神の出生について、農村の収穫祭より
今回の物語は、ある企画で書いたものです。以下の条件に従い、執筆しました。
・『秋』『女神』『りんご飴』の三つのテーマを取り入れて書く。
・文字数は1000〜4000文字の範囲内に収める。
……前にも似たような事をやった気がします。
とある農村にて、大昔から四姉妹の女神が崇められていた。近年、この農村を寒波が襲った。いや、それは果たしてただの寒波と評して良いものだっただろうか。村の全てが凍り付き、この世の終わりと言っても差し支えなかった。
そんな絶望すら凍結する中、女神達は降臨した。村人達の無意識の祈りが届いたのだろう。女神達は奇跡の力を使い、救済をもたらした。
最初に、長女の女神が現れた。長女は小さな太陽を創り出し、寒波を相殺した。一歩間違えれば滅びを誘発する劇薬の熱が、村の時を再び動かす。
しかし、枯れた植物は元に戻る事はない。そこで次女の女神は土地をリセットする事にした。神の力で機械よりも早く土地を耕して周り、大地にエネルギーを注ぎ、気付けば農地は寒波以前よりも肥えていた。
三女の女神は疲労した姉達に変わり、農作業の効率化を目指した。科学的な根拠を元に作物の育成法を村人達に提案し、三女自ら村人達に指示を出し、毎日農地を見守り続けた。
末っ子の女神は、ただ可愛いだけだった。それこそ女神級だが、それ以外は普通の少女と変わらない。それでも何か役に立ちたいと考え、彼女なりに村で取れた作物をPRする事にした。毎日村の野菜を紹介する動画をアップし続け、結果的に村の経済に大きく貢献する事となった。
村人達は女神達に大いに感謝し、その気持ちを示す為に毎年秋の収穫祭を開催する事にした。女神達の提案でこの収穫祭では各地から食材が集められ、豪華な料理の数々が作られる事となる。この祭りは大きな話題を呼び、いつしか料理と女神目当てに多くの観光客が集う様になった。
今年もまた、秋祭りがやって来る。
女神達は実の所、観光客に絡まれる事に飽き飽きし始めていた。何故、女神達の為の祭りなのに私達自身が“おもてなし”しないといけないのかと、四姉妹の女神は思い始めたのだ。
そこで、女神達は今年の収穫祭にお忍びで参加する事に決めた。観光客にバレない様に村人達にも根回しをし、変装も完璧にした。気分はプライベートのアイドルだ。
収穫祭の初日はあっという間に終わり、明日へ備える為の夜が訪れた。祭りは大いに賑わい、女神騒ぎも起こらなかったので、女神達の作戦は成功している様に見えた。だが、女神達がその夜に開いたのは緊急反省会である。
「えーと……これから、反省会を始めます」
長女が放ったその一言で、女神達は暗い表情となる。……末っ子を除いて。
「あの、お姉ちゃん達? なんでそんな暗い顔してるの……?」
「それは……みんなの話を聞けばわかると思いますので……。誰から、いきます?」
末っ子は頭にハテナを浮かべつつも、とりあえず話を聞く事にした。最初に手を挙げたのは、三女だった。
「アタイからいくよ。あれは、祭りが始まって数時間くらいの事かな――」
――◉――
アンタ達と別れた後、アタイはりんご飴を買ったんだ。屋台のヒトは、独特な発音のおじさんだったね。で、ちょっと変わったりんご飴を眺めながら歩いていたら、一人でふらついている女の子を見つけたんだ。つい心配になっちゃってね、アタイはその、変わった格好の女の子に話しかけた。
「ねぇ、アンタ。もしかして一人かい?」
「……否。私は孤独な旅人などではない。血を分けしキョウダイと共に聖域へと至ったが、私は秘宝の為に須臾の別れを決意し、そして実行しているだけだ」
数秒くらい考えちゃったね。うん。それでも全部は理解できなかったけど、何となく保護者から勝手に離れちゃったんだなって事はわかったよ。
「あー、だったらちゃんとそのキョウダイのヒトと一緒に行動した方が良いよ? 女の子一人じゃ危ないからね」
「悪いけれど、私は行かなくてはならないのだ。例え、全てを失ったとしても」
要約すると、駄々をこねられた。しょうがないからアタイのりんご飴を上げて、その上美味しいカニが出品されている所を教えて、やっと説得できたよ。その子、カニが食べたかったんだ。
それから女の子と一緒に女の子の家族を探して、割と直ぐ見つかったんだけど、ここからが問題なんだよ。
女の子に、こう言われた。
「聖域の守護者よ。民を率いてきた身として単身であった私を放っておけなかったのだろうが、己を隠すのなら他の世界にその四肢を触れさせるべきではないだろう」
多分、神である事がバレてたんだと思う。確信できないけど。
――◉――
「――しかもだよ。女の子のお兄さんの近くに、見覚えのある人が倒れていたんだ」
「……それは、私、だね」
そっと手を挙げたのは、次女だ。次女はポツポツと語りだす。
「倒れていたのは、理由があって――」
――◉――
私は、みんなと別れた後、できるだけ人のいない所に向かったわ。……その方が落ち着くから。
歩いて、歩いて、人気がなくて緑がいっぱいの場所を見つけたの。でも、そこには先客がいた……。
「やあやあやあやあ。やはり来たね来ちゃったね待ってたよ女神さん! お近づきの印にリングォ飴でもどうぞどうぞ」
警察呼びたかったけど、男はそんな隙も与えない程、言葉のマシンガンを撃ってきたわ。……りんご飴は、一応、受けとった。
「いやはやところであなた僕の妹を見なかったかな? ちっこくて軍服みたいなコスプレをした少女なんだけど」
「み、見て、ない……」
「そうかそれは仕方ない」
鼓動が、早くなってたわ。
「話は変わるが神というのは不思議なもんだよ。今どきの女神さんなら知ってるわかってるかもだけどこの世に顕現した神と呼ばれる存在は無意識の集合体だ。あなたたちは最近降臨したみたいだけどそれ以前は自我なんてなくただの情報だったんだよね。これも魔力のもたらす奇跡だ。いつかこれについて実験してみたいよ。実際あなたからは独特の魔力を感じるし変装していてもわかるヒトはわかるもんだ」
「あ、ああ、え、あ……」
そこで私の意識は途切れて、気づいたら家に運ばれていて、それで……。
――◉――
「う、うぅ……目が、覚めたら、変なのがぁ……」
「よしよし、頑張りましたね」
次女の頭を撫で、慰める長女。やがて暫くすると次女は泣き止み、長女の胸の中で寝息を立てた。
「……まあ、つまりですね。変装していても、神のオーラみたいなのを抑えられてなかったのですよ」
「……迂闊だった!?」
末っ子女神が驚き立ち上がる。
「え、どうしよどうしよ! 私も実はバレてたんじゃ!?」
「落ち着いてください。話はまだありますから」
末っ子を手で制し、長女は大きく息を吸った。そして、覚悟を決める。
「隠してた訳じゃないのですが、私、病気なんです――」
――◉――
「さっきも姉ちゃんと似た娘を見たんだが、もしかして姉妹かねぇ」
「そうかもしれませんね」
「はい、リングォ飴だよ」
りんご飴やチョコバナナなどの甘い物を買い食いして、私はお祭りを楽しんでいました。りんご飴がいちご味だったり、バナナだと思ったらりんごだったりで、驚く事が多かったですね。
一番驚いたのは、暗闇の中からペストマスクが出てきた事ですけど。
「やっと、見つけたぞ……」
黒いローブを着て、仮面越しに紫の目を覗かせる、男の人でした。
「あ、貴方は……」
「私は……医者だ。あらゆる怪我と病気を治療する医者。私は、貴方の病を診に来たのです」
警察に通報しようかと思いましたが、一応話を聞くことにしました。
「病気、ですか?」
「そうです。……貴方は顕現して間もなく膨大な魔力を使ったと聞いています。魔力の酷使は、身体と精神の両方に重い負荷を与えます。魔力で構築された存在ならなおさら」
「いや、でも、私は……」
「心当たりがあるのではないですか?」
一瞬、ペストマスクの目が光った気がして、それから、時々息苦しさを感じる事を思い出しました。それは本当に些細なものですが、年々酷くなっている事に気付き、ぞっとしました。私が言うとおかしいかもしれませんが、まるで天啓のようでした。
「今ならまだ間に合います。治療を受ける事をお勧めします」
――◉――
「――その後急にペストマスクのヒトが歩き出して、ついて行ったら気絶しているこの子がいたのです」
長女は眠っている次女を愛おしそうに撫でた。
「アタイも居たよ」
「そうですね。あまりにも取り乱していたので宥めるのが大変でした。……ペストマスクのヒトは本当に医者だった様で、この子を診てくれました。ただ精神的に疲れちゃっただけみたいですので、安静にしていれば大丈夫だと言われました。それから、その場にいた皆さんと一緒に私達の家に戻って、一度家族で話合いの機会を設けたのが今の状況です」
因みに、末っ子は既に家に帰っていて、何故か布団の上で足をバタバタさせていた。長女はその事に疑問を覚え、末っ子に尋ねる。
「そういえば、貴方は私達と別れた後どうしてたんですか?」
「えっ、えっとぉ。その……」
「その?」
「歩いてたら、イケメンにぶつかって、リングォ飴落としちゃってぇ……」
「…………」
「お詫びに美味しい物をおごってもらって、え、えっと、そのままデートみたいになっちゃって」
「………………」
「また、明日も一緒に色々巡ろうね、って……」
末っ子は顔を真っ赤にし、何とも言えない沈黙が流れた。
この農村の秋の収穫祭には各地から様々な物、そしてヒトが境界を越えて集まってくる。類は友を呼ぶと言う様に、多くのモノの中で特に奇妙なモノが彼女達に引き寄せられたのは、必然だったのだろうか。
見る場所が違えば、見えるものも違います。近くに遠い世界のスーパースターがしれっと居ても、割と気づかないのかもしれません。




