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第十四話「水晶の卵」

 しゃがんで胴体の下を見ているユーキが、何やら見つけて質問をする。


「これは……、噴射ノズル?」

「ああ、個体燃料ロケットだ。カートリッジを三つ搭載している」

「飛べるのか……、なぜ最後、これを使わなかったのかな?」

「あの時点で使い切っていた」


 ユーキが会敵するまでの、フレイトス連邦の攻撃がいかに執拗だったかを表していた。


「使い終わったカートリッジは排出される。銃と同じだ」

「しかし、見る限り俺たちにもなんとなく理解できる技術でほっとしたよ。核は別にして……。魔法の方が俺にとっては不可解だ」

「確かに……」

「しかし、これなら俺たちにも撃退できるんじゃないか?」

「無論だ。相応の犠牲を出せばな……」


 クリフォードたちは多大なる犠牲を出しながら、それを実践してみせた。


「これから()()()をどうするのですか?」

「有効な対抗策の研究だ。()()()を首都近郊まで運ぶには時間がかかる。ここでやった方がいいな」

「こんな森の中で?」

「街を作り研究施設ごと引っ越すさ」

「街をここに作る?」

「ああ、長い戦いになる……」


 クリフォードは空を見上げ、遠くを見るような目になった。


 三連装の個体燃料ロケットで三回、十キロ程度を飛行する。姿勢制御用の安定翼を何枚か持つ。


 細い三本の足に、補助する為の二本の大きな触手、頭部には逆三角形の装甲、細い無数の触手が本体の下部から湧き出ている


 細い方の触手は生物的であり、昆虫のような触覚も幾つか混じっているらしく、センサーとしての機能があるそうだ。


 一つの巻き取り機に数十本が取り付けられ、その束を結束していたスパイラルチューブが引き戻さるとバラける構造となっている。足元まで伸びたその束が、人間の体に突き刺さり持ち上げ、そして血液を吸い出す。


 熱線は出力調整が可能らしい。


「しかし、こいつらはこの星が、魔法の世界だと知っているのだろうか?」

「どうかな? こいつは偵察型だと思う。ある程度の情報は母船に送っているだろう……」

「母船があるのか?!」


 シンヤが思わず声を上げるが、ユーキは言葉が出なかった。魔法世界の星を惑星間飛行する宇宙母船が回っているのだ。


「やつらの人工衛星がこの星を回っている。中継用の通信衛星が二基。母船も二基だ」


 そして、クリフォードは空を指さした。火星人の本体はこの指の先にいる。


「こいつには操縦席はない。静止軌道上からの遠隔操作と人口知能で動いていたようだ。当然衛星と交信していただろう」

「後方の司令部は空の上か! 手も足も出せないって訳だ」

「昨日、こいつが使った大気圏突入用のカプセルを、かなり奥の山中で発見した。状況から見て、そこで一発目のロケット燃料に点火したようだ。しばらく地上を進み二度目の点火で一気に街の近くまで進出した」

「そのカプセルはどんな……」

「ただのがらんどうだったよ。補給物資などはなかった」

「こいつは使い捨ての偵察ドローンみたいなもんか? それでこの威力か……。うーーん、俺たちのいた世界と、この世界の時間軸が一致しているとは思えないけど……、もしこれが……何て言うか、俺らが経験した何十年後かの進行だったら――今回のヤツらは増強されているってこともあるのかな?」


 シンヤはどう説明してよいか悩みつつも、ある疑問を提起する。


「可能性は高いな。私たちの経験した進行は直接火星からやって来た。母船などなかったからな」

 現実の火星人襲来を知る、二人の予測を越える未知の進撃がこれから始まるのだ。シンヤは天を仰ぐ。

「参ったな……」


 クリフォードとシンヤの会話を聞きながら、ユーキは唐突に先日見たある物を思い出す。


「この星……、この世界のことはやつらに筒抜けだよ……」

「どうしたんだ。ユーキ?」

「あれは水晶の卵だ!」

「何だよ、突然?」

「水晶の卵?」

「そう、あれは水晶の卵だったんだ」


 ユーキの発言に、二人は首を傾げて怪訝な顔をした。


「……もしかして知らないの?」


 ユーキは、それは火星から送り込まれた通信装置で、こちら側の情報を得る手段となり、地球の人間を洗脳することもできたと説明する。そしてイヤーフェウスの骨董屋でそれらしき物を見たことを付け加えた。


 どうやら彼らの世界、実際に火星人が襲来した世界では、水晶の卵はないらしい。


「私は全ての情報にアクセスができなかった。その卵とやらは我々の世界にもあったのかもしれないが……」

「あの店にそんな物があったのか。まずいぜ! もし国中の貴族がそいつを持っていたら……」

「我が国にもあると考えた方が妥当だな……。伝令を走らせよう。シャノンっ!」


 クリフォードが手を上げると、遠巻きにこちらを伺っていた女性の兵が駆け寄って来た。


 クリフォードは少し言葉を濁しながら説明する。ユーキたち聞かれるとまずいこともあるようだ。


「具体的に説明してくれるか?」


 シャノンと呼ばれた女性は知的な表示でユーキを見つめる。


「はい、大きさはこれぐらいで、透明で卵型。砂漠のような景色が映っている場合が多いです」


 ユーキは両手で具体的な大きさを示す。


「サバク?」

「ああ、一面赤茶けた砂と岩石の風景だ。空も赤い」


 この大陸には砂漠がないのでクリフォードが火星の砂漠をシャノンに説明し、これからの指示を出す。


「貴族院の高位からだ」

「はっ!」


 シャノンは敬礼をして小走りにこの場を離れた。


「やっかいなことになってきたな。人を操る火星の通信装置か。対抗策も考えねばならない。しかし今にして思えば確かにそんな兆候はあったな……」

「えっ、それはどんな?……」

「我が国に、魔族との講和に強硬に反対を唱える貴族たちが何人かいた。彼らは軍を扇動して革命の準備を始めた」

「どうしたんですか?」

「全員捕らえたよ。遠隔地に幽閉している。島流しだな」


 イヤーフェウスでも、貴族を中心にかなりの数が出回っているかもしれなかった。幸い不穏な動きはなかったが、最優先で回収しなければとユーキは思った。



 その後もクリフォードの説明がいくつか続き話は終わった。


「何か意見はあるか?」

「母船が上にあるのなら、トライポッドは他にも降下を始めるか……」

「もちろんだよ。このままでは終わらない」

「問題は次がどこか? なんだろうけど……」

「先日、魔族の支配地域に一体降下した」

「えっ!!」

「魔族の??」


 叫ぶように声を上げるユーキとシンヤとは対照的に、クリフォードの表情は意外に冷静だ。


「あちらも撃滅に成功したよ」


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