第二十一話「殺戮の街」
「――と言う訳でまた他国に出張だよ」
「大忙しだな。やっぱりヤツと直接戦ったことがある人間の方が、説得力があるからな」
クワクリルトン諸島から帰ったユーキは、情報交換も兼ねてシンヤを飲みに誘った。そして次の予定、トライポッドの被害地調査。魔族領へと向かう使節団の護衛任務について説明する。
「カナと途中で合流するんだ。でもなぜカナなのかな?」
「意味があるんだろ?」
「うん……」
ユーキは使節団に彼女が選ばれた訳を考える。
「そうか、あっちも……」
「ああ、あちら側も王族クラスを出してくるかもしれない。その時の予防線だな」
「直系は出さないんだ」
「来ない場合もある。どちらに転んでもカナなら適任だよ。ありゃあ戦神の乙女だからな」
はたして魔族は予備協議のさらに予備に王族を出席させるだろうか? こちらはそれだけ、和平への意欲を見せるのだ。火星人の脅威にさらされていないころには、考えもしない話であった。
今回の協議は予備の予備とは言え、実務の要素が強い。上は色々考えているとユーキは感心した。
「そうそう、その使節団に将軍も同行することになったよ。本人が言っていた」
「将軍かあ、最近会ってないなあ……」
将軍とは西のギルドで世話役をやりつつ、パーティーにも参加し幻獣狩などの仕事もこなしている元軍人の冒険者だった。
そのニックネームの通り、元は将軍まで上り詰めてた軍人で、引退後も冒険者となりこの王国のために働いている筋金入の愛国者だ。シンヤが付き合っている女性は、将軍の末娘だった。
「ウォーミュラが私も行くって頑張ったけど、王国の重要行事に割り込むなんてなあ……、いくら将軍の娘でも無理さ」
シンヤはうんざりといった表情で言う。ウォーミュラとはその彼女の名だ。
「将軍が来てくれるなんて心強いよ」
「ああ、魔族と命の遣り取りをした者だからこそ、腹を割って話せる場合もあるしな」
将軍はアーヴィア王立軍を率いて他国に遠征し、何度も魔族と対峙してきた。
「この国の政治は安心して見ていられる。問題は他の国だな……」
「うん……」
確かに他国の動向は、ユーキたちにはよく見えてこない。水面下で交渉しているのだろうが、上手くいっているのか難航しているのかと、ユーキは少し心配になった。
クリフォードからは、幾人かの貴族、そして軍の高官の屋敷から水晶の卵が見つかったと連絡があった。反乱を企てたグループはやはり火星人に操られていたのだ。
ここアーヴィア王国ではイヤーフェウスの貴族、骨董などの商店から見つかった。貴族の場合はもう十年間も倉庫で放置さていたり、たいして使用されない予備の応接室で埃を被っていたりの状態だった。幸い今まで王都での発見はない。
水晶の卵は火星人の研究材料でもある貴重品だ。故に破壊ははばかられ、今は城の地下室深くに封印されていた。
◆
ユーキたちはいつもの四人で編隊を組み国境線を越える。フレイトス連邦共和国に入り、まずはあの残骸が残されている地を目指した。
その後、襲撃を受けた街を見て、カナが参加している使節団と合流し、魔族領に入る予定だった。
第一次フレイトス戦役跡はクリフォードが言っていたように、周辺には既にいくつもの建物と道路ができ上がっていて、そこはさながら村の様相を呈していた。人影も多く見え、こちらに気が付いたのか幾人かが空を見上げている。
そしてユーキたちは、トライポッドが進撃して来たルートを逆にたどって飛行する。麦畑には焼け焦げた黒い筋が不規則に描かれ、おそらくは人間が焼かれたであろう場所は、黒い染みのようになって点々と広がっている。
「酷いな……」
「はい……」
現実を目撃したユーキたちには、ここでどのような殺戮が行なわれたか想像がつく。そして命を懸けてアーヴィア王国への進撃を阻んでいた尊い戦いを、ユーキは青臭い理想論で否定してしまったのだ。
「僕はとんだバカ野郎だよ……」
「そんな……」
察したフィローラがとりなしてくれた。
戦いの軌跡は穀倉地帯、草原から森へと変わり、街道寄りへと向かっていた。森は広範囲に火災が発生したようで、木々は黒く焦げ立ち並んでいる。
そして街が見えてくる。一部破壊された城壁後が生々しい。そこは夜間トライポッドに蹂躙された街だ。
「降りようか」
「はい」
上空から俯瞰するよりも、最初は被害を受けた民衆の目線で街を見ようとユーキは思った。城門に仮設の受付所らしき天幕を見つけて降下する。
その受付に行きフレイトス側から発行された許可証を呈示すると、まだ若い兵は背筋を伸ばし見事な敬礼を返す。
「どうぞ!」
「ありがとう……」
ユーキが礼を言い、フィローラたちは頭を下げて西の城門を潜る。どうやら何か特別に発行された許可証のようだ。
「ここも酷いな……」
戦争の傷跡は数多く見てきたが、この街の光景は異様でそれとは違った。木造の建物は殆どが焼け落ち、石造りの外壁や石畳の所々が筋状に変色している。
「熱線に焼かれたんだ……」
石造りの建物であっても屋根は木造なので、これもほとんどが焼け落ちていた。石の外壁にも何条もの筋が描かれ、黒い炭の跡が一面に広がっている。
「ここには人間がいたんだ……」
それは人型の黒い染みの集まりだ。追い詰められて焼かれた群衆の塊、阿鼻叫喚の地獄絵図である。
所々の建物は太い触手や足などで物理的に破壊されていて、壁の瓦礫が道をふさいでいる。ユーキたちは一部瓦礫が取り除かれた小道を進んだ。
中央の広場近くには拭いきれない血溜まりの跡があり、足元の血糊には長い髪の毛が大量に貼り付いていた。
「うっ、ううっ」
「大丈夫?……」
フィリスが口を押えてしゃがみ込む。背中をさするマリエッタも顔面蒼白だ。
「瓦礫に道をふさがれて追い詰められたんだな……。行こうか」
ユーキが促すとフィローラが手を握り、フィリスは立ち上がる。
街の北門は完全に破壊され城壁の煉瓦に埋もれていた。路地を通って東に向かうが、細い道は熱線の攻撃にさらされて焼け焦げ、少し広い通りは両脇の建物の壁に、三階の高さまでベットリと血糊が塗り付けられている。
そして東門も同じように破壊されいるが、今は瓦礫が一部取り除かれ辛うじて荷馬車は通行できるようになっていた。
中央に戻りつつ街並みを眺めるが、同じような破壊の跡が続く。この惨劇を見たからこそ、フレイトスの兵たちは奮い立ったのだ。
そして、ここでの殺戮を終わらせたトライポッドは西の城壁を蹴破り、アーヴィア王国領へと進撃を開始した。
「内陸の山岳部から森を抜けてやって来たトライポッドは、この街を蹂躙してから国境線に向かったんだ。次の目標は恐らくイヤーフェウス……」
もし自分の住む街が、真夜中に突然トライポッド襲われていたらと想像して、ユーキは身震いした。フィローラもマリエッタも、そしてフィリスも同じように考えているのか青ざめている。




