ズェラァズェラァズェラァズェラァ
ズェズェズェズェズェズェズェズェズェ……
アクションゲーム等で最速を求める場合、キャラクターの動きは度々奇妙なものになる。例えば、あるゲームではジャンプとキックを高速で繰り返しながら城を巡り、またあるゲームでは超高速後ろ歩きで草原を駆け抜ける。これらは生身のニンゲンでは再現困難な例だが、生身のニンゲンが最速を求めた動きもそれはそれで奇妙なものとなる事が多い。これはゲームにおける宿命の様なものだ。
とある緑髪の男がプレイしているゲームも、その宿命からは逃れられていなかった。
『ズェラァズェラァズェラァズェラァ――』
プレイヤーの男は無言だが、画面内のキャラクターはものすごく、うるさい。このゲームは敵を薙ぎ倒しながらゴールを目指す3Dアクションだ。男が挑戦しているのは最速でのゲームクリア、いわゆるRTAである。
まず、男が操作しているキャラクターが何故こんなにうるさいのかを説明しよう。このキャラクターはこのゲーム内で最も遅く、最もパワーがある。通常プレイではその遅さが気にならない程の攻撃力で敵を圧倒できる為、最強のキャラクターと言われている。しかし、基本的に敵を無視するRTAにおいてはパワーはあまり関係ない。スピードこそが命であり、タイムを一秒でも縮める事が正義なのだ。
それなのに男がこのキャラクターを使っている理由。それは、ゲームシナリオの都合上使わざるを得ないからだ。鈍足のキャラクターでいかに速く、早くゴールできるかがこのRTAのカギと言っても過言ではない。
『ズェラァズェラァズェラァズェラァ――』
そして、多くのプレイヤー達がスピードを求めた結果が、これである。このキャラクターには斜め方向に突進して敵を斬り裂くというワザがある。突進する距離、速度共に中々のもので、通常プレイでも回避等で使われる事がある。本来ならワザを放った後の硬直で移動手段として使えたものではないが、プレイヤー達は硬直を回避する手段を発見した。ガードキャンセルだ。
やり方は簡単で、突進をして斬撃を放つ前に防御ボタンを押すだけだ。今ズェラァズェラァうるさいこのキャラクターには「攻撃判定を発生させていない時のみ瞬時に防御でき、また瞬時に防御を解除できる」という特性があり、突進自体には攻撃判定がない為にできるテクニックだ。
ただ、連続でやるとなると難しい。スピードを求めるなら防御解除と同時に攻撃ボタンを押す必要があり、更に、突進の角度はある程度調節できるとはいえ、正面に向かってはできないので必然と真っ直ぐな道ではジグザグ移動となる。特に、細い道では壁にぶつからない様に高速でボタンを連打する必要であり、叫び声も『ズェズェズェズェズェズェラァ』といった感じになる。因みに、この叫び声には特に意味が無いらしい。
緑髪の男は順調にプレイを進め、やがて段差地帯へと辿り着いた。残念な事に、平面的にしか移動できないズェラァズェラァ移動では段差を超える事ができない。通常ならゆっくりとしたジャンプで段差を一つ一つ丁寧に超えて行くしかない。タイム的にも大きなロスは免れないだろう。しかし、緑髪の男は通常ではなかった。
実は、今使われているキャラクターにはズェラァ以外にもテクニックが存在する。仕組みとしてはズェラァと同じ様なものだ。使うのは、急上昇してからの急降下で敵を押し潰すワザ。ただこれはズェラァよりも防御のタイミングがシビアであり、三次元的な動きになる為操作も難しい。RTA走者の中でも失敗のリスクを恐れて使用しない者は数多くいる。
そんなハイリスクなテクニックに、緑髪の男は挑戦する。
まず、第一の段差の前で防御をし、ズェラァズェラァを中止する。敵が出現し攻撃してくるが、多少当たっても耐えられるので問題はない。ここで急上昇ワザを発動! 上昇の頂点に達する直前、ギリギリのタイミングを狙い防御する。上昇を中断した瞬間に落下は始まるので防御は本当に一瞬だけだ。間髪を入れずにもう一度急上昇ワザを使い、もう一度ギリギリのタイミングで防御。これを繰り返し、一度も地に足を着けずに段差を次々と乗り越えて行く!
『ズァズァズァズァズァズァ――』
斜め前へ上昇し、少し落ちてからまた上昇する姿は正に3D版ズェラァズェラァ。操作している男の手汗が止まらない。左手でスティックの方向を調整しつつ、右手で正確な高速連打。たった数フレームのズレも許されない。時に床の無い所も通りつつ、ステージ内を飛び登り、そして、時間にして僅か数十秒後。
ゴールが見えた。
緑髪の男は更に集中する。ここからが、タイムを縮める上での重要なポイントの一つなのだ。
ゴールポイントの近くには大量の爆弾が存在し、プレイヤーの邪魔をする。威力は低いのだが、吹き飛ばす力が強く、段差の下に落とされて絶望したプレイヤーも少なくない。
緑髪の男は慎重に、慎重に位置を調整し、そして、連打をやめた。キャラクターが最後の急上昇を繰り出し、そのまま急降下する。その先にあるのはゴールポイント……ではなく、爆弾だ。
『――ズァズァズァズァッチャーッ! ゲハァッ!?』
爆弾が爆発し、キャラクターがものすごい勢いで吹き飛ばされる。吹き飛ばされた先には……ゴールポイントだ。
無事に、でもないが、ゴールのファンファーレが流れる。
「よっしゃ」
男は小さくそう呟いた。休憩は挟まず、男はロード中に次のステージの攻略法を脳内で確認する。RTAとは、戦いなのだ。プレイ中は一瞬たりとも気を抜く事ができない。
その後も緑髪の男は持ち前の集中力でミスを最小限に留めつつも、難しいテクニックを積極的に使っていった。後に男が作ったこのRTAの解説動画は多くの再生数を稼ぐ事になる。
最終的な結果は、緑髪の男の最高記録だった。日々の努力が実ったのである。これ以上ない最高の結果だったと、男自身も解説動画内で語った。
その順位、一位と二秒差で四位である。
三位は開発者です。




