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第十五話「転生の仲間」

「あの国は魔族と結託して、この国を攻めるなんて噂もあるな」

「まさか? そんなことって……」


 ユーキとシンヤは飛行しながら、精神を感応させ会話を交わす。


「本気で殺し合いをやったからこそ、信頼できる同盟国になったんだ」

「そうだけど……」

「まあ、今日話した感じじゃあ、あれは単なる噂話だなあ」

「そうだよ」


 シンヤは楽観的な口調で話す。ユーキもそう思った。魔族と共にこの国を攻めるなど冗談にもならない。


「新たな敵が現れたんだ。それも強力な。この世界の住人同士で争っている場合じゃないさ」

「僕らの国は決断してくれるかな?」

「水晶の件は朗報かもな……、協定や同盟に反対している連中に水晶のレッテルを貼って一掃できる」

「……」


 汚い手だと思うが、この状況では仕方ないとユーキも思う。魔族と同盟しているフレイトス連邦と同盟することは、魔族と手を握ると同義語だ。反対する人間は大勢いる。チェリッツの姿が目に浮かんだ。


「しかし魔族も撃退に成功したなんてな……、大したもんだ」

「うん、どうやって倒したのかな……」



 ユーキたちは夕刻ギルドに戻り、再び聞き取りが行われた。担当官はユーキには馴染みの顔だ。


 二人はそれぞれ個別に分かれて、一対一で調査を受ける。ユーキは一通り説明をし、特に水晶の卵については早急に対処が必要だと力説した。そして次はシンヤと一緒に話を聞かれ差異を詰め、ギルドの映像魔法を使う魔導士に記憶を確認される。


 ユーキは空間に映されるトライポッドの姿を見ながら、この世界の人間にどこまで理解してもらえるのかと心配になった。


「あの、シンヤ様、ユーキ様。少しよろしいですか?」


 部屋に入って来た若い少女のような職員が紙片を差し出す。


「カナ様から御伝言を頂きました」


 シンヤがそのメモを受け取る。


「ふーーん何かな? ははっ、明日は屋敷に来いってさ。話を聞きたいそうだ」

「僕らが今日、残骸を見に行くことを知ってたんだ」

「さすが高級貴族の御夫人様。御立場上情報を手に入れるのが早いね」


   ◆


 カナとは鳥羽(とば)佳菜子(かなこ)のことだ。ユーキたちと同じ転生人で歳は二十三歳。


 シンヤがフィローラたちに話していた、女の子向けの服を安く作る事業を計画している主がカナだった。


 この世界に来てユーキたちと同じように、冒険者として戦争にも従軍していた。そして同じ従軍していた貴族の若者、なんと傍流ではあるが王族の一人に見初められ恋に落ちる。


 そして二人は正式に結婚した。戦場で戦っていた冒険者が一夜にして高級貴族の御正室となったのだ。戦時中でもあったので、このシンデレラストーリーは美談として大いに宣伝された。


 時々カナの主人も交えて同じ転生人同士、彼女の屋敷で情報交換、打ち合わせ――、と言えば聞こえはいいが、要は飲み会のようなものを行ってきた。


 カナの提案で始まったのだが、冒険者を引退した彼女の好奇心を満たすためでもある。



「二人とも久しぶりね~~」

「お久しぶり、カナ!」

「おーす。相変わらず元気そうだな」

「元気、元気。今日は急に来てもらって悪かったわね」

「構わないさ。こんな時だ」


 カナは少し地味目な貴族風のドレスに身を包んでいる。今は戦いより安く服を作る事業に没頭していて、かなり具体的に話が進んでいたようだ。しかし、この火星人騒ぎでおそらく事業は一時停止されるだろう。


「さっ、座って。ヴィセンテも後で来るから」


 カナはこの屋敷の主の名を出す。能力もあり立場も相まって、政府の要職に就いているユーキたちのよき理解者で心強い味方だ。



「ノワールの冒険者?」

「そうよ! 明日発売される新聞。ウチには早刷りが来るのよね」


 唐突に話題を振ったカナは新聞を差し出す。この世界には原始的な印刷技術が存在した。


「ユーキが大活躍した記事が載ってるわ!」

「ほーー、これがユーキなのか」


 机に置かれたその新聞を三人で覗き込む。一面には文章と、活劇のようなユーキの大きな挿絵が印刷されている。この世界での絵師にはこんな仕事もあった。トライポッドの絵は当然ない。


「ノワールが我が国に進撃する三本足の怪物を見事撃破! ユーキは有名人ね」


 カナは大袈裟な声色で見出しを読む。ギルドでまとめたトライポッドの報告書はカナも読んでいるはずだ。


「止めてよ。だいたい僕が倒したんじゃないし」

「まあ、最初の情報公開としちゃあこんなもんだろ。不安ばかり煽っても世の中が混乱するだけだ」


 シンヤは新聞を手に取り、文字を目で追いながら話をする。


「そう、そう。読み物としても面白いしね。内容はほぼ事実だし」

「だけどフレイトス側からクレームがつかないのかなあ……」

「その辺も調整済みだろう。今は情報を公開しつつ国民に不安を与えない。倒した事実が重要なんだな」


 記事を読み終えたシンヤは新聞をテーブルの上に置いた。


「プロパガンダ、宣伝だよ。魔族との戦争が終わったと思ったら、また新たな脅威の登場だ。少しは明るい話題が欲しいんだろう」


 ユーキもその新聞を手に取り内容に目を通す。


 トライポッドは大型で新種の幻獣兵器と解説されている。混乱を狙っているテロリストが放っていると断定されていた。相手は火星人などと書ける訳がない。


 実際にトライポッドと差し違えた竜を使う少女の姿を思い出し、ユーキは申し訳ない気持ちになる。



 扉がノックされ皆が慌てて立ち上がると、この屋敷の主人が顔を出す。後ろにはお茶のワゴンを押したメイドと、ケーキが乗ったトレーを持ったメイドが続いた。


「皆さん、おそろいですね」

「今、ノワールの話をしていたのよ」


 彼がトラスツゥール・レ・ヴィセンテ。戦場でカナをみそめた、この家の若き当主だった。父と兄は王都にいて、彼がここイヤーフェウス周辺の領地を治めているのだ。


 それ故にカナは結構気が楽で毎日わりと自由に過ごしている。舅も小姑もいないのだから当然だった。


 メイドたちがお茶を入れてケーキを配る間、ユーキとシンヤはヴィセンテと挨拶を交わし、そして皆は押し黙る。恭しく礼をした二人のメイドの退出を待って、カナが話を再開した。


「ホント、大変な事になったわね……。この世界には核ミサイルなんてないし……」


 口元に拳を当て、深刻な顔をしながら話をするカナは、シンヤと同じでこの脅威が現実の世界からやって来た日本人だ。


「……実は私、前の世界ではけっこう興味があって調べていたのよ。もちろん趣味の範囲で、色々と噂レべルの話だけどね」

「どんな話?」

「焼き払った異星人の前進基地の規模から推察する全兵力よ」

「どの程度なの?」


 シンヤは興味がなかったので、あまり知識はないと以前言っていた。小説を読ユーキはそれ以下だ。


「トライポッド千脚程度と予測していた人もいたわ」

「千脚?!」

「あいつもそれぐらい知っていて、言わなかったんだな」


 シンヤは少しだけ苦々しい表情をする。不確定な情報を話さないはクリフォードの性格のようだ。


「あいつって?」

「フレイトス連邦でこの件に係わっている転生人だ。そいつ、前は国家レベルでこの件に携わっていたような口ぶりだったな」

「そう……、どこの国の出身なのかしら? ちょっと引っかかるわね」

「当然イギリスだろうな。何が引っかかるんだ?」

「前の世界で火星人に協力していた地球人類の噂があったのよ」

「まさかあ! そいつがそうだってか? ユーキの世界ではどうだった?」

「そんな話はなかったけどなあ。彼は信用できると思うよ」

「そう、二人がそこまで言うのなら、問題はなさそうね。ただ実際にそんな人間がいるかもしれない。注意するにこしたことはないわ」

「ああ」


 シンヤは頷いてから話題を変える。


「そいつは、今回来たのは偵察型で、他に重武装型や大型もいるかもと言っていたが……」

「私たちの世界では偵察の段階で奴らは全滅したから。他にもっと強力なのがいても不思議はないわね。噂でもそう言われてた……」


 別の世界から来たユーキは少々蚊帳の外だったが、共通する疑問が口をついた。


「小説じゃ火星人は細菌、ウィルスで死んだんだけどな……」

「俺たちの世界でもそうさ。それで火星に核ミサイルを撃ち込む時間が稼げた」


 シンヤの言葉にカナは頷き、カナから話を聞いているであろうヴィセンテもまた頷いた。


「だけどなあ、この世界で風邪なんかにかかるヤツはいない……」

「うん……」


 ユーキも異世界の状況を理解はしていた。この世界は人間に有害な細菌やウィルスを、魔法の力で浄化してきた清浄な世界なのだ。


 公衆衛生から外科、内科医療。精神の病に至るまで、全てに魔法が有効に治療を施していた。


 皆は口をつぐんで深刻な表情になる。


「この世界は火星のタコどもが、やりたい放題できる世界なのさ」


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