがいて、フィローラたちと話をしている。
「ユーキ、一部屋で悪いわね。皆と話したかったから」
「いや、別に構わないよ。僕たちはパーティーだから。それより貴族様がこんな一介の冒険者の部屋に出入りしてもいいの?」
ユーキはもちろん冗談めかして言う。
「一介じゃないわ。あなたたちは若手の、新進気鋭の最強パーティー。そのうちに王都からお呼びがかかるかもね」
「まさか? 例の街は見て来た?」
「昨日ね。我が国の高官たちは青くなってたわ。これでもう魔族がどうとか、グダグダ言う人もいないでしょう」
「まあね。火星人は人殺しのために、この星に来たようなもんだよ。力を合わせなきゃ……」
「うん」
「ところでクワクリルトン諸島共和国との同盟の件はヴィセンテのお手柄なの?」
ユーキたち密使の働きもあり、アーヴィア王国とクワクリルトンは同盟を締結した。
「うん、彼も簡単には会えないのだけど、ちょっと耳打ちすれば王様に直接届くルートがあるのよ。上手くいったみたい」
「そいつは凄いね」
そして、カナが明日からの予定を説明し、これからのことなど五人で見立てを話し意見を出し合った。徹底抗戦が前提でいかなる戦術、編成で戦うか、などだ。
いつもなら貴族社会の噂話などをカナが話し、三人が目を輝かせて拝聴するのだが、こんな状況では戦いの話になってしまうのはご時世で仕方がない。
翌朝、出発準備を進める馬車の列に、カナは儀礼用の鎧姿で現れた。白を基調として赤と金で装飾された革の鎧。胸はパッドで強調され大きく開き、谷間にはネックレスの宝石が光る。
ウエストは細く腰回りには装甲が付いた鎧姿。下半身は側面に深いスリットが入る白いロングスカートだ。切れ目からは白い太腿が見え隠れする。白いロングブーツに、ノースリーブの肩を白いマントが隠す。そして腕には金の刺繍が施された、同じく白のロンググローブをはめていた。
髪は盛りで整えられて、耳共にアクセサリーが輝いている。そして腰には黄金に光る鞘のレイピア。
ただの令嬢や御婦人ならドレス姿になるのだろうが、今日の場合は威厳を感じさせる、鎧姿が似合う者が適任だ。魔族にも受けがいいだろうと、ユーキは納得した。だからカナであったのだ。
「おはよう!」
ユーキは軽く手を上げいつものような態度でカナに歩み寄る――が、周囲にいた若い護衛二人が剣に手を掛けて間に割って入った。
「おいっ……」
「無礼なっ!」
カナに付いている二人の護衛はまだ若い少年のような若者で、高級貴族の子弟で実力のある者が抜擢されていると以前カナから聞いていた。
二人はユーキを睨みつける。
「ちょっと、あなたたち!」
「えっ?」
「まったく……、それでは護衛失格ですよ!」
カナにいきなり叱責された二人の若者は困惑している。傍流とはいえ高級貴族らから見ても王族は雲の上の存在だ。力みすぎる気持ちは分かるとユーキは特に気にしない。
「相手が誰かも見極めずに……」
「まあまあ、カナ様。それぐらいにしておいて下さい」
「先が思いやられますわ」
完全装備に身を固めた未だ衰えを知らない体躯の老人、将軍の登場に出しゃばり護衛の二人は背筋を伸ばす。
「お久しぶりです将軍」
「久しぶりですね。ユーキ。無礼をお許し下さい」
ユーキは挨拶し老将軍も柔らかく返した。地位や階級の上下にこだわらないのは、軍務時代も同じであった。
「いえ、別に……」
「お前たち、彼は巷で噂のノワールの騎士だ。剣を抜かなくてよかったな」
「えっ、ノアー……」
「この人が?」
二人は顔を見合わせた後、慌てて頭を下げる。
「もっ、申し訳ありませんでした!」
「失礼の段、お許しください!」
「いや、別に構わないよ。カナは僕にとっても大事な友だ。しっかり護衛を頼みます」
「「はっ!」」
長い戦乱中、戦場では力こそが正義であり、絶対の真理だと教えられていた。例え貴族であっても戦いの場で弱きは雑兵扱い、全体の勝利こそが至宝と徹底して教育されているのだ。
それ故にノワールは貴族たちにとっても尊敬の対象だった。軍は武を持って国に仕え、貴族は礼を持ち民衆を治める。
まだ魔族との戦争が本格化する遥か昔、道を踏み外した貴族社会は権力の座から引きずり降ろされた。この大陸の半数が共和国たるゆえんだ。
アーヴィア王国は未だ強固な王制により統治されているが、それは王族と貴族が国民から尊敬される対象だからこそである。
「ユーキといつもの三人が来てくれるので安心だわ」
「一見して身分が高いって分かる格好でよかったの? 目立つよ」
「ハッタリよ。私もどうかと思うけどね……」
どうやら、こちらはこれだけの人物を送り込んだと最初に示す作戦らしい。




