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第十八話「戯れの休暇」

 午後から四人は施設のプライベートビーチに移動した。広いビーチにはいくつも日よけの天幕が張られて人々が寝そべっている。


 ユーキたちはその一つに陣取った。テーブルと椅子が置かれ、敷物が敷かれている。


「それにしてもなあ……」

「何か?」

「皆、胸が丸出しだ……」

「ビーチではこうするのがここの流儀なのですよ」


 ゾーイはそう言って上着を脱いで、トップの水着を外した。ユーキはチラリと視線を移す。常に剣を振っている腕と肩の筋肉。そして腹筋と小ぶりで形のよい胸は女性魔導闘士の姿だった。


「流儀ねえ……」

「何か?」

「いや、ごめん。剣を振っている姿だと思ってさ」

「毎日振ってますから」

「ねえ、私たちもしよっか?」

「そうね!」


 フィリスが屈託なく言い、マリエッタが同調して二人も胸を露わにする。すぐに感化される素直な娘たちであった。喜ばしい。


「ねえ、フィローラは?」

「えっ、私はちょっと……」

「ダメよ~」


 渋るフィローラにフィリスが食い下がる。


「紋章を描いて貰った時に胸を出したって、恥ずかしかったって言ってたじゃない! 何を今更ねえ?」

「いっ、言わないで!」

「そうよお~~、フィローラ~~」


 マリエッタが更に追い打ちを掛けた。フィローラは隠し事なく、色々と話をしているようだ。どこまでなのか? とユーキは表情を変えないまま考える。


「胸を隠しているのは他国の人間と分かり目立ちます。我が国としてはこの国の流儀に従ってくれることを望みます」


 ゾーイの事務的な言葉に、皆が一瞬沈黙しフィローラは観念した。国を出されては、勝ち目はない。


「分かりました……」


 そして渋々といった表情で胸をさらけ出す。ユーキにとっては目のやり場に困るビーチだ。


「ねえ、泳ぎましょう」


 フィリスはそう言ってフィローラの手を引き海に向かって駆けた。マリエッタもそれに続く。三人は海に行き、残されたユーキとゾーイはリクライニングがきいた椅子に寝そべる。


 すぐ隣ではゾーイの綺麗な胸が弾けていて、ユーキはとにかく目のやり場に困ったが、胸から腰を経て描かれている紋章に目が釘付けになった。


「遠慮は無用ですよ。どうぞ見て下さい」


 察したゾーイが気を使う。


「うん……、それは海竜(シー・サラマンダー)か……、水生なんて珍しいね」

「はい、水生生物の紋章が多いです。お国柄ですね」


 アーヴィア王国では殆どが陸由来のデザインだ。地上の(サラマンダー)は火を纏っている絵が多いと聞く。


「背びれに水かき付きか。鱗みたいな模様もあるね」


 海竜(シー・サラマンダー)は、本来はトカゲなのだが頭部は鮫を思わせる表情をしていた。色はイルカのようで長い尾は後ろに回っている。


「はい、そうですね」


 ゾーイはそう言って立ち上がりお尻をこちらに向ける。ユーキは上半身を起こした。


 鍛錬をしている引き締まった片側のお尻だけが露出していて、海竜(シー・サラマンダー)の尾ヒレが描かれている。


「あははは。これは面白いなあ。意図は分かるけどさ」

「変ですか? 紋章をなるべく見せるのがデザインの主流なのです」


 ゾーイは少しムッとしたように答える。


「いや、僕の世界でも左右非対象のデザインは沢山あったよ。ただ水着で見たのは初めてなんだ。紋章を見せようとする気持ちは良く分かるね」

「そうですか」

「ゾーイは強いんだ」

「まあ……」

「僕たちのお守なんて退屈でしょ?」

「そんなことはありません。黄金の剣に薔薇。太陽に複数の剣。刺激的ですね」


 銀髪のショートヘアーに、赤い切れ長の鋭い眼光。カミソリのような美しさを漂わせる魔導闘士は初めて笑顔を見せた。



 遥彼方の沖合で突然大きな水柱が上がり、少し間を置いて爆発音が聞こえる。ビーチの人々が水平線の先を見ていた。ユーキも立ち上がり収まりつつある水柱に目をこらす。


「心配にはおよびません、海竜(シー・ドラゴン)除けに時々炸裂魔法を使っているのです。監視は完璧ですから」

「そう……」


 この国を海上封鎖するために、魔族は海の幻獣に魔法を掛けて大量に放っていた。ユーキらの場合は山で幻獣兵器を狩っているが、この国は海が戦場なのだ。


「この紋章に描かれている海竜(シー・ドラゴン)も沖合で待機しています」

「僕たちの護衛って訳だ」

「彼女たちの周りに人が増えてきましたね。私も海に入ります」

「御苦労様です……」


 ゾーイはあくまで仕事に徹していて、楽しむ気分はさらさらないようだった。



 その後はユーキもフィローラたちと海で泳ぎ、ゾーイは留守番と言って天幕の下でこちらに睨みを利かせる。輝く太陽と白く光る大きな雲の下、皆でビーチを歩き気が向いたら海に入った。



 夕食はゾーイの提案で街のレストランに行くことにした。警備の関係上わがままは言えない。


「この街のダウンタウンも、よろしかったら見てもらいたいですから」


 新しい水着に着替えて上着を羽織る。街には大勢の観光客が同じような姿で歩いていた。


「この中には政治家や他国の王族、貴族などもいるのです」

「つまり、偉いさんも羽を伸ばせる訳だな。納得だよ」

「ええ、服装で何者かは判別できませんから。リゾートならではですね」


 マリエッタとフィリスは、おのぼりさんのように周囲を見回している。


「ここにしますか。海老料理のお店です」

「海老!」


 ユーキは思わず声を上げ、天ぷらを想像してしまった。


「海老が好きなんですか」


 フィローラがユーキの顔を覗き込む。


「まあね、僕の世界では大きな海老は高級品だったけど……」

「この国では、その大きな海老が沢山取れるのですよ。そのうちに生かしたまま貴国にも輸出されるでしょう」

「それは楽しみだなあ……」


 ユーキはこの世界に来て初めての海老料理にかぶりつく。それは前世で言うところのロブスターだった。


 縦半分に割り片面に小麦粉を振って、バターで焼かれている料理だ。スープも海老の殻で取られていて旨味が凝縮している。


 パンには様々なフルーツが練り込まれ、デザートにも色々なフルーツが出された。ユーキたちは南国を堪能する。


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