第十三話「侵略機械」
フレイトス連邦共和国からアーヴィア王国に対して、正式に情報提供の申し出があった。トライポッドの残骸、鹵獲品の見分である。
しかし条件はかなり限定的で、現地に赴けるのはユーキと、そしてもう一人の転生人と限られた。選ばれたその一人は当然シンヤだ。
フレイトス側で倒れれば、それはフレイトスのモノ。国境を越えてアーヴィアが犠牲を払えば、アーヴィアのモノ。そんな些末にはこだわらないとクリフォードは言っている。
二人に限定されたのは混乱を避けるためなのだろう。異世界の人間に、まだ宇宙戦争は理解出来ない。
当日二人は東のギルドで待ち合わせをして、この問題の担当官から説明を受ける。任務は情報の収集だ。フレイトス側は――おそらくはクリフォードなのだが全てを公開すると言っているそうだ。
二人は屋上までの階段を上がりながら話をする。
「報告書で知っていると思うけど、フレイトス連邦の戦いぶりは凄まじいんだ。人や竜の命なんて、使い捨てぐらいにしか考えない場合もあるようだよ」
「時代だな。ここは中世のような場所だよ」
「僕たちの世界じゃ考えられない……」
「あの国は長い間、魔族の正面で戦争をしてきたからなあ。気合いが違うんだ」
「うん……、魔族って、何なのかな?」
「人間には違いないよ。この世界では分けられているけどね」
「人間か……」
ユーキとシンヤは、第一次フレイトス戦役跡と呼ばれている場所へと飛んだ。
◆
上空から見るあの場所は随分変化していた。木々は伐採され道路が作られ、テントと木造の建物、柵と門が見える。
二人は門の外へ降り、書類を見せて中に入った。門兵は木造の建物を指さす。
「おっ、来たか、ユーキ。それと……」
クリフォードは打ち合わせ中であったが構わず椅子から立ち上がりる。
「彼は同じ転生人のシンヤです。僕よりも早くこの世界に来ています」
「シンヤです。俺は現実の方から来ました」
クリフォードは前回の鎧とは違い軍服姿だったが、やはりその意匠は高位を感じさせた。
「うむ、クリフォードだ。早速だが行こうか」
「はい」
ユーキとシンヤは先行するクリフォードに続く。
トライポッドは倒された場所に今もあった。しかし、竜の肉片や土塊は取り除かれ、本体から千切れた一部のパーツは木の台に乗せられ、見やすいようになっている。
「こいつらが来ることを予測していたんですか?」
ユーキは以前からの疑問を最初にぶつけた。
「予言の魔法だよ。魔族の中にかつてそのような力を使う魔導士がいた。それが記録として残っている」
「予言? 知ってる?」
「いや……、初めて聞いたよ」
ユーキの問いにシンヤは首を横に振った。クリフォードが続ける。
「その男の名は預言者ハーバー・ジョー・ウエールズ……」
「小説の作者に似ている名前だ……」
冗談みたいな話だとユーキは心の中で思った。
「そいつが死んでから、魔族に転生して予言したってか?」
「クリフォードの世界では、その作者は何をやっていたんですか?」
「あいにくと私の記憶にその名はない。似通った名もな……」
「俺も知らない。ユーキの世界では小説家として名を馳せたけど、俺たちの世界じゃ無名の人物だった訳だ」
「ユーキ、小説の世界でトライポッドは何体来たんだっけ?」
「十体以上だと思うけど……」
ユーキは小説を読んでいなかったので、ネットで多少の情報を得ただけの知識しかなかった。
「そうか、俺の世界でもそんなもんだったけど……」
「十三体だな」
とクリフォードが断定する。ユーキの世界では宇宙戦争は小説の世界だったが、彼らの世界ではそれは現実に起こったことだ。情報の統制は行われていたらしいが、小説と現実とでは人々の興味、真剣度が違う。
その平行世界では、米ソの核開発、宇宙開発競争は人類が月を目指すそれではなくて、火星に水爆ミサイルを撃ち込むための競争だった。
互いの国を攻撃するとの疑心暗鬼から、冷戦と呼ばれた関係の時代もあったが、最終的に二国は協力し数十発の核が火星に設けられていた異星人の根拠地を焼き尽くす。他の歴史は大差なかった。
「この銀色のボディには何の意味があるんだ? 森の中で目立ってしょうがないだろうに」
シンヤが鏡のような装甲板に顔を近づけて話題を変えた。
「主装備の熱線、ヒートレイの防御だな。熱線を反射させるんだよ」
「つまり鹵獲される事も考えていると?」
「いや、戦車は自身の砲弾の直撃に耐えられる――、程度の認識と同士討ちを想定しているのだろうな……」
クリフォードが持って来た指示棒で銀色の装甲を叩くと、意外にも軽い音がした。
「このミラーはコーティングだ。複数の金属装甲板とセラミックの複合装甲。砲口兵器の各種弾頭にも対応している」
「つまりこの世界の大口径の銃や大砲程度は簡単に防げるのか……」
「魔法の攻撃も熱や光系は通じない」
「僕の剣は数センチ手前で弾かれました。あれはいったい……」
「うむ、鉄器を弾く磁力なようなものを発生させているとは思うが……不明だよ。内部の機器類は自爆装置で焼かれているんだ」
それならばあの、高空から落下した鉄塊を、多少のへこみで弾いたのも頷ける。そして彼らは一定の破損で自爆し、自らの機能を停止させるのだ。
「動力はどうなっているんだ?」
「合金の骨格を取り巻く、有機体の筋肉組織を装甲が覆っている。甲殻類や昆虫と、人間型のハイブリットだよ」
「有機体の動力……、つまり生物と同じようにエネルギーを補給していると?」
「そうだ。やつらは動物や人間を食うんだ。我々の世界に来たヤツと同じだ」
クリフォードは剥き出しの脚部機構を指す。
「主要な関節は内臓モーターでも駆動する。そして熱線、ヒートレイも電力だ」
「まさにハイブリットだな……。人体を改造するってアイデアはよく聞くが、これは機械の体に生物の部位を移植しているのか……」
シンヤは呆れたように言う。そもそもどうやってその二つが繋がって――融合させているのかユーキには理解不能だ。
「はっきりとは分からんが、コンピューターの中に干からびた生体組織があった。脳組織だったようだ……」
「呆れる……、ほんとうに呆れるよ。そこまでの技術がありながら、やってることは侵略か!」
シンヤは大きく首を横に振る。
「続けるぞ。大電力を蓄えるバッテリー、液化した水素のタンクに予備の小型発電機。熱線に使うであろう電力を、一時的に貯めて放出する大型のコンデンサーが二基」
指示棒でそれらしき場所を叩きながら話すクリフォードは、前世からも含めてトライポッドの構造を熟知しているようだ。
「液体水素? 低温の? 電力の発生源はそれか!」
「常温でだ。何らかの触媒を使っている。それからここが一番の問題なのだが――」
クリフォードは珍しく勿体をつけている。ユーキとシンヤは次の言葉を待った。
「――核反応炉を装備している……」
「「えーーっ!」」
二人の驚きの後、しばしの沈黙が場を支配した。ユーキもシンヤにしても想定外の動力設定だ。
「常温核融合か……」
「ああ、このサイズでだ。恐るべきテクノロジーだよ。詳細は私にも分からない」
「大丈夫なのかな? 再臨界とか……」
「液体水素のバルブは閉ざされ停止状態だ。緊急停止させる装置のようなものもある。魔法で透視したが完全に沈黙しているよ」
「まあ、やつらだってその辺は考えて作ってるんだろう。攻撃されるたびに暴走していたら兵器として失格だしな」
「現実世界では、この部分は全て回収され永遠の機密とされたのだ……」
クリフォードは悔しそうな顔をして呟く。初めて見せる表情であった。




