第十話「激突の転生人」
それは知っている空想の科学兵器に酷似していた。頭でっかちの上部に触手と三本の足。全体が銀の反射面で覆われているのは、同種の兵器との対決を想定する、との常識を踏まえているからだ。
加速したユーキは一瞬音速を超え、防護衝角が衝撃波音を発し轟音が周囲に鳴り響く。
一瞬で間合いを詰め、手前でポップアップしたユーキは直上から凶悪な剣を振り下ろした。それはトライポッドの上部装甲を激しく叩くが、刃は数センチメートル手前で止まり、障壁の青い刃は空を切り裂き回転しているだけだった。
「シールド?」
新たな脅威、ユーキの出現に、トライポッドは触手の先端に取り付けられている熱線の発射装置を照準する。
ユーキは後方に飛び退いて、ジグザグに機動しながらトライポッドと距離を取った。透明な水晶の障壁が展開され三、連射された熱線の二つを防ぐ。
「これならどうだっ!」
ユーキが剣を振りながら水平に一回転すると、剣からチェーンソーの青い輪が飛び出しトライポッドに向かう。熱線に迎撃され火花を散らしながらも輪は機体を直撃し、トライポッドは一瞬ガクリと体勢を崩すがすぐに立て直す。
「まだまだっ!」
輪は変形してトライポッドにまとわりつき、その体を回り始める。さしたるダメージは与えられないようだが、無数に蠢く触手は動きが制限されているようだ。
「くそっ!」
ユーキは敵に向かって空中を突進し、剣を何度も叩きつけた。向けられる熱線砲口を避け、周囲をまるでハエのように飛び回りながら攻撃を繰り返すが、トライポッドはさほど意に介さず進撃を続ける。
戦場は森へと移った。太い触手を振り回し、長い前部の足を突き出し、木を薙ぎ払いながら銀色の巨体は、人間たちの抵抗をあざ笑うがごとく突き進む。
ユーキは森の中へ入り、本体ではなくせめて一矢とばかりに触手に攻撃を続けた。国境線は近い。
木々の間に張られたロープがトライポッドの足を絡めとると、隠れていた兵たちが再び生身のゲリラ戦術で対抗を始める。それぞれが太いロープを抱えトライポッドの足に絡める。ロープの端は大木に結ばれていた。
うるさいとばかりに触手を振り回し、熱線を地面に向けて乱射すると兵たちは蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
突然トライポッドはガクリと傾く。一本の足が落とし穴に落ちたのだ。あがくもう一本の足もまた、別の穴に取り込まれた。
「転生人よ、その怪物から離れるのだ。こちらの攻撃に巻き込まれるぞっ!」
フレイトス軍の指揮官らしき精神感応を受けたユーキは、トップスピードで引く。
「あれが攻撃?」
高空に出現した飛竜の編隊が、横滑りしながら次々に緩降下を開始した。
身動きがとれないトライポッドはそれには気づかず、熱線で仕掛けられている罠もろとも周辺の森を焼き払っている。
飛竜の降下角度が垂直に近くなり、腹に抱えている長くて黒い矢のような物体が切り離される。無数の急降下爆撃がトライポッドに迫った。
「あんな攻撃方法が!」
第一弾がトライポッドのすぐ脇の地面に突き刺さるが、爆発はしない。質量による物理攻撃のようだ。気が付いたトライポッドは上空に向けて熱線を乱射する。
次々に降り注ぐ鉄塊は魔法によって微妙に軌道を変えているようだが、直撃を喰らい一部が溶けた矢は、バランスを崩して不規則に回転を始める。
コントロール不能となって周囲に降り注ぐ鉄塊だが、一部はまだ健在でトライポッドをかすめて落ちる。
そして、ついに一弾がトライポッドの最上部装甲に激突した。
「当たった!」
三脚のサスペンションが限界まで沈み込み、関節は衝撃を吸収するように曲がる。しかし湾曲している頭部は若干のへこみを見せただけで、矢は弾かれ地面に転がり落ちた。
「あれでダメなのか……。えっ? あっ!」
落胆するユーキは異様な気配を察して森の奥を振り返った。
木々の先端を揺らしながら一匹の飛竜が迫る。超低空飛行で魔法の力にアシストされながら、猛スピードで突っ込んで来た。
「特攻だと!?」
ユーキはその意図をすぐに察した。
竜はそのままトライポッドに激突し、両者は地面に倒れ込む。一体を一匹が抑え込み、何本もの触手が竜の排除を試みる。熱線が発射体制を整えたその刹那、竜が腹に抱えていた黒い物体が白く光って爆発した。
「自爆攻撃……」
爆風が放射状に木々をなぎ倒す。竜の肉片と引きちぎられた触手が飛び散って血飛沫が舞う。ユーキの体には無数の血糊が付着し、火薬の煙と巻き上がった土煙が視界をふさいだ。
「こんな戦い……」
そう呟きながら、ユーキは頬に付いた血を袖で拭った。
しばらくすると全容が見えてきた。竜の首や翼、尾は引きちぎられ、胴体はかろうじて原型を留めているがズタズタだ。腹に抱えていた爆弾が指向性の抱き着き専用だったことを示している。
一方トライポッドは二本の足と全ての触手が引きちぎられて、丸い頭部も歪み微動だにしない。
ユーキはフィローラたちと合流するために後方の森へと飛んだ。三人は森の上ギリギリを浮かびながら、こちらの様子を窺っていた。
「大丈夫だった?」
「私たちは安全な場所にいたから……」
「何もできなかったよ……」
「私たちの……力が及ばず……申し訳ございません……」
マリエッタとフィリスは青い顔で呟く。唇を強くかみしめ、見開かれた目に涙を溜めたフィローラが震える声を絞り出す。
「君たちの責任じゃあないよ。行こう……」
ユーキがうながし四人は両者が激突した現場へと空中を移動する。辛くも飛竜の相打ちでトライポッドを撃破するも、フレイトス軍の被害は甚大に思われた。そしてユーキたち四人は偵察とはいえ、この苛烈な戦場でたいした役にはたたなかった。
「くっ……」
ユーキは両拳を握りしめる。




