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第十一話「二つの現実」

 指揮官らしき男が指示を出し、その周囲を魔導士、魔法使い、軍の士官たちが取り囲み輪を作っていた。


 火災が発生した森では既に多くの兵が木を切り倒し、延焼を防ぐための作業が始まっている。魔法を使い麦畑の火災も消えつつあった。


 素晴らしい手際のよさだとユーキは驚き、地上に下りたつと自然にその輪が開かれ四人は中心へと進んだ。


 顔を覆うか、うつむく魔法使いたちの中にあって、一人だけ目を見開き正面を見据えたまま、とめどなく涙があふれている少女がいた。自爆した竜の使い手だ。この歳では幼い頃から姉妹のようにあの竜と育ってきたのであろう。


 彼女が自爆攻撃を指示し、竜もそれに答えたのだ。竜使い(ドラゴンテイマー)は、共に成長する信頼関係で竜のパートナーとなっている。


「アーヴィア王国の偵察隊か……」


 その指揮官らしき壮年の男の前にユーキは進み入る。


「あのような作戦をよく平気でとれますね」


 ぶしつけな第一声に場がざわつくが、ユーキは言わずにはいられなかった。


「心外だな。国境線を突破させないで、我が国の中で撃破するのが一番の目的だったのだよ」

「しかし……」

「私の名はクリフォード……」

「僕は冒険者のユーキです……」


 クリフォードと名乗った男は、銀色に金の装飾が施された鎧に身を包み、下げている剣も上等である。フレイトス連邦共和国の中でも、かなり高位の人物のように思われた。


 周りを固めている部下は、修羅場を潜り抜けて来た独特のオーラを放ちつつ、ユーキに視線を送り値踏みする。


「転生人を送ってもらえたのはありがたいが、たいした戦力にはならなかったな」

「ぐっ!」


 ユーキは一言も言い返せない。事実そうだったのだ。そして役立たずであっても、身勝手であっても言わずにはいられなかった。


「ユーキと言ったな。こちらへ来い」


 クリフォードは戦死者、怪我人の移送、部隊の撤退順、街道までの道路整備、の指示など出してからトライポッドへ向かって歩き出す。ユーキは後に続いた。



 二人は未だ燻っている残骸と、竜の遺骸の前に立つ。


「このトライポッド。貴様のいた世界ではどちらだった?」

「! ――小説の世界です……」

「そうか……、私が生きていたのは現実世界の方だったよ」

「そうですか……。僕の仲間たちも現実の世界の方でした」

「あちらで六十五歳まで生きて、こちらに二十歳に転生した。前世もこいつらの研究をしていたよ。そしてこの世界でもな」


 クリフォードは破壊されたトライポッドに目をやって話を続ける。彼の今の年齢は四十歳ぐらいだろうかとユーキは思った。


「今日見たことは全て貴国に報告してもらっても構わない。それ故に越境を許可したのだからな」

「はい、あなたたちの戦い方も?」

「無論だ。こいつに対してとった戦術も全てだ」

「僕らの国はあんなふうに、人間や(ドラゴン)の命を軽視した戦い方はできません」


 ユーキの言葉を聞いてクリフォードは口元を歪める。


「ふんっ。我らは魔族領と国境を接して長く戦ってきた。後方で戦争をしてる()()()だった貴国に理解してもらおうとは思わんよ」

「そんなっ! 知り合いの婚約者も戦死しています! そんなことは……」

「中には我が国のために、命を投げ出してくれた兵もいるだろう。ただ常に激戦地への援軍要請を断ってきたのもまた事実だよ。魔族との和解を最後まで渋ったのも君たちのような国だ」


 突きつけられたいくつもの事実の前に、ユーキの反論は粉々に打ち砕かれる。


   ◆


 ギルドに帰還したユーキたちは隣接する宿舎に軟禁状態となり、個別に調書――、聞き取り調査の対象となった。これは特別なことではない。その名の通り聞き取りと記録、そして質問、内容の突き合わせ。最後に守秘義務の説明が行われるのだ。


 ただ今回の件で、ユーキの前世の情報を三人に限り話すことが解禁された。全員でことに当たらねばならない緊急事態なのだ


 最後は四人で会議室に移り、政府、ギルド、軍の高官と思われる数人の前で、映像魔法を使える魔導士がユーキたちの記憶から、戦いの有様を空間に映し出す。


 それはあの生々しい戦闘記録だった。フィローラたちが見ていた映像も映された。彼女たちが凄惨な現場を目撃して目を背けているのがよく分かる。


 ユーキにとって意外だったのは高官たちの反応だった。呻き、唸り、小さな声を上げはするが、この地球外生命体の侵略を目の前にした反応としては、不思議なほど落ち着いていた。


 彼らは知っていた。そして予測していたのだ。ユーキはクリフォードの言葉を思い出す。


「――前世もこいつらの研究をしていたよ。そしてこの世界でもな」


 既にこの国の一部の人間にも、この敵の情報は伝えられていたようだ。そして命がけで国境線を死守したのはフレイトス連邦側だ。この国にとっては大きな借りができたのだ。



 夕刻に聞き取り調査は終わり、軟禁状態のままそれぞれには部屋があてがわれた。ユーキの部屋にフィローラがやって来る。


「今日は御苦労様でした」

「うん、お疲れだったね。どうしたの?」

「これから世界はどうなってしまうのでしょうか? マリエッタとフィリスも不安がっています」


 無理もなかった。あんな怪物機械を見れば、この世界の人間からすればこれが自然な反応だ。フィローラも顔には出さないが、内心混乱しているであろう。今日は死を見過ぎた。


「そうだね、僕のことをもう話してもいいんだな。君たちの部屋に行こうか」

「はい」


 部屋には心配そうな顔のユマリエッタとフィリスが待っていた。そしてユーキは転生人として知っている情報を話す。


「僕とシンヤは同じようで少し違うんだよ」


 三人は不思議そうな表情で首を傾げる。


「僕はあの機械が小説の中、つまり空想の産物としてあった世界に生きていたんだ」

「空想ですか?」

「そう、そしてシンヤがいたのは実際に奴らが来て、人間との戦いになった世界なんだ」

「同じ世界ではないのですか?」

「厳密には違う世界だけど、それ以外は全く同じ世界のようだ。信じられないかもしれないけど微妙に違う異世界から、人々はこの世界に転生して来ているんだよ」

「シンヤさんの世界はどうなったのですか?」

「奴らは全部倒された。人類は勝利したそうだ……」


 皆の間にホッとした空気が流れる。しかし、どのようにして奴らを撃退したかは、ユーキは説明できなかった。それはこの世界では絶望を意味しているからだ。


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